【ガブテックイベント】「ポスト申請主義」第2回パブリテックスクエア+登壇レポート
「ポスト申請主義〜テクノロジーで手のひらに全ての福祉を~」をテーマに2019年9月24日に開催されたパブリテックスクエア+で議論された内容をご紹介します。パブリテックとは、公共(Public)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、社会的な課題に対してAI(人工知能)、RPA(ロボットによる業務自動化)、などの最先端テクノロジーを活用することで、より住みよい社会を作っていこうとする考え方です。
今回のパブリテックスクエア+では、「ポスト申請主義」をテーマに、行政の申請を減らしていくにはどうしたらよいのかという観点で議論が交わされました。ポスト申請主義とは何なのか?行政手続きを簡単にするためにテクノロジーができることは何なのか?などの議論の内容をご紹介します。
取材・写真:田村 愛、文:東 真希(Govtech Trends 編集部)
行政手続きのハードルは想像以上に高い
一般社団法人Publitech代表理事 菅原 直敏氏
まず、菅原氏から伝えられたのが、ポスト申請主義という考え方です。ポスト申請主義とは「申請主義の後」という意味で、市民が行政サービスを受けるためには必ず申請が必要であるという申請主義によって発生している課題を解決していこうという動きのことです。
申請主義の課題は、問題を抱える人が適切な行政サービスを受けるためのハードルが高すぎる点です。例えば、税金は申請しなくても徴収されますが、困っている人が行政サービスを受けるためには自分から申請をしなくてはなりません。申請を行うためには、適切な申請を見分け、何枚もの複雑な申請用紙に記入して提出する必要がありますが、生活に困っている人や、精神的に困っている人が申請するにはあまりに難しく、適切な人が最後までたどり着けないのです。
一般社団法人Publitech代表理事である菅原氏は「役所の手続きは普通でもやりたくない、面倒なことが多いのではないでしょうか。ましてや、今生活に困っている人が申請を簡単に行うハードルは非常に高く、最後までたどり着けないという非常に大きな課題があるのです。」と語ります。
NPO法人Social Change Agency代表理事 社会福祉士 横山北斗氏
「社会保障の制度を受けるには、自分の困りごとを言語化し、適切な窓口に行って、申請書を書いてはじめて社会保障の制度が開始する。」と語るのは、NPO法人Social Change Agency代表理事の横山氏です。
申請を行うことが難しい人にとって、申請自体が社会保障制度の壁になっているのです。また、制度を利用するための条件は非常に複雑に分岐しています。「テクノロジーの力を借りることで、申請をスマホからできるようにしたり、省いたりして、申請をより簡素化することが大切なのではないか。」と横山氏は語ります。
「デジタル行政」で行政手続きのハードルは下がる
株式会社グラファーの講演では、難しい申請を簡素化するために行政ができる取り組みについて紹介しました。
株式会社グラファー CEO 石井 大地
行政手続きは大きく3つのプロセスに分解することができ、この3つのステップそれぞれに対してテクノロジーを活用することで簡素化できます。3つのプロセスとは、(1)手続きについて調べる、(2)手続き書類を作る、(3)手続き書類を提出する、というステップです。1つ目の手続きについて調べるプロセスでは、手続きが複雑で理解できないことが市民の課題です。2つ目の手続き書類を作るプロセスでは、市民は、氏名や名前など何度も同じ項目を記入する必要があることに不満を感じています。3つ目の手続き書類を提出する段階では、窓口で並ぶことや郵送での手続きの不便さが課題です。自治体では郵送手続きにも対応していますが、郵便局で定額小為替を購入する必要があるため非常に不便です。
この3つのプロセスを解決するために、グラファーで開発しているのが、様々な自治体が共同利用できる手続きガイドなどの製品です。
テクノロジーで市民の行政手続き課題を解決する鎌倉市、四條畷市の事例
1つ目の、手続きについて調べるプロセスをテクノロジーで解決している分かりやすい例が「鎌倉市 くらしの手続きガイド」です。転入や転出などの際に、市民が誰でも非常に簡単に、自分に必要な手続きを特定して書類を洗い出すことができるのです。
2つ目の、手続き書類を作るプロセスに関する例が、鎌倉市の窓口印刷です。通常市民は、手続き書類を作成する際に、住所・氏名・年齢等を何度も書く必要がありますが、鎌倉市ではウェブ上で一度入力すれば、市役所の窓口で印刷までがスムーズに行える実証実験を行なっています。
3つ目の、手続き書類を提出するプロセスを解決しているのが、大阪府四條畷市が行う住民票の写しのオンライン申請です。市民は郵送のために申請書を書いたり、郵便局で定額小為替を買う必要はありません。インターネット上で24時間いつでも手続きを行うことができ、申請のために市役所まで出向く必要はありません。
参考:『鎌倉市は行政手続きの電子化に向けた取り組みをどう進めたのか。注目すべき逆転の発想とは。』
制度は変えられなくても、手続きに関する手間をテクノロジーで解消することはできる
生活面、障がいや日々の忙しさなどにより「必要な制度が分からない、情報にたどり着けない」という市民が一定数いることに関して、会場では熱心な議論が交わされました。また、福祉の世界では、現在苦しんでいる人が制度の利用者であるにも関わらず、非常に多くの書類を書かせること自体がギャップを広げることになるのではないかという話題もあがりました。
そして議論の中では、制度自体は変えられないのかという点にも話が及びました。それに対して石井からは「制度が変えられればベストではあるが時間を要してしまう。制度が変えられない場合にもプロセスを簡単にしていくことで問題の解決につながる。」という提案を行いました。
従来型の、申請ありきで行政サービスが受けられる申請主義は、プロセスが大変なために対象の市民に対して実際に支援を受けられる割合が少ないことが課題です。支援を受けることに対するハードルをいかに下げていくのかというのは、これからの行政サービスを考えるうえでの大きな一歩なのです。
さいごに
ポスト申請主義をテーマに開催された、第2回パブリテックスクエア+の登壇レポートをご紹介しました。
行政サービスを考えるうえで欠かせないのが、市民にとっての申請の負荷をいかに軽減するかという観点です。申請における市民の1つ1つのプロセスを見直し、テクノロジーを用いることで、複雑な申請でも簡単にすることは可能です。介護福祉の分野でテクノロジーが敬遠されがちな理由として、ITに関する成功体験が足りないのではないかという声もあがった中、いかにテクノロジーを取り入れていくかという点は、今後の自治体における課題となりそうです。
(※文中の敬称略。所属や氏名は取材当時のものです。)
行政デジタル化の実現に向けて、各自治体では取り組みが進んでいます。デジタル改革を後押しするのは、あらゆる行政手続きをオンラインで完結する「Graffer スマート申請」、簡単な質問に答えるだけで行政手続きを洗い出せる「Graffer 手続きガイド」などの製品です。Graffer 製品の導入期間や費用については、お問い合わせ窓口からお気軽にご相談ください。
グラファー Govtech Trends編集部
Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。
株式会社グラファー
Govtech Trendsを運営するグラファーは、テクノロジーの力で、従来の行政システムが抱えるさまざまな課題を解決するスタートアップ企業です。『Digital Government for the People』をミッションに掲げ、行政の電子化を支援しています。