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2021.04.15 Thu

オンライン申請「運用開始後」の悩みは横浜市に学べ ——すべての自治体に役立つデジタル化の定石

新型コロナウイルスを背景にオンライン申請を導入し、最大180分かかっていた窓口での滞在時間を1〜2分にまで短縮することに成功した横浜市。当時の様子は多くのメディアで取り上げられ、2021年には、横浜市庁内表彰の特別賞にも選ばれます。しかし、攻めを貫く姿勢はここでは終わりません。横浜市は、その後も追加施策を次々と実施。利用者の利便性を向上し続けます。デジタル化プロジェクトを「段階的に導入することが重要」と振り返るメンバーの方々。一体どのような施策を行ったのか、その詳細を詳しくお伺いします。

聞き手:本山 紗奈、東 真希(Govtech Trends編集部)

オンライン申請「運用開始後」の悩みは横浜市に学べ ——すべての自治体に役立つデジタル化の定石

「窓口の混雑」がオンライン申請を導入するきっかけに

横浜市は、2020年5月に「危機関連保証認定」のオンライン申請を導入。「危機関連保証制度」とは、売上高等が減少し、資金調達を必要としている事業者を支援するための制度だ。対象の事業者は、各自治体で手続きを行い、危機関連保証制度の認定を受けることで、各金融機関で対象の融資を申し込むことができる。

——「危機関連保証認定」のオンライン申請を導入しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

富澤:新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、認定を求める事業者が窓口に殺到したことが、オンライン申請導入のきっかけです。2020年4月の時点では、1日200人近くの事業者で窓口が大混雑したことで、待ち時間は最大180分にのぼりました。

——密を解消するために、オンライン申請を導入したのですね。

富澤:はい。密の解消に向けて、2020年5月にオンライン申請をスタートしました。制度的な背景もあり、当初の課題は5月の導入時点で大幅に解消。オンライン申請をされた方の窓口での滞在時間を、1〜2分にまで減少させることに成功しました。

参考『横浜市はオンライン申請にこう挑む。2ヶ月弱で中企庁との調整、システム導入、事務運用変更を実現した業務改革の詳細(2020年7月公開)』

——オンライン申請の取り組みは、2021年2月に横浜市の庁内表彰で特別賞を受賞しました。どういった点が評価されたのでしょうか。

富澤:必要書類の削減や、押印を不要とする見直しを一体的に実施し、来庁者の滞在時間や、職員の審査時間を短縮した点などが評価されました。

横浜市経済局 中小企業振興部金融課長 (緊急経営支援担当課長兼務)富澤 理子氏

「一気にオンライン化するのではなく、段階的に拡大していくことが重要」

継続的な業務改善を重ねる「危機関連保証認定」のオンライン申請。稼働開始以降も、融資を受ける事業者のための認定の申請を次々とオンライン化。利用者の利便性を高めている。

2020年5月にオンライン申請を開始。その3か月後の8月3日には「金融機関のワンストップ手続き」に対応。個別の事業者による申請だけではなく、金融機関が事業者の代理で行う申請のオンライン化にも対応した形だ。さらに、8月17日には「セーフティネット保証4号」のオンライン申請を導入。12月1日には認定書のデータをダウンロード可能とし、受け取りのための来庁を不要とできる「来庁不要化」を実施。短期間でデジタルの範囲を拡大していった。

——横浜市では、オンライン申請の提供範囲を少しずつ拡大していきました。なぜ、はじめから全ての制度を対象とするのではなく、段階的にリリースしたのでしょうか。

富澤:優先度が高く効果が大きいものから順に対応することを意識しました。デジタルでも実窓口でも同じですが、特にデジタル化は、段階的に進めるほうが成功確率が高まると考えているためです。アナログ業務を一気にデジタルに移し替えようとすると、関連する制度や人員が増えることで、問題が複雑になりがちです。するとデジタル化の難易度が上がり、当初、課題となっていた小さな問題さえ解決するのが難しくなってしまいます。さらに、プロジェクトの規模が大きくなると、スピードも遅くなりやすくなります。今回は特に、新型コロナウイルスの影響による窓口の混雑を解消するために迅速な対応が必要でした。そこで我々は、まずは足元の限定的な課題を解消し、そのノウハウを持って次のステップに進む方法をとることにしました。

——「導入はゴールではない」という考えが定着しているのですね。

伊藤:はい。デジタル化はシステムを導入して終わりではありません。利用者がオンライン申請を十分に利用してこそ価値を発揮するのです。今回導入したオンライン申請は、リリース当初から利用者や庁内からの評判も上々で、手応えがありました。しかし、「金融機関ワンストップ手続き」が開始されたことで、金融機関からの申請が、事業者からの申請よりも多い状態となっていました。開発当時にターゲットとして想定していた事業者の申請ではなく、金融機関からの申請が7割を超える状態ではオンライン申請を十分に活用してもらえません。そこで、オンライン申請をさらに活用していただくには何をすべきかを考え、「金融機関による代理申請」や「セーフティ保証4号」、さらに、「来庁不要化」へと対象を拡大していったのです。

横浜市経済局中小企業振興部 金融課緊急経営支援担当係長 伊藤 浩士氏

——対象制度を拡大する際には、どのような優先順位で行いましたか。

富澤:どういった制度を対象にオンライン申請を展開していくかを定める際に、我々は「影響範囲」と「効率性」という観点を重視しました。たとえば、「金融機関による代理申請」を「セーフティ保証4号」よりも優先したのは、対象をより拡大することができるためです。横浜市として「新たな手続きに対応した」と打ち出すには「セーフティ保証4号」のほうがインパクトがあります。一方で、より大きな効果を出す可能性があるのは「金融機関による代理申請」です。金融機関は、事業者の申請を取りまとめて申請を行うためです。申請ボリュームが見込める制度を優先することで、より多くの方がオンライン申請を利用できるようになるのです。

「利用者を中心に考えることを忘れない」

横浜市が2020年12月に行った施策が「来庁不要化」だ。「来庁不要化」とは、認定の写しをダウンロードできるようにすることで、書類を受け取るための来庁を、不要にするといったものである。公印付き原本の交付と本人確認を行うための前提としていた来庁を不要にしたきっかけは、徹底した利用者中心主義だった。

——なぜ、「来庁不要化」に踏み切ったのでしょうか。

富澤:せっかくオンラインで申請しても、認定書を受け取るために来庁してもらうのでは、利用者の負担が残るためです。基礎自治体の仕事は市民のためにこそ存在します。当初は、公印と本人確認の問題があるために来庁する方向でオンライン化を行いましたが、来庁不要化ができれば、より利用者負担を減らせます。そこで関係部署やグラファーと調整を行い、認定書のスキャンデータをアップロードするという方法を取り入れることで、認定書のデータの受け取りも含めて完全にオンラインで完結できるようにしました。

——デジタル化を進める際には、制度解釈が一つの課題となるかと思います。今回の「来庁不要化」への移行にあたってはどのような調整を行ったのでしょうか。

富澤:「制度がこうだからできない」と考えるのではなく、「制度をこう解釈すればできるのではないか」という方向で考えました。全体を通して、できない理由よりもできる理由を探すことが重要ではないかと感じています。

——運用を途中で変えるというのは思い切った選択だと感じます。「来庁不要化」に移行することで、事務オペレーションにはどのような変化がありましたか。

伊藤:来庁不要化に対応することによって、事務オペレーションにかかる時間は増加しました。原本が必要な方にお渡しできるように、これまでと同様の準備を行いつつ、公印が押された認定書をスキャンしてデータを手動でアップロードするためです。

——事務工数の増加は障壁にならなかったのでしょうか。

富澤:事務工数の増加を考える際に判断材料として比較したのが、「利用者が来庁のためにかける移動時間」と「事務オペレーションにかかる時間」です。どちらにより大きなメリットがあるかという観点で考えました。横浜市の場合、遠方の方は往復2時間半ほどかけて来庁します。一方、事務オペレーションの増加は約2分です。利用者を中心に考えると、認定書を受け取るたった数分のために来庁するのは、大きな負担です。事務オペレーションが増加することによるリスクもありましたが、今回の場合は、感染症拡大防止の観点からも利用者が「来なくて済む」というメリットが勝ると考えました。

事務工数の増加を判断する際に、利用者が来庁するのにかかる時間と、事務オペレーションにかかる時間を比較検討した。結果として、事務工数が増えたとしても利用者のメリットが勝ると判断した。

「現場の感覚を、全面的に信頼する」

——今回のプロジェクトは、どのようなチーム体制で取り組んだのでしょうか。

富澤:チームのメンバーに大きな変化はないのですが、導入時と運用時で役割を意図的に変更しました。導入時は、関係機関と調整しやすい本庁にいる川口を中心に。運用時は、現場で窓口の統括を担当する伊藤を中心に据えて導入を進めました。

——なぜ、運用に入ってから役割を変更したのでしょうか。

富澤:運用時は、導入時と異なり、利用者や職員の反応を見ながら改善していくフェーズだと考えているからです。前述したように、導入はゴールではありません。オンライン申請がスタートすると、利用者や職員の「ここが助かった」という声や「ここが分かりにくい」という評価が集まります。我々は、これらのフィードバックを参考にしながら改善をしていきます。そういった意味で、利用者の声や現場で発生するミスを一番に察知できる伊藤がもっとも適任でした。結果として、利用者のメリットをさらに高めていくことができたので、この方針が正しかったと実感しています。

担当を、横浜市経済局中小企業振興部金融課 緊急経営支援担当係長 川口 高志氏(写真右)から、現場を取り仕切る伊藤氏に変更。利用者の声を集めて改善サイクルを回す構造を作り出した。

——役割を変更することで、他にどのようなメリットがありましたか。

富澤:もう一つの観点として、民間企業であるグラファーとのプロジェクトを、より多くの職員に経験してもらいたいという考えもありました。民間企業とのプロジェクトで得られる経験は貴重です。導入時には川口がその役割を担い、実際に多くの気づきや学びを得ることができました。

オンライン申請の利用率は30%以上に。今後は、さらなる利用率向上に注力

——利用者中心のデジタル化を進めるために、今後はどのようなことに取り組んでいくのでしょうか。

富澤:今後は、オンライン申請の利用をさらに促進していきます。たとえば、利用者に対して、より分かりやすくオンライン申請を案内するために、横浜市側のホームページを改修していきたいと考えています。また、窓口を予約制にすることによって、密を避けるとともに、オンライン申請の利用の促進につなげたいと考えています。

伊藤:オンライン申請の利用率は、爆発的に上がるのではなくじわじわと増加していくものです。実際に、オンライン申請の利用率は当初5%程度でしたが、数か月をかけて30%を超えるまでに増加しました。今後も様々な取り組みを行うことで、多くの方に使っていただきたいと考えています。

改善活動によって、オンライン申請の利用率が増加している。

富澤:融資認定の一つである「セーフティネット保証5号」への対応も検討しています。現在オンライン申請に対応している「危機関連保証認定」は新型コロナウイルスによる影響が落ち着いた時には終了しますが、「セーフティネット保証5号」はその後も継続的に続く認定です。オンライン申請があることのメリットは、「窓口一択」ではなく「選択肢がある状態」を作り出せることです。利用者目線でも職員目線でも、窓口ではない受付方法があることは重要だと感じています。今後も利用者を「中心」に考えながら、取り組みを続けていきたいと思います。

プロジェクトメンバーの皆様。左から、横浜市経済局 イノベーション都市推進部 新産業創造課(ICT専任職)石塚 清香氏、伊藤 浩士氏、富澤 理子氏、川口 高志氏

 写真:本山 紗奈 / 文:東 真希 (Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。)


横浜市のオンライン申請は「Graffer スマート申請」によって実現することができます。横浜市では、今回取材した経済局の事業者向け手続きに加えて、市民に向けた転出届にも「Graffer スマート申請」を活用。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。

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