苅田町におけるDX実践のポイント
1. 座学と体験を交えた庁内研修
体験型のハンズオンと座学をミックスした研修を開催している。ハンズオンでは、フォームの作成・公開・申請までの一連の操作を習得。座学では参加者が疑問に感じそうな箇所を集中的に解説して理解を深めている。
2. デジタル推進室の伴走
担当課がオンライン化に取り組めるよう、デジタル推進室が伴走する。課題を抱えている場合にはデジタル推進室がヒアリングを行い、ボトルネックの解消に取り組んでいる。
3. 今後の展開
町民の利便性向上を意識し、オンライン申請の目標数を定めるのではなく、まずはできるものから順にオンライン化を進める。
【概要】苅田町におけるデジタル化の流れ
苅田町では、2021年にデジタル推進室を立ち上げた後、2022年11月に電子申請サービスを導入。12月に最初のオンライン申請を公開した。その後、2023年6月までに40手続きを公開。オンライン手続き案内サービスなどもあわせて、全庁的な電子化を進めている。
1. 全庁を巻き込むための工夫
手厚い庁内研修
苅田町が進めるデジタル化の特徴は、庁内研修の手厚さだ。パソコンに不慣れな職員が積極的に取り組めるように、丁寧な研修を行っている。
——苅田町ではどのような庁内研修を行っていますか。
白川:苅田町では座学と体験を交えた研修を行っています。体験型のハンズオン研修のパートでは、1人に1台パソコンを用意して、研修に参加した全員が基本的な操作を一通り体験できるようにしています。
職員はパソコンを操作しながら、分からない点があればその場で質問できる。研修を主催するデジタル推進室は、操作に困っている職員がいないかどうかを常に確認しながら研修を進行する。2、3か月に1度のペースで開催しており、毎回30名程度の職員が参加している。
——なぜ、研修にハンズオンを組み込もうと考えたのでしょうか。
白川:パソコンの操作に不慣れな職員も大勢いるためです。当初、職員が座学中心の研修に参加したところ、「内容についていけなかった」という意見が一定数上がりました。そこで、もう少し自分たちに合わせたペースでできるようにしたいと考え、デジタル推進室の主導で、新たな庁内研修を始めました。
企画課デジタル推進室 主任主事 白川 誠視氏
——行政デジタル化推進の一番の課題は「人材不足」だと言われています(※)。その解決策として、職員のリテラシーにあわせた研修は有効な方法だと感じます。研修の流れを教えてください。
白川:研修ではまず、紙の申請と電子申請の違いを説明します。次に、電子申請システムである「Graffer スマート申請」の機能を紹介し、その後、手元のパソコンを操作して申請フォームを作成・公開し、実際の申請までを行います。最後に、利用されるオンライン申請のポイントとは何かを説明しています。
(※)出典:「行政デジタル化実態調査レポート2023」
オンライン申請が職員に定着するよう、体験と座学を交えた独自の研修を用意している。
——「紙と電子申請の違い」のパートでは、どのような内容を説明するのでしょうか。
白川:電子申請に初めて取り組む職員が疑問に感じやすいポイントに絞って説明しています。例えば、「電子申請になると、対面でない分なりすましができるようになるのでは?」や「紙と電子で申請データの管理を2つに分ける必要があるのでは?」といった疑問です。
研修の冒頭で、電子申請に対して漠然とした怖さを感じている職員の疑問を解消し、前向きに取り組めるような流れを作っている。
——次の「Graffer スマート申請の機能紹介」では、どのような内容を紹介していますか。
白川:電子申請システムである「Graffer スマート申請」の基本的な機能を紹介しています。例えば、メニューの構成や申請データの確認方法などです。電子申請システムに初めて触れる職員がよく抱く、「電子申請では、どのように申請書を受け取るのか?」といった不安を取り除き、次のフォーム作成に安心してのぞめるようにしています。
——次の「フォームの作成」は体験型の研修ですね。こちらはどのような内容でしょうか。
白川:まずは職員に対して簡単な課題を出題します。最近の研修では「絵本のプレゼントの申請フォームを作成して公開する」という課題を用意しました。
職員は手元のパソコンで、手続きの名称や要約文を入力したり、入力フォームを作成したりしながら、電子申請システムへのログイン・新規フォームの作成・公開といった基本的な操作を体験します。
研修を通じて、一人一人の職員が達成感を感じることを大事にしているため、操作についていけない場合や不明点がある場合にはデジタル推進室が逐一サポートして、全員がフォームの公開までたどり着けるようにしています。
職員は手元のパソコンを使って、出題された課題に取り組む。一連の操作を通じて電子申請の全体像が把握できるようにしている。
——その後の「フォームで申請」のパートでは、参加者はどのような操作を行うのでしょうか。
白川:参加者は、電子申請システムから二次元コードを生成して、インターネット環境で申請を行います。
職員の業務範囲だけを考えると、研修で申請までを取り扱う必要はないとも言えます。しかし自分自身の作成したフォームで実際に申請するのは、利用者の立場で考えるきっかけにもなるため、プログラムに組み込んでいます。
——利用者である町民の立場に立つことを大切にしているのですね。
白川:オンライン申請は利用されなければ意味のないものです。そして利用されるためには、一人一人の職員が、利用される電子申請を作成するためのポイントを理解することが重要だと考えています。
——そこで最後のパートである「利用される電子申請のポイント」につながるのですね。内容を詳しく教えてください。
白川:「利用される電子申請のポイント」のパートでは、導線の重要性や、オンライン化を進めるうえで大切にしたい考え方を説明しています。
——流入導線の重要性については、どのような内容を紹介しているのでしょうか。
白川:申請フォームは作成したら終わりではなく、利用者がスムーズに申請フォームにたどり着くところまでを検討することが大切だと説明しています。
例えば所得証明書を取りたい場合、多くの町民は直接オンライン申請のページに来るわけではなく、インターネットで「苅田町 所得証明書」などと検索します。しかし検索エンジンで検索した際、上位に表示されるページにリンクがなければ、町民はオンライン申請にたどり着くことができません。
——町民目線を大切にしている苅田町ならではの丁寧な説明ですね。オンライン化を進めるうえで大切にしたい考え方としては、どのような内容を紹介していますか。
白川:オンライン化を進める際、困ったときに立ち戻れるように「迷ったときの優先順位は、職員業務の効率化よりも市民サービスの向上」「100点は目指さない」「基幹システムとの連携は最初に作り込み過ぎない」といった考え方を伝えています。
他にも、「正しい表現にこだわりすぎない」「情報量が多すぎても少なすぎてもいけない」などのポイントが紹介されている。
——研修の資料としては、どのようなものを用意したのでしょうか。
白川:1時間半の研修に対して80ページほどの資料を用意しました。後で資料を見返したときに、資料だけでも内容が振り返れるように工夫しています。
——実際に研修に参加した職員からは、どのような感想がありましたか。
白川:職員からは「分かりやすくてよかった」という感想が届いています。研修には、入庁したばかりの若手職員から管理職まで、幅広い年代の職員が参加しているため、町全体のITリテラシーの底上げにつながっていると考えています。
山下:実際に私たち上下水道課では、デジタル推進室の庁内研修を機にオンライン申請の導入を始めました。研修だけですんなり理解できたわけではありませんが、作成方法を体験しながら進めることによって、短時間で一通りの操作を理解することができました。研修後、水道の開始・中止のオンライン申請を公開したところ、約半数をオンラインで受け付けるようになり、利用者からも「平日、役場に行く時間が取れない中で、ネットでの申請は、非常に助かります」などの声が届いています。
上下水道課 水道業務担当 主任主事 山下 恵次郎氏
御厨:中央公民館でも、庁内研修を機にオンライン申請の導入を開始しました。私自身実際に参加してみて、職員に寄り添った、分かりやすい研修だと感じました。研修後、実際に申請フォームを公開するまでは町民に受け入れられるかどうか不安がありましたが、公開後は「どこでも申し込みできるのがよい」、「一時保存できるのがよい」といった声が届き、ほっとしています。
苅田町中央公民館 御厨 志織氏
——研修後には、どのようなサポートを行っていますか。
白川:研修後には、任意で参加できる個別相談会を開催しています。手続きごとに条件も異なるため、具体的に取り組みたい手続きがある場合には、気軽に相談できるようにしています。
——個別相談会ではどのような相談がありましたか。
白川:個別相談会では、各課からオンライン申請の相談を受けました。例えば、それぞれの手続きがオンライン化できるかどうか、条例等の改正が必要か、入力項目は紙と同じ項目でなければならないか、添付書類はPDFでも問題ないかといった相談です。
研修後には個別相談会を開催した。例えば、税務課から所得・課税証明書や納税証明書について、都市計画課から公園使用料還付手続きや利用者登録申請や公園占用許可手続きについて、財政課からはインボイス交付申請についての相談を受けた。相談会以外に、個別相談も受け付けている。
——他にはどのような支援を行っていますか。
白川:申請フォームのユーザーインターフェースや文言についても支援しています。例えば、入力項目は自由入力ではなく選択肢で表現できないか、文言は行政用語にこだわらず分かりやすく表現できないかといった内容について各課にアドバイスしています。
2. デジタル推進室の伴走
研修を受講した職員が、実際にデジタル化を進めようと思ったときに困ることのないよう、デジタル推進室では適切なサポート体制を整えている。
——苅田町では、デジタル推進室と担当課がどのように業務を分担していますか。
白川:担当課が手続きの選定やフォーム作成を行い、デジタル推進室はその支援を行うという分担でデジタル化を進めています。技術的な不明点がある場合には、担当課自身がグラファーのヘルプデスクである「自治体デジタルサポート」に問い合わせています。
——デジタル推進室が支援の際に大切にしていることはありますか。
白川:担当課に伴走して進めていくことを大切にしています。担当課が悩みを抱えている場合、まずはヒアリングを行い、例えば業務が多くて取り組みが進まないのか、それとも条例が制約になっているのかなどのボトルネックを明確にします。その後、解決策を提案して落としどころを探るようなイメージで進めています。
——担当課に寄り添った支援を行っているのですね。始めから関係性が築けていたのでしょうか。
白川:取り組みを始めた当初は、デジタル推進室から発信しても反応が少ない状況でした。しかし、庁内のグループウェアで呼びかけたり、個別に説明をしたりすることで、少しずつ関係性が築けたのではないかと思います。まずは「オンライン化を進めたい」という意思を持つ担当課と取り組みを進めることで、一歩前に進むことができたのではないかと考えています。
——担当課の立場として、デジタル推進室の支援についてはどのように感じましたか。
御厨:デジタル推進室に相談に乗ってもらいながら、ぎりぎりまで修正を重ねることで、公開までたどり着くことができました。初回は操作に慣れなかったこともあり、分からない点があるたびに質問していました。
山下:「利用者の利便性を重視する」というデジタル推進室のアドバイスが役に立ったと感じました。導入時はデジタル推進室の白川と同じ画面を見ながら、「本当に必要な項目か?」「同じ内容を何度も入力させていないか?」といった点を何度も推敲し、町民の負担が少なく済むように心がけました。
——苅田町では、オンライン申請だけではなく、オンライン手続き案内サービスも進めていますね。どのような取り組みを行っていますか。
米田:引っ越しワンストップサービスの開始に合わせて、オンライン手続き案内サービスを公開しています。ワーキンググループを設置し、担当課とデジタル推進室が連携を取りながら取り組みを進めました。分担としては、担当課が具体的な案内文章を作成して、デジタル推進室がシステムの設定や案内文章のチェックを行うという体制で行いました。チェックの際には、誰にでも分かりやすい表現になるよう、利用者の目線を意識しています。
企画課デジタル推進室 主任主事 米田 尚子氏
3. 今後の展開
苅田町デジタル推進室では、担当課の支援を行いながら、まずはできるものから順にデジタル化を進めていく。
——今後、デジタル推進室ではどのような支援を行っていきますか。
宮本:デジタルの最大の強みは、町民の選択肢を増やし、利便性を向上できることだと考えています。現状はまだ紙で行う事務が多いため、今後はオンライン化とあわせて「書かない窓口」などの取り組みも検討していきます。
企画課デジタル推進室 室長 宮本 敦夫氏
米田:担当課自身が「電子化に取り組みたい」と思えるように、デジタル推進室ができる工夫はまだまだあると思います。私自身も勉強しながら、一つ一つの支援を行っていきます。
白川:研修などを通じて、全庁的なITリテラシーを上げながら、利用者の選択肢を増やし、デジタル推進に取り組んでいきたいと考えています。初期的には、オンライン申請数の目標値を定めるのではなく、できるものから順に進めていく予定です。紙で申請したい方は紙で、電子で申請したい方は電子で申請できるような仕組みを用意することを通じて、住民サービスの向上に取り組んでまいります。
取材・写真:佐竹 佳穂 / 取材・文:東 真希(Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)
苅田町が取り組む、手続きのオンライン化は「Graffer スマート申請」、「Graffer 手続きガイド」によって実現できます。複雑なプログラミングや手続きは必要ありません。情報の追加や変更も追加費用なしで分かりやすく設定することができます。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。
グラファー Govtech Trends編集部
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