【DX推進 デジタル化のヒント】名古屋市情報化推進課「伴走型サポートで担当課のオンライン化を後押し」
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【DX推進 デジタル化のヒント】名古屋市情報化推進課「伴走型サポートで担当課のオンライン化を後押し」

2022.03.29 Tue

情報化推進課が、担当課に伴走する形で、全庁的なオンライン化を進める愛知県名古屋市。効果の出る手続きを適切に選定したうえで、「Graffer スマート申請」を活用し、オンライン化を進めています。その取り組みの前提には「代走はせずに伴走する」という姿勢があります。担当課が主体的に取り組めるよう、どのような工夫を行っているのでしょうか。

愛知県名古屋市:2,332,176人(令和2年国勢調査)

お話を伺った名古屋市情報化推進課の皆様

栗林 知広氏(総務局行政部 情報化推進課 情報化企画係)
名古屋市役所に入庁後、情報化推進課において、担当課との連携や手続きの棚卸しなどを行う。
吉澤 章子氏(総務局行政部 情報化推進課 情報化企画係)
病院局などを経て、情報化推進課において、担当課との連携、システム運用や広報などを行う。

【1. 計画】2020年に棚卸し調査を実施。2022年3月にはDX推進方針を策定

——名古屋市では、どのような計画でオンライン化を進めていますか。

栗林:2022年3月に「名古屋市役所DX推進方針」を策定し、全庁的なデジタル変革を進めています。推進方針では、デジタル活用を前提にあらゆる市民サービスや市役所の業務を変革し、市民一人ひとりにより適した市民サービスを提供することを目指し、「『スマホで市役所』の推進」や「行政手続きのオンライン化」などの施策に取り組んでいます。オンライン化に関しては、2020年に棚卸し調査を実施。2021年にはオンライン化条例の制定や、新しい電子申請システムへの刷新を行っています。

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情報化推進課において、担当課との調整などを行う栗林氏

【2. 手続きの選び方】棚卸し調査をもとに優先度付け

——名古屋市は、効果の高い手続きを厳選してオンライン申請を導入している印象です。オンライン化の対象とする手続きは、どのように選定したのでしょうか。

栗林:2020年に行った棚卸し調査をもとに、オンライン化の課題を分析しました。棚卸し調査では、各担当課に対して「オンライン化している手続き、オンライン化していない手続き」および「オンライン化の各種課題」を確認しました。

——棚卸し調査の結果をどのように利用したのでしょうか。

栗林:棚卸し調査の結果を受けて、さらに2021年にオンライン化調査を実施し、最終的にオンライン化する手続きを選定しました。オンライン化調査では、申請件数が上位70件の手続きを対象に、例えば、「添付書類の有無(原本か写しか)」「本人確認の有無」「申請様式は決まっているか否か」「対象者の特性」「受付期間・申請データの入力作業の有無」「交付物の有無」「手数料の有無」「オンライン化する時期の希望」などの項目について確認しています。

——再調査で確認した項目は、どのように評価したのでしょうか。

栗林:再調査を行った70件に、国の方針(※1)に該当する手続きおよびオンライン化を希望する手続きを加えた、約100件の手続きについて、「実現容易性」と「影響度」の観点で分類して、SランクからDランクの、計5段階で優先度付けを行いました。

(※1)「デジタル・ガバメント実行計画」における「地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続」、および「自治体DX推進計画」における「特に国民の利便性に資するオンライン手続」

「影響度」と「実現容易性」をかけあわせて、優先度を定めている。

——優先度付けした5段階のうち、どの手続きからとりかかっているのでしょうか。

栗林:まずは、Sランクに位置付けた約50の手続きに加えて、担当課から個別にオンライン化の希望があった手続きについて、オンライン化を優先的に進めています。これらの手続きについては、担当課にヒアリングを行ったうえで、グラファーの知見も借りて積極的に支援を行っています。

【3. 担当課との調整、進め方】情報化推進課の伴走型サポートで、全庁的な変革を進める

——名古屋市では、情報化推進課がサポートを行い、担当課がオンライン化のための整理やフォーム作成を行うという役割分担を行っています。このような方針で進めたのはなぜでしょうか。

栗林:オンライン化の対象となる手続きは膨大で、それに対して情報化推進課の人員は限られています。そのため名古屋市では、情報化推進課が伴走者のような立ち位置で担当課を支援しています。

——情報化推進課は、具体的にどのような役割を担っているのでしょうか。

栗林:情報化推進課では、オンライン化に関するアドバイスや取りまとめ、制度改善などを行っています。実際に業務フローを書いたり、オンライン申請フォームを設定したりするのは、それぞれの担当課です。担当課と情報化推進課が、オンライン化という共通の目標に向かって一緒に進んでいくようなイメージでプロジェクトを進めています。

——代走はせずに、あくまでも伴走に徹しているということですね。例えば、制度の改善に関しては、どのようなことを行っているのでしょうか。

栗林:制度の改善に関しては、「オンライン化条例(名古屋市情報通信技術を活用した行政の推進に関する条例)」を制定し、書面による申請等が義務付けられた条例等に基づく手続きについては、個別の条例等を改正することなくオンライン化を可能とするなど、オンライン化が進めやすい環境の構築に取り組んでいます。

——他自治体では、「オンライン化の際に、職員の協力がなかなか得られないことがある」といった悩みもお聞きします。名古屋市では、担当課が前向きに取り組めるように、どのような工夫を行っていますか。

栗林:担当課と議論する際には、根拠となるデータを示すようにしています。例えば「棚卸し調査の結果で、この手続きはSランクです」と伝えるだけではなく「これだけの効果が見込めるので、ぜひやりましょう」といったように、具体的なデータをもとに議論を進める姿勢を大切にしています。

話し合いの中では、どうしても「できない」という結論になることもあります。しかし、「従来の紙や窓口をベースとした思想ではできないので、オンライン化しない」という考え方ではなく、「デジタルファーストを指針に考えた際に、どうしたらできるか」という前向きな議論になるように心がけています。すべてをオンライン化することが難しい場合には、業務の一部だけをオンライン化するといった提案も行います。

——根拠を示して議論を進めているのですね。他にはどのような工夫を行っていますか。

吉澤:オンライン申請に関するワーキンググループを設けて、現場における具体的な課題を議論しています。ワーキンググループは2021年度に5回開催しており、参加者は係長クラスの職員です。11名が参加し、翌年度はメンバーをさらに増やして開催予定です。

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市民からの声を踏まえながら、各担当課との調整を行う吉澤氏

——ワーキンググループでは、どのような議論を行うのでしょうか。

吉澤:ワーキンググループでは、オンライン化に関する課題共有や、事例共有などを行います。課題共有に関しては、例えば本人確認の方法など、多くの担当課で実際に課題となっていることを議論して、解決方法を模索します。事例共有に関しては、庁内ですでにオンライン化に対応した課の事例を共有しています。成功事例を共有することによって、前向きに取り組んでもらいやすいようになったと思います。

——後押しのために様々な取り組みをされていますね。それでもなかなかオンライン化が進まない場合、担当課が「はじめの一歩」を踏み出せるように、工夫していることはありますか。

吉澤:グラファーが提供する合同研修(※2)を活用しています。庁内では、電子申請システムを使用する予定や実績の有無に関わらず、興味があれば気軽に参加してほしいと案内しています。

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(※2)合同研修とは、申請フォームの作成方法や、申請データの処理方法、オンライン化のノウハウなどを紹介する、全国合同の定期研修です。(画像はイメージです)

——予定がなくても参加してほしいと周知しているのはなぜですか。

栗林:オンライン申請に興味を持ってから、担当課が実際に対応するまでのハードルは決して低くありません。少しでも興味を持ったタイミングで研修に参加すれば、具体的なイメージを持ってもらうことができます。以前利用していた電子申請システムの場合、合同研修が年1回程度しかありませんでしたが、グラファーの合同研修は頻繁に開催されるため、担当課は気軽に参加することができます。

——担当課が申請フォームを設定する際に発生する不明点は、どのように解決しているのでしょうか。

吉澤:システムに関する基本的な部分で不明点があった場合には、各課にいるITサポーターが支援します。ITサポーターとは、パソコンやITの基本的な部分をサポートする役割で、各課に1人配置されている職員です。

——電子申請システムの操作について不明点があった場合、担当課はどうするのでしょうか。

吉澤:電子申請システムの操作に関して不明点があった場合には、各担当課から、グラファーの「自治体デジタルサポート(※3)」に直接連絡しています。「Graffer スマート申請」は改善速度が速いため、最新の機能や操作については、直接問い合わせた方がより正確な情報が得られると考えているからです。

(※3)「自治体デジタルサポート」は、グラファーの導入自治体が利用できるヘルプデスクです。操作時の不明点を問い合わせることができます。

——外部のリソースも有効に活用しながら、オンライン化を進めていますね。

栗林:オンライン化を実現するための課題は、担当課によって異なります。このような課題に寄り添い、解決に向けて支援するのが情報化推進課の役割です。活用できるリソースは最大限活用しながら解決を支援し、全体としてゴールにたどり着ければよいのではないかと考えています。

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担当課からは、「情報化推進課にサポートしてもらえて助かった。いつも細かい疑問に答えてもらった」との声が届いている。名古屋市健康福祉局が取り組む、窓口予約の事例『窓口のオンライン予約によって、最大60分かかる市民の待ち時間がゼロに。ワクチンパスポート発行の事前予約に取り組む名古屋市

【4. 市民の反応】「以前の電子申請システムよりも使いやすい」などの声

——実際にオンライン申請を利用した市民からの声で、印象に残っているものはありますか。

栗林:市民の方からは「以前の電子申請システムよりも使いやすくなった、簡単になった」などの声をいただきました。以前の電子申請システムはスマートフォンに対応しておらず、パソコンでの操作をベースにしたシステムでしたが、新しい電子申請システムは、どのデバイスからでもスムーズに申請することができます。

——市民サービスの向上につながっていますね。スマートフォンでの操作に慣れていない高齢者の方からは何か反応がありましたか。

吉澤:電子申請システムを刷新してすぐの頃は、「今までと違う」という反応もありましたが、最近では高齢者の方から、「はじめは難しく感じたが、1回できれば難しくない」といった反応をいただくこともあります。

【5. 広報の工夫】担当課が中心になって実施

——広報の面では、担当課と情報化推進課で、どのように役割を分けているのでしょうか。

栗林:広報については、基本的には担当課のほうで行っています。広報内容について不明点があった際には、情報化推進課のほうからアドバイスをするようにしています。場合によっては、報道発表、記者発表、市の広報誌、市のLINE公式アカウントなどへの掲載を共同で行う場合もあります。

【6. 今後の展望】追加調査をもとに、オンライン化を加速する

——名古屋市では、高い効果が見込める手続きから、段階的にオンライン化を進めています。今後はどのように取り組んでいく予定でしょうか。

栗林:影響度の高い手続きから段階的にオンライン化していくことによって、成功体験を積みながら、全庁的な変革を進めていきたいと考えています。

——Sランクの手続きをオンライン化した後は、どのような流れで進める予定でしょうか。

栗林:再調査を行い、その結果を踏まえて優先度を見直したいと考えています。再び調査を行おうと考えたのは、前回の調査時以降、電子申請システムで、電子交付や電子決済が行えるようになったためです。電子交付や電子決済ができれば、オンライン化できる可能性が高まる手続きもあるかと思います。調査を通じて、機能があることを庁内に広報したり、業務改善の気づきにつなげたりする効果もあるのではないかと期待しています。今後も、段階的にオンライン化を進めていくことによって、市民一人ひとりに適したサービスを提供できるように努めていきます。

取材:柏野 幸大、本山 紗奈 / 写真・文:東 真希 (Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)

名古屋市が取り組む、全庁的なオンライン化の推進は「Graffer スマート申請」によって実現できます。導入時は、優良事例を取り込んだテンプレートを活用可能です。費用や導入期間については、 無料お問い合わせからお気軽にご相談ください。

グラファー Govtech Trends編集部

Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。

株式会社グラファー
Govtech Trendsを運営するグラファーは、テクノロジーの力で、従来の行政システムが抱えるさまざまな課題を解決するスタートアップ企業です。『プロダクトの力で 行動を変え 社会を変える』をミッションに掲げ、行政の電子化を支援しています。

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人口:
229.56万人(令和2年国勢調査)

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