参考記事:『電子申請サービス刷新の効果とは。150種類のオンライン申請を新サービスへ移行する北九州市の狙い』(2020年12月のサービス刷新当時)
新しい電子申請サービスである「Graffer スマート申請」を使った手続きは毎月増加
《北九州市が2020年に導入した電子申請サービス「Graffer スマート申請」。マイナンバーカードによる本人確認やクレジットカードによる決済機能を搭載。スマートフォンからもパソコンからも申請可能なフォームは、職員自らが簡単に作成できる。》
——2020年11月に電子申請サービスを刷新してから約8カ月が経過しました。オンライン化はどのくらい進んでいますか。
山本:「Graffer スマート申請」を利用してオンライン化した手続きは、順調に増加しています。
各課での活用が進み、直近では毎月200件以上のオンライン申請フォームが公開されている。電子決済や公的個人認証にも対応できる。
山本:イベントの参加申し込みやアンケートといった、期間を限定した申請フォームに多く用いられており、最近は、毎月200件以上のオンライン申請フォームが継続的に公開されています。
北九州市では、総務局、企画調整局、保健福祉局といった本庁の部局に加えて、小学校、図書館といった市が設置する機関でもオンライン申請の利用が進んでいる。
——刷新前と比べると、電子申請サービスの利用頻度は増えていますか。
山本:以前の電子申請サービスと比較すると、利用頻度は増えています。利用しやすいという理由はもちろんですが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、社会的に対面を避ける手段としてデジタル化が強く求められていたタイミングだったり、自治体DXを推進するために各課への案内を積極的に行ってきたりした背景もあるかと思います。
デジタル市役所推進室 デジタル市役所推進課 主任 山本 貴之氏
各課における電子申請サービスの活用事例①
申請数は約5,000件。学生向けに電子申請サービスを活用
《北九州市では、新型コロナウイルス感染症が拡大した影響で、経済的に困っている学生に向けた給付金制度である「新型コロナウイルス感染症の影響で経済的に困窮する学生への応援給付金」の申請受け付けに電子申請サービスを活用。学生から申請を受け付けるための申請画面を、所管課自身が用意した。》
オンライン申請の設定は「テストを含めて1週間。合計約15時間」
——設定にはどのくらい時間がかかりましたか。
香月:設定にかかった期間は約1週間、合計15時間ほどです。申請画面の原案作成にかかったのが約2日間で、その後、テストを行いながら公開に向けて精度を高めていきました。原案の作成よりも、精度を高めていく工程に時間をかけました。
テストを行いながら改善を重ね、約15時間で申請画面を完成させた。
——何名の職員がオンライン申請の作成に関わったのでしょうか。
香月:作成を担当したのは私一人です。テストは業務を所管する多くの職員に協力してもらいました。
——設定を行う前には、マニュアルを確認しましたか。
香月:マニュアルは必要そうな箇所だけを確認しました。全体像をつかむためです。あとは操作をしながら覚えていけば設定できました。システムは苦手な方なのですが、勉強の時間もそれほどかからず、数時間使えばコツはつかめるため、すぐに取りかかれました。
企画調整局 国際政策課 係長 香月(かつき) 麻記子氏
——テストはどのように行ったのでしょうか。
香月:20代から50代の複数の職員に、申請者の立場に立って試験的にテストデータを入力してもらい、意見を集約して修正していきました。例えば、単一選択と複数選択の使い分けや、入力制御、誤字・脱字を修正しました。実際の申請前に何度かテストを重ねたことで、より使いやすい申請画面を作り上げることができました。
——オンライン申請をゼロから設定して感じた、率直な感想を教えてください。
香月:もしこの電子申請サービスがなかったら、決められた期日に申請の受け付けをはじめることはできなかったかもしません。事業者にシステムを発注するための仕様書作りからはじめる必要があるためです。そういった意味で、この電子申請システムはまさに救世主でした。本当に「助かった」という一言に尽きます。
効果として「申請の約95%がオンライン。申請方法に関する問い合わせはない」
——実際にオンライン申請を公開したところ、どのくらい利用されましたか。
香月:約5,200件うち、約95%がオンラインで申請されました。残りの5%は郵送です。郵送の大半は留学生からの申請でした。
オンラインと郵送で受け付けたところ、約95%がオンライン経由で申請された。
——申請者からは、申請方法に関するお問い合わせはありましたか。
香月:申請者から、「申請方法が分からない、ログイン方法が分からない」といったお問い合わせがあるのではないかと思っていましたが、実際には1件もありませんでした。対象者が学生だったため、スマートフォンでの操作に慣れていたこともあるのかもしれません。
工夫したのは「分かりやすい書き方」
——オンライン申請フォームを作る際に、心がけたことは何ですか。
香月:紙の申請書の通りにオンライン化するのではなく、申請者に伝わりやすい表現になるように工夫を重ねました。意識したのは、より短く、学生から見て分かりやすい書き方です。申請の対象者には留学生も含まれていたため、留学生の目線で見て、難しい言い回しを使っていないか、やさしい日本語を使っているかといった点にも配慮しました。今後は、多言語表示機能があれば、さらに活用できるなと感じました。
香月氏のおすすめ「条件分岐機能」
条件分岐機能を用いることで、回答内容に応じて次の設問を出し分けることができる。
香月:選択した内容に応じて、必要な設問だけを表示できる、「条件分岐機能」は便利でした。例えば、日本人学生と留学生で設問を出し分けたり、振込先にゆうちょ銀行を選択した場合にだけ入力欄の桁数を変更したりすることができます。設定方法は簡単で、条件を選択していくだけです。二重で分岐したいと思うほどでした。意識せずに回答できるので、申請者にとっては便利だったのではないかと思います。
2022年5月追記:条件分岐機能は、二重分岐など、複数の条件分岐にも対応しました。
各課における電子申請サービスの活用事例②
事業者の申請オンライン化で、内部事務を効率化
《北九州市では、事業者向け申請にも電子申請サービスを活用。その一つが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、経営に大幅な支障をきたす飲食店を支援する「キタキュウYELLプロジェクト『春にいく券』」だ。クラウドファンディングを活用したプロジェクトに参加する事業者の募集をオンライン申請で行った。》
オンライン申請の設定は「慣れてしまえば30分程度」
——設定を行う前には、マニュアルを確認しましたか。
富山:主に初回の設定時にマニュアルを確認しましたが、その後は「プレビュー表示」を見ながら設定を進めました。「プレビュー表示」を確認すれば、設定最中に、申請者から見た画面を確認できます。実物を見ながら少しずつ修正できたので、設定しやすいと感じました。
「プレビュー表示」を使えば、設定しながら申請者が見る画面をその場で把握できる。
——設定にはどのくらい時間がかかりましたか。
富山:オンライン申請画面の設定にかかった期間は約5日、4時間程度です。慣れてしまえば、簡単な申請画面なら、作成は早くて30分程度、項目の追加は5分程度でできるイメージです。
産業経済局 商業・サービス産業政策課 主任 富山(とみやま)聖子氏
効果として「申請受け付け後の内部事務を削減」
——オンライン申請は、どのくらい利用されましたか。
富山:約500件のうちおよそ90%がオンラインでの申請。残りの10%はFAXによる申請でした。
10日間ほどの申請期間で約500件の申請を受け付けた。そのうち約90%がオンラインによる申請。申請者は過去の申請内容をコピーして利用できるため、複数の店舗を経営している事業者の入力削減につながった。
——申請を受け付けた後の内部事務は、オンライン申請とFAXによる申請でどのような違いがありますか。
富山:オンライン申請は、FAXによる申請と比較して、作業工数を減少させながらも、精度を向上できます。FAXによる申請は、申請データを手入力する必要がありますが、入力の際には、読みづらい文字もあります。申請内容に不備があった際には、FAX原本からの転記ミスがないかを確認する必要もあります。そのため、オンライン申請と比較すると、その分だけ業務が増加してしまうこととなります。
——オンライン申請には、他にどのようなメリットを感じていますか。
富山:オンライン申請は、申請者のメールアドレスを確実に取得できます。メールアドレスは、申請完了後に案内を送るときや、電話連絡がつかないときに利用します。FAXによる申請でもメールアドレスは取得できますが、取得したアドレスが誤っている場合もあります。例えば、申請者がメールアドレスを誤って記入した場合や、内部事務側のデータ入力が誤っていた場合です。一方、オンライン申請は、申請開始前にメールアドレスを確認するステップが入るため、正しいメールアドレスが取得可能。より確実な連絡先が把握できます。
工夫したのは「申請者の目線に立つこと」
——オンライン申請フォームを作る際に、心がけたことは何ですか。
富山:申請者目線を意識することを心がけました。言い回し一つひとつに配慮して、どのような表現が一番伝わりやすいかを検討。項目名や記載例の文字数に制限がある中で、何が最も申請者の方に伝わりやすいのかを推敲しました。
富山氏のおすすめ「プレースホルダー機能」
富山:プレースホルダーとは、入力欄にあらかじめ記載しておく文章のことです。一般的には、入力例や項目名、入力指示を記載します。
プレースホルダー機能を用いることで、申請間違いの防止につながった。
富山:入力ヒントとして利用できるプレースホルダーを活用することで、間違ったデータが申請される割合が減りました。例えば、電話番号にハイフンを入れてほしい場合にはプレースホルダーを「例)090-0011-0011」といったようにしておきます。すると、申請者はそれに倣った形でデータを入力します。以前のシステムではプレースホルダーを簡単に設定できなかったため、表記がそろっていない申請データを大量に整え直す必要がありました。今回作成したオンライン申請では、プレースホルダーを設定したことで、データ成形の作業量が削減できたので、大変助かりました。今後も、さまざまな機能を業務の効率化に役立てていきたいと思います。
写真:本山 紗奈 / 文:東 真希 (Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)
北九州市が取り組む、電子申請システムを活用した全庁的なオンライン化は「Graffer スマート申請」によって実現できます。費用や導入期間については、無料お問い合わせからお気軽にご相談ください。
グラファー Govtech Trends編集部
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