横浜市はオンライン申請にこう挑む。2ヶ月弱で中企庁との調整、システム導入、事務運用変更を実現した業務改革の詳細
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横浜市はオンライン申請にこう挑む。2ヶ月弱で中企庁との調整、システム導入、事務運用変更を実現した業務改革の詳細

2020.07.27 Mon

新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、神奈川県横浜市が取り組んだのがオンライン申請を活用した三密解消の取り組みです。横浜市はこの業務改革によって、繁忙期には最大3時間だった来庁者の滞在時間を、1〜2分にまで短縮しました。さらに中小企業庁との交渉により、押印を不要として後工程のミスが起こりにくく負荷が少ない運用の実現に成功しています。利用者の使い勝手がよく、問い合わせがほとんどない——このようなオンライン申請を2ヶ月間の短期間でどのように構築したのか。その工夫や効果を伺いました。

聞き手:本山 紗奈、東 真希(Govtech Trends編集部)

関連記事:『オンライン申請「運用開始後」の悩みは横浜市に学べ ——すべての自治体に役立つデジタル化の定石』

オンライン申請で来庁者の滞在時間を大幅削減することに成功

——オンライン申請を取り入れたことで、どのような効果がありましたか。

富澤:オンライン申請によって、30〜180分ほど発生していた来庁者の滞在時間を1〜2分に短縮しました。2020年3月頃から、新型コロナウイルスの影響で融資認定を受けるために来庁する事業者が窓口に殺到し、感染リスクが生じていました。当時の受付数は最大で1日197件と多く、今後さらに増加していくことが想定されていました。職員に加えて臨時スタッフの計20名程で対応していましたが、それでも添付書類が多く審査に時間がかかるなどの理由によって、来庁者の滞在時間は長時間化して現場は混雑していました。そのような状況の中、三密を防止するために窓口に来なくても申請できる仕組みが早急に必要とされていたことを受け、オンライン申請を導入したのです。結果として滞在時間を大幅に削減することができました。

横浜市経済局 中小企業振興部金融課長 (緊急経営支援担当課長兼務) 富澤 理子氏

富澤:滞在時間を大きく短縮できた背景には、従来の方法とオンライン申請とのフローが大きく異なることが挙げられます。従来、窓口で受け付けていた際には、まず受付をして面談し、内部で審査を行う間はお待ちいただき、審査が完了したら認定書をお渡しするといった流れでした。それに対してオンライン申請では、オンラインで申請してもらった内容を内部で審査し、審査結果をメールでお送りします。その後、来庁して本人確認を行って認定書をお渡しするといった流れに変更しました。来庁が必要なのは、認定書が間違い無く本物であるといった真正性を確保する手段として公印を用いているためです。

来庁者の滞在時間は30〜180分から1〜2分に短縮した。

※横浜市がオンライン化を行った「危機関連保証認定申請」とは
危機関連保証制度とは、売上高等が減少し資金調達を必要としている事業者を支援するための制度です。売上減少率が一定(※1)以上の事業者が、各自治体で手続きを行い、危機関連保証制度の認定を受けた後、各金融機関で対象の融資を申し込むことができます。2020年5月1日から実質無利子・無担保融資が全国で順次開始されたことで、申請数がさらに増加しました。(※1)最近1か月の売上高が前年同月比で15%以上減少し、かつ、その後2か月間を含む3か月間の売上高が前年同月比で15%以上減少することが見込まれる事業者。

——利用者の評判はいかがですか。

富澤:実際の利用者からは「他のオンライン申請よりも簡単でした」という声があがっています。分かりやすさを重視していたため喜ばしく思います。

事務にかかる工数を最大8割削減

——オンライン申請を導入したことで、審査などの事務業務にはどのような変化がありましたか。

川口:オンライン申請を導入したことで、もともと20〜60分かかっていた後工程の事務を10分程度に短縮しました。従来、対面で行っていた際には計算が必要でしたが、オンライン申請ではその必要がなくなるためです。

横浜市経済局中小企業振興部金融課 緊急経営支援担当係長 川口 高志

川口:自動で計算が行われるのは大きなメリットです。今回オンライン申請を導入した危機関連保証認定は、売上減少率が一定以上の事業者が対象です。そのため審査では、申請されている売上高に対する減少率を確認する必要があります。従来は、この部分を手動で検算していましたが、オンライン申請では利用者が申請に必要な数値を入力するとシステムがリアルタイムで自動計算を行い、申請対象者だけが申請できる仕組みを構築することができました。

事務業務は20〜60分から10分に短縮した。

——職員の評判はいかがですか。

伊藤:職員からは「こんな簡単なシステムならもっと使われればいいのに」といったポジティブな声があがっています。システムが計算を行うため、申請時の入力ミスさえなければ転記ミスや計算ミスは起こりえません。手動で計算するとどれだけ注意していても、どこかでミスが発生することがあります。それがシステム化することによって、発生しなくなるメリットは大きいと感じます。

横浜市経済局中小企業振興部 金融課緊急経営支援担当係長 伊藤 浩士

——オンライン申請を導入したことによる電話での問い合わせはありましたか。

富澤:電話での問い合わせはほとんどありません。使い方の質問などが殺到する可能性があると考えて専用回線を引いたのですが、実際にはそのような問い合わせは多くありません。

伊藤:実際にかかってくる電話の多くは、我々から架電したものの折り返しです。入力方法やログイン方法に関する問い合わせがくることはありますが、件数は想定していたよりもずいぶん少なくて驚きました。

背景は新型コロナウイルス感染拡大の防止

——オンライン申請の検討をはじめた背景には、どんな状況があったのでしょうか。

富澤:新型コロナウイルスの影響で混雑する窓口の三密を避けるために、窓口に来なくても申請できる仕組みを構築する必要があると考えていました。

——窓口に来なくても申請できる仕組みというと、郵送申請も検討されたのでしょうか。

富澤:郵送による受付も検討しましたが、最終的にはオンライン申請を選択しました。その理由は、郵送申請は業務が煩雑になり即時性にも課題があると判断したためです。郵送申請は、送付物の内容を確認し、不備があれば返送する必要があります。何度もやりとりが発生して認定までに時間がかかることも想定されます。他市にもヒアリングを行いましたが、事務工数が大幅に増加してしまうために、郵送申請をストップしているといった事例も聞かれました。事務ミスによる誤送付が起こりやすくなるという問題もありますし、追加の資料を郵送してもらう間に申請書類を保管しておかないといけないという運用面での問題もあります。限られた人員の中で、急激に増加する申請に対応するためには、郵送申請以外の方法に対応する必要があったのです。

——そこでオンライン申請の検討をはじめたのですね。

富澤:検討を進めている中で、ICT専任職の石塚からオンライン申請の話が持ちかけられたのがきっかけです。当時は人事異動の時期でもあったため、現場は流動的でした。しかし、三密を防止するためには、早急に対応する必要があります。そこで、その場ですぐに具体的なスケジュールの検討を始めたのです。

横浜市経済局 イノベーション都市推進部 新産業創造課(ICT専任職) 石塚 清香

トータル2ヶ月弱の短期導入はどのように進んだのか

——2ヶ月弱でオンライン申請を導入すると同時に、中小企業庁との調整、事務運用の変更を実施されたということですが、どのようなスケジュールで進めたのでしょうか。

富澤:4月1日からシステムの検討を開始し、5月25日にはサービスをリリースしました。全体で2ヶ月弱です。オンライン申請の話が持ち上がってから、すぐに内部での調整や、運用方法の検討を開始しました。その後中小企業庁との交渉を行い、具体的なシステム要件を固めました。要件が確定してからは、システムの詳細な仕様や文言を固めるといった流れでスピーディに進めました。

導入スケジュールは全体で約2ヶ月弱。短期間でオンライン申請をリリースした。

——オンライン申請のシステム導入にはどの程度の手間がかかったのでしょうか。

川口:システムに取り組んだ時間は2週間弱と短く、通常のシステムと比較すると格段に手がかからなかった印象です。その理由としては標準システムのカスタマイズで一からの作り込みではなかったことに加え、要件が単純化できたことなどがあげられます。そのため、どちらかというと既存業務の改革や要件を固める部分に多くの時間をかけることができました。要件が固まってからは迅速で、グラファーの担当者からさまざまな提案をいただき、短期間でシステムをリリースすることができたのではないかと思います。

——導入の際に重視した点は何ですか。

富澤:今回重視したのは、短期間の中で、既存のアナログな業務の効率化と、利用者の使い勝手の向上をバランスよく成立させることです。既存の業務をシステム化するだけではなく、業務見直しによる負荷軽減を模索したのです。使い勝手に関しては、単に分かりやすいというだけではなく、後工程での問い合わせが来ないようにすることを意識しました。いくら職員の負荷を軽減できても利用者の使い勝手が悪いと問い合わせが増加し、かえって業務工数を圧迫してしまうためです。

中小企業庁とどのような交渉を行ったのか

——業務の見直しのために、中小企業庁とはどのような交渉を行ったのでしょうか。

富澤:中小企業庁とは、押印を不要にできないかという交渉を行いました。システム化を見据えて業務フローを確認する中で、申請時の押印がネックであることが分かったためです。オンライン申請を行った時点を申請とみなすか、来庁した時点を申請とみなすかで申請に必要な情報が異なるため、申請時の押印の有無は大きなポイントでした。最終的には、中小企業庁が出すガイドラインにおいて、様式から印が削除されて押印を一律に求めないという内容が示されるに至りました。中小企業庁から示されたこの方向性によって横浜市の判断で押印を不要とすることができました。

——中小企業庁と交渉を行う際に意識したことはありますか。

富澤:オンライン申請のために押印を不要にしてほしいという点を強く要望しました。現場でお客様と接して感じている感覚を詳細にお伝えしたのです。押印が不要となった背景としては、当時、中小企業庁でも押印に関する議論が交わされていたことがあったのかもしれません。最終的には申請書の押印不要が実現できたことで、オンライン申請をより理想的な形で導入することができました。

利用者向けの画面で工夫したポイント

——利用者向けの画面では、どのような点を工夫しましたか。

石塚:オンライン申請の利用者向けの画面では、利用者の分かりやすさを重視して、項目の見直しを行いました。その結果、利用者が記入する項目は二分の一以下になりました。もともとは39の項目がありましたが、重複箇所を15項目、自動計算箇所を12項目削減した結果、申請者が入力する項目は大幅に減少しました。

利用者の分かりやすさを重視して入力項目数を見直した。その結果、全体で2分の1以下まで項目数を削減した。

——利用者向け申請画面の記載内容については、どのような工夫を行ったのでしょうか。

川口:記載内容に関しては、利用者が疑問を感じそうな箇所を解決するためのヒントを、その場その場で記載するように意識しました。たとえば「月別の売上高がわかる資料」の添付の箇所では、「例」をクリックすることで月別試算表の記載例がその場で確認できるようにしています。グラファーにもアドバイスをいただきながら、ユーザー目線で分かりやすい表現を意識しています。


法人名を入力すると、国税庁の法人番号システムを参照して法人番号などの情報が自動で取得できるように工夫している。本店所在地入力の手間を減らすと同時に入力間違いを防止できる。


「売上の減少率を計算する対象月」に関しては、最初は単月しか選べないような形式だったものを選択形式に変更した。
「1ヶ月の売上高の減少率」では売上高の減少率が自動で計算されるようにした。基準に満たない場合には申請を行うことができない。
「売上高の減少または減少が見込まれる理由」では、当初はフリー入力だったものを「来客数が減少しているため」「受注が減少しているため」などのリスト一覧から選択できるようにした。


「月別の売上高がわかる資料」に関しては、月別試算表の記載例が確認できるようにした。

運用しやすくするために工夫したポイント

——運用面では、どのような工夫を行ったのでしょうか。

川口:内部事務の見直しを行い、これまで4種類の添付書類の提出を必要としていたものを2種類に削減しました。もともと事業者の場合には、確定申告書・納税証明書が必要としていましたが、これを簡略化し、履歴事項全部証明書と月別試算表などの売上高が確認できる資料の2種類だけにすることができました。

運用面では、オペレーションの効率性を重視して審査項目の表示順を工夫したり、表紙が出力されるようにしたりしました。審査の際に管理画面上に表示する項目に関しては、実際の審査が行いやすいような順序にしています。また審査後には管理画面からそのまま表紙付きの認定書が出力されるようにしました。この工夫によって、審査後にはスムーズに認定書を出力することができます。表紙を付けたのは、表紙に記載された情報で名寄せして並べておくことで、利用者が認定書を受け取りに来た際に認定書を簡単に探し出せるようにして、滞在時間を短縮するためです。

表紙にはフリガナも印字している。フリガナは従来の申請書には記載欄がなかったが、実際のオペレーションを意識して今回新たに加えている。

今後はさらにオンライン申請の範囲を拡大

——滞在時間の削減にこだわり、さまざまな工夫を盛り込んだオンライン申請ですが、今後は、どのような改革を行う予定でしょうか。

富澤:今後はオンライン申請の範囲を拡大することで、さらに効果を出していきたいと考えています。具体的には、今回対応した危機関連保証認定に加えて、金融機関による取りまとめや、セーフティネット保証4号についても、オンライン申請に対応していきたいと考えています。金融機関によるとりまとめとは、融資に必要な認定申請を事業者の代行で金融機関が行うものです。現在金融機関の取りまとめ申請については従来通りの書面で対応していますが、対象数が多いためオンライン化することで大きな効果が見込めます。グラファーと協力しながらスピーディに改革を進めていきたいと考えています。

写真:野手 咲芳 / 文:東 真希 (Govtech Trends編集部)

(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)


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グラファー Govtech Trends編集部

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