国内事例
残業50時間を5時間に短縮。宮崎市介護保険課がデジ田交付金の活用で実現した働き方改革と事業者の利便性向上
2025.04.17 Thu
月平均50時間だった残業時間を、わずか5時間にまで短縮することに成功した宮崎市介護保険課。その要因となったのが、要介護認定の進捗確認や認定結果の案内にかかる膨大な工数の削減です。職員の働き方を見直すきっかけとなった「要介護認定照会システム」の導入をはじめとした取り組みについて、詳しく伺いました。
要介護認定とは
要介護認定とは、介護サービスを利用するために「介護や支援が必要であること」や、その必要度(要介護状態区分)を判定する制度です。この認定結果をもとに、適切な介護サービスが提供されるため、ケアマネジャーから担当課に対して、認定の進捗状況や認定結果についての問い合わせが発生しています。
システム導入と窓口業務の委託による削減で、月平均50時間の残業を5時間に短縮
——要介護認定照会に関する業務の見直しにつながった「要介護認定照会システム」の仕組みについて教えてください。
甲斐:「要介護認定照会システム」は、ケアマネジャーがオンラインで要介護認定の進捗状況や認定結果を確認できる仕組みです。被保険者番号と申請日を入力するだけで、必要な情報を安全かつ迅速に照会することができます。

ケアマネジャーは、24時間いつでもパソコンやスマートフォンから、要介護認定の申請の進捗状況や認定結果をオンラインでセキュアに照会することができる。
——今回の取り組みを通じて、どのような効果がありましたか。
甲斐:「要介護認定照会システム」の導入に加えて一部の窓口業務を委託したことで、時間外労働を大幅に削減しました。これまでは、1人あたり月平均50時間、多い人では月100時間以上の残業が発生しており、職員にとって大きな負担となっていました。しかし今回の取り組みによって、月平均の残業時間を5時間にまで削減することができました。

時間外労働時間の大幅な短縮を実現した。
——職員の働き方にどのような影響がありましたか。
甲斐:これまで、要介護認定の進捗状況や認定結果に関する問い合わせ業務に、1日に82件、1か月あたり117時間ほど対応していました。このうち業務時間内に対応している割合は53%で、約半分を業務時間外に対応している状況でした。また、業務中に問い合わせが入ることで作業が中断されたり、ケアマネジャーが不在のため繰り返し電話をかけ直すといった非効率が発生したりしていました。
しかし「要介護認定照会システム」の導入により、一連の業務がデジタル化され、問い合わせ対応にかかる時間が大幅に削減されました。その結果、職員の働き方が改善され、業務効率も大きく向上しました。
——他にはどのようなメリットがありましたか。
甲斐:「要介護認定照会」の導入によって、ヒューマンエラーによる情報漏えいを未然に防ぐ効果もありました。従来は、目視で確認したうえで電話を通じて認定状況や結果を連絡していましたが、1日20〜30件という膨大な問い合わせがある中で、連絡漏れや誤送信が発生しやすい状況で、職員13名のうちヒューマンエラーを経験した経験がある者は6名でした。その対策としてダブルチェックを行う必要があり、二重の手間となっていました。
また、宮崎市では従来、ケアマネジャーにFAX連絡票という独自の帳票に照会内容を記載してもらう運用を行っていましたが、この過程でも誤送信のリスクがありました。

「要介護認定照会システム」の導入によってさまざまなメリットがあった。
1カ月で1年分相当量のアクセスが発生
——実際にシステムを導入したところ、ケアマネジャーからはどのような反響がありましたか。
甲斐:導入当初は、システムがどれほど活用されるのか不安がありました。しかし実際には想定を大きく上回り、月15,000件を超えるアクセスがありました。当初1年分として想定していたアクセス量に相当する数が、わずか1カ月で発生した計算になります。
今回の導入には、デジ田交付金(現「新しい地方経済・生活環境創生交付金」)を活用したのですが、KPI(重要業績評価指標)の一つに「ケアマネジャーからのアクセス数」を設定していました。アクセス数は予想を大きく上回る結果となり、ケアマネジャーが日常的に要介護認定情報にアクセスする必要があることを改めて実感しました。
さらに、全アクセスのうち1割以上が閉庁時間中に行われている点から、これまで対応が難しかった時間帯にも対応可能になったことが確認され、ケアマネジャーの業務における利便性と柔軟性が大幅に向上していることが分かります。

月に15,000件を超えるアクセスがあった。
——導入はどのような流れで進めましたか。
甲斐:システム導入を検討する際、最初はExcelファイルを用いて照会結果を公開する案も検討しました。しかし、個人情報保護の観点から、より安全で信頼性の高い方法が必要だと判断しました。最終的に、セキュリティ性が高く、かつ簡単に利用できる「要介護認定照会システム」を選定しました。
——個人情報の取り扱いの観点で、安全性を重視されたのですね。
甲斐:はい、「要介護認定照会システム」は、自治体が承認した事業所のみが情報を照会できる仕組みになっています。事業所ごとに閲覧可能な範囲が設定されているため、必要な情報を安全に提供することが可能です。

福祉部 介護保険課 主任主事 甲斐 勲氏
職員もケアマネジャーも使いやすい運用フロー
——職員による「要介護認定照会システム」の運用の流れを教えてください。
甲斐:使い方は簡単で、職員は、毎日決まったタイミングで、公開に必要な情報を「要介護認定システム」に取り込みます。宮崎市の場合は、毎朝、前日の進捗と審査会結果の情報、居宅届の情報、申請データの3種類のデータを取り込んでいます。これらの操作にかかる時間は合計30分ほどです。
——ケアマネジャーはどのようにシステムを利用するのでしょうか。
甲斐:ケアマネジャーは、被保険者番号と申請日を入力するだけで、必要な情報を簡単に照会できます。審査会の翌日には認定結果を照会することができるため、迅速かつ効率的に業務を進めることができます。
より便利で満足度の高いシステムを目指して
——今後はどのような取り組みを行っていきますか。
河野:今後は、さらに使いやすい仕組みとなるよう改良を進めていきます。個人情報保護に配慮しながら、ケアマネジャーにとってより便利な機能の追加も検討していきたいと考えています。

福祉部 介護保険課 主幹兼認定審査係長 河野 慶一郎氏
——今回の取り組みを通じて、どのような成果や課題が見えてきましたか。
河野:今回のシステム導入により、職員の働き方が見直され、意識改革にもつながりました。新しいことに取り組む際には、不安や課題がつきものです。しかし、今回の成果を通じて、チャレンジが大きな改善を生むことを実感しました。
日本全体で高齢化が進む中、要介護認定の件数も増加していくことが予想されます。認定結果を迅速に照会できる仕組みは、市民サービスの向上に直結する非常に重要な取り組みです。宮崎市ではこれまで職員全員で効率的な照会方法を整備してきましたが、今後もデジタルの力を活用し、より丁寧で質の高い業務を目指していきます。これからも、事業者の皆さまのご理解と協力を得ながら、職員やケアマネジャー、そして市民にとって満足度の高い仕組みを作り上げてまいります。
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