【深谷市ICT推進室】1年間で約300手続き。オンライン化実現の裏側
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【深谷市ICT推進室】1年間で約300手続き。オンライン化実現の裏側

2023.07.06 Thu

2022年度に目標としていた「約300手続きのオンライン化」を達成した埼玉県深谷市。デジタル変革を陰で支えたICT推進室に、計画の実現につながった取り組みについて詳しくお聞きします。

深谷市におけるDX実践のポイント

1. 戦略的な手続きの選定

全手続きを、「年間の申請件数」と「オンライン化しやすさ」の2つの軸で4つのカテゴリに分類。オンライン化を段階的に進める計画を用意した。

2. 全庁を巻き込むための工夫

人事評価の業績評価に「ICT化の推進に関する目標設定」を追加。進捗状況の見える化などにも取り組むことによって、全庁を巻き込んだデジタル変革を実現した。

3. ICT推進室の伴走

担当課がオンライン化に取り組めるよう、ICT推進室が、ほどよい距離感で寄り添いながら支援を行った。

4. 今後の展開

今後は申請率の増加に取り組み、最終的には「行かない市役所」や「書かない市役所」の実現を目指していく。


【概要】深谷市におけるデジタル化の流れ

深谷市では、2019年にICT推進室を立ち上げて以来、「いつでも、どこでも、誰でも、デジタルで便利な生活」を目指して、2021年から本格的な取り組みを始めている。2021年5月に手続きの棚卸し調査を、11月、12月には庁内研修を実施。2022年3月にはデジタル化推進計画を策定し、2022年度に300手続きを、2023年度にはさらに100手続きを追加し、全400手続きをオンライン化することを目指している。


1. 戦略的な手続きの選定

深谷市では棚卸し調査を通じて、オンライン化しやすく、効果が出やすい手続きを選定。オンライン化が段階的に進められるよう、計画を立てた。その際のヒアリング項目や、優先度付けの方法について聞いた。

(1)手続きの棚卸し

——2022年1月に1つ目のオンライン手続きを公開した後、すでに約300手続きのオンライン化を実現しています。オンライン化の対象手続きは、どのように選定したのでしょうか。

小島:2021年5月頃に実施した棚卸し調査をもとに、手続きの分類を行いました。棚卸しの際は、年間の申請件数とともに「本人確認の有無」「押印の有無」「添付書類の有無」「交付物の有無」などの項目について各課に調査しました。

各課に対して実施した調査項目。この調査内容をもとに約2,000におよぶ手続きを棚卸ししていった。


(2)優先度付け

——棚卸し調査の結果をもとに、どのように優先度を付けていったのでしょうか。

小島:「年間の申請件数」と「オンライン化のしやすさ」の観点で、4つのカテゴリに分類して優先度を付けました。年間申請件数が多く阻害要因が少ない手続きについては、実現しやすいうえに効果が見込まれるため、ステップ1に分類しています。

企画財政部 ICT推進室 室長補佐 小島 拓也氏

一方、申請件数が少ない手続きや阻害要因が大きい手続きについては、ステップ2からステップ4のいずれかの段階での実現を目指しています。

「年間の申請件数」と「オンライン化のしやすさ」の2軸で優先度を付けた。


2. 全庁を巻き込むための工夫

デジタル変革を進めるうえで欠かせないのが、職員の巻き込みだ。深谷市では、進捗状況の見える化をはじめとした、さまざまな手法を組み合わせることによって、担当課の職員が主体となってデジタル化に取り組めるような環境作りに取り組んでいる。

(1)オンライン化進捗状況の「見える化」

深谷市では定期的にオンライン化の進捗状況を調査し、調査結果を全庁に共有している。

——オンライン化の進捗状況は、どのくらいの頻度で確認しているのでしょうか。

長谷川:2022年度は、オンライン化の進捗状況を、9月、12月、3月末時点の年3回、全庁を対象に調査しました。ステップ1からステップ4までに分類した手続きのオンライン化が予定通りに進んでいるのか、進捗状況を見える化して結果を全庁に共有しています。

——全庁への共有はどのように行っているのでしょうか。

稲村:進捗の結果は、部長職の会議で共有しています。定期的に可視化することによって、状況をより横断的に把握することができます。進捗の芳しくない手続きがある場合に、問題点が早期に発見できるメリットもあります。

企画財政部 ICT推進室 ICT推進係長 稲村 直之氏


(2)ICT推進員の配置と、定期的な研修

デジタル変革を開始するタイミングで、いくつかの研修を組み合わせて実施。現場に寄り添った丁寧な研修を行うことで、職員が自立してデジタル化に取り組めるようにした。

——調査では、行政デジタル化を進めるうえでの課題の一つがIT人材不足であることが明らかになっています(※)。深谷市ではオンライン化のための人材育成に関して、どのような取り組みを行っていますか。

長谷川:深谷市では、オンライン化の推進に向けて、大きく分けて3種類の研修を実施しました。1つ目が各課に配置しているICT推進員向けの研修、2つ目が担当職員向け研修会、3つ目がグラファーの合同研修です。

(※)出典:2022年度「行政デジタル化 実態調査レポート2022


① ICT推進員向けの研修

——まずは、ICT推進員向けの研修内容について、詳しく教えてください。

長谷川:ICT推進員向けの研修は、各課のICT推進員を対象に、オンライン化の必要性やノウハウについて、外部講師を招いて紹介する研修です。研修内容としては、オンライン化を成功させるために意識することや、DXによる今後の業務への影響、深谷市のDX化の方針、オンライン化の事例について取り扱いました。

——ICT推進員には、どのような役職の職員を配置しているのでしょうか。

稲村:ICT推進員としては、課長補佐職の職員を配置しています。管理職級の目線からデジタル化の重要性を職員に伝え、現場をリードしていくことによって、各職員がより一層デジタル化を推進しやすいようにする狙いがあります。


② 担当職員向けの研修会

——次に、担当職員向け研修会の内容について、詳しく教えてください。

長谷川:担当職員向けの研修会は、ICT推進室が独自に実施している、担当課の職員を対象としたハンズオン形式の研修(※)です。

(※)ハンズオン形式の研修は、講師の説明や指導を受けながら実際に操作する演習形式の講習会です。

企画財政部 ICT推進室 主査 長谷川 美子氏

研修内容としては、電子申請システムである「Graffer スマート申請」を使って、実際にサンプルの申請を作成してもらうという内容です。各職員が操作を体験し、不明点があった場合には、その場でICT推進室がサポートしました。2022年度は、人事課の実施する2年目職員向けの研修にも内容を取り入れており、2023年度も引き続き同様の研修を行う予定で準備しています。

——担当職員向け研修会の反響はいかがでしたか。

長谷川:研修会への参加を通じて、オンライン申請の公開につながる事例が複数あったため、よい効果が出ていると考えています。

——研修会ではどのような点を工夫しましたか。

長谷川:初めてオンライン化に取り組む職員が、簡単に理解できるように、極力ゆっくりとしたペースで、丁寧な研修を心掛けました。研修会の中では、「マニュアルを確認しなくても、直感的に作業ができる」ということも伝えています。

また、研修会の前のタイミングで、オンライン化の進捗状況を全庁に共有することで、参加する職員の目的意識や意欲が高まるように配慮しました。


③ グラファーの合同研修

——グラファーの合同研修は、電子申請システムなどの使い方・活用事例を紹介するオンライン型の研修です。深谷市では、合同研修をどのように活用していますか。

長谷川:2022年度6月に庁内の会議室を確保して、グラファーの合同研修を集団で受講できる場を設けました。オンライン研修のため、本来は各自の座席で受講することもできますが、業務で呼び出されてしまうようなケースもあると考え、場所を設けることで集中しやすい環境を用意しました。

開催日の周知については、イントラネットに掲載しています。定期的に開催されるため、各職員が都合のよいタイミングで参加できます。合同研修以外に、時間を気にせず受講できる動画研修も用意されているため、イントラネットであわせて周知しています。


(3)人事評価に「ICT化の推進に関する目標設定」を追加

——人事評価に、どのような内容を追加したのでしょうか。

稲村:人事課の取り組みとして、人事評価の業績評価にICT化の推進に関する目標設定を追加しました。オンライン申請、RPA・AI-OCRの活用、オンライン会議の推進など行財政運営の一層の効率化を図ることを評価しています。

——評価項目への追加によって、どのような影響がありましたか。

長谷川:目標の設定や、評価基準の可視化によって、職員一人一人がデジタル化に取り組んでいくことがより明確になったのではないかと感じています。


(4)全職員が使用する「年末調整」のオンライン化

年末調整のオンライン化によって、全職員がオンライン申請を体験することとなった。オンライン申請を実際に体験することによって、より具体的にイメージを持つことにつながった。

——どのようにして、年末調整のオンライン化を進めたのでしょうか。

稲村:人事課が中心となって、「Graffer スマート申請」を利用した年末調整のオンライン化を進めました。人事課の方針で、パソコンやスマートフォンなどのデバイスを持っていないなど、物理的に不可能な15人をのぞいて、すべての職員をオンライン化の対象としたことによって、ほとんど全ての職員が、オンライン申請を体験することにつながりました。

——実際に年末調整のオンライン申請を機に、オンライン申請に取り組む課はありましたか。

長谷川:今回の年末調整を経て、実際に十数課からオンライン申請の相談が寄せられました。今までオンライン申請に全く取り組んでいなかった課からも問い合わせがあったため、やはり実際に職員自身が市民の立場になって操作をしてみるというのは重要な経験だと感じました。

深谷市人事課の年末調整のオンライン化事例:『年末調整に関わる業務を230時間以上削減。深谷市人事課の取り組み』


(5)取り組み事例などの継続的な情報発信

深谷市ICT推進室発行のICTPicks(左)や、グラファー発行のGovtech Trends(右)を継続的に庁内に展開。実際にオンライン化に取り組んだ先進事例を繰り返し共有することによって、デジタル化の基盤作りに取り組んでいる。

——庁内にどのような情報を発信しているのでしょうか。

小島:「ICTPicks」や「Govtech Trends」の庁内への掲示を通じて、デジタル化の取り組み事例を発信しています。

——ICTPicksの内容について詳しく教えてください。

小島:ICTPicksは、庁内のデジタル化事例を紹介する情報紙です。庁内でデジタル化に取り組んだ職員にインタビューを行い、活用シーンやメリット、今後の展望などを紹介しています。デジタル化事例を図や写真付きで紹介することによって、より気軽に取り組めるような雰囲気作りに努めています。


3. ICT推進室の伴走

深谷市の特徴は、ICT推進室が、ほどよい距離感で支援を継続している点だ。基本的には担当課がDXを推進しながら、ICT推進室が丁寧に伴走している。

——深谷市では、ICT推進室と担当課がどのように業務を分担していますか。

長谷川:担当課が手続きのオンライン化を行い、ICT推進室はその支援を行うという形で分担しています。技術的な不明点がある場合には、担当課からグラファーのデジタルサポートに直接問い合わせてもらうようにしています。

——ICT推進室の支援内容を教えてください。

長谷川:例えば、担当課が何から手を付けてよいのか分からず困っている場合や、研修動画を見ても操作がわからない場合には、ICT推進室が支援しています。ICT推進室では、担当課が作りたいフォームに対してのアドバイスなども行っています。

——支援の際に大切にしていることはありますか。

長谷川:単に疑問に答えるだけではなく、「より分かりやすい申請フォームにするためにはどうしたらよいのか」といった視点を大切にしています。他課で利用されているフォームをコピーしたり、グラファーから提供されているテンプレートを活用したりする方法まで幅広くアドバイスすることで、担当課が自主的に動けるようにサポートしています。

——庁内のDXを一気に進める際には、「担当課ではなくICT推進室が申請フォームを作成する」という方法もありますが、深谷市ではあくまで担当課が行っているのですね。

稲村:当初はICT推進室が申請フォームを作成することも検討しましたが、最終的には担当課が中心になって推進することにしました。

電子申請システムとして「Graffer スマート申請」を選定したのも、担当課自らが簡単に申請フォームを構築できるからです。ただ、担当課には通常業務もあるため、担当課だけで行えるものではありません。ICT推進室が親身に伴走することによって、課題に応じて解決をサポートしていけるようにしています。


4. 今後の展開

深谷市では、2022年度に約300手続きのオンライン化を実現。2023年度にはさらに100手続きを追加し、全400手続きのオンライン化を目指して推進している。今後は、申請率の向上などに取り組んだうえで、最終的には、「行かない窓口」や「書かない窓口」を通じた、総合的なデジタル化の実現に向けて取り組みを進めていくという。

(1)申請率の向上

——今後はどのようなことに取り組んでいく予定ですか。

稲村:2022年度は、約300手続きをオンライン化するという目標を達成しました。今後は、オンライン申請を使ってもらうために、利用者への周知に取り組んでいきます。

冨田:そのために、市民への周知にさらに力を入れていきたいと考えています。あわせて、オンライン申請を利用した市民や事業者からの声をもとに、オンライン申請に誘導するための市の公式ページの導線改善にも取り組んでいく予定です。

企画財政部 ICT推進室 主任  冨田 佐知子氏


(2)担当課への継続的な支援

長谷川:担当課に対する丁寧な支援を継続していきたいと考えています。市民の利便性向上と同じくらい、職員の業務効率化は大切です。

これまでの取り組みを通じて特に重要だと感じたのが、「オンライン化にあわせて、業務の見直しが行えているか」といった点です。オンライン化にあわせて業務の見直しが行えていない場合、周囲の関係者に「オンライン化したら負担が増えた」という印象が残り、オンライン化に対する心理的なブレーキがかかってしまいます。このようになるのを防ぐために、幅広い支援を行っていきます。最終的には、「オンライン化によって市民も職員も喜んでくれる」という良い流れを作るのが私たちの目指す姿です。


(3)総合的なデジタル化

小島:オンライン申請を入り口に、最終的には「行かない市役所」や「書かない市役所」を目指していきたいと考えています。事務の観点では、窓口においてもオンラインと同じような方法で申請を受け付けることによって、内部処理が一元化され、効率化につながるのではないかと思います。最終的には市民にとって、よりメリットの大きい仕組みを作っていけるよう、取り組みを進めていきます。



取材・写真:佐竹 佳穂 / 取材・文:東 真希(Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)

深谷市が取り組む、手続きのオンライン化は「Graffer スマート申請」によって実現できます。複雑なプログラミングや手続きは必要ありません。情報の追加や変更も追加費用なしで分かりやすく設定することができます。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。

グラファー Govtech Trends編集部

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人口:
14.13万人(令和2年国勢調査)

導入サービス:
Graffer スマート申請