【ガブテックイベント】平井大臣登壇のMSLab2019レポート「日本のスタートアップ エコシステムが進化するための官民連携の姿とは」
自治体職員の方に向けて、デジタル行政の最新情報をお伝えするGovtech Trends編集部です。官民連携の新しい切り口として、行政が抱える課題をテクノロジーで解決することを目指す「ガブテック」が今、世界で大きな注目を集めていることをご存知でしょうか。日本においてもガブテックは広がりを見せています。
2019年8月30日(金)には、マイクロソフトが開催する「Microsoft Innovation Lab 2019」において、これからの官民連携の姿に関するパネルディスカッションが行われました。そこで今回は、スタートアップの最前線を走るエキスパートと平井卓也氏(IT・科学技術担当大臣)が登壇した講演の様子についてレポートします。
取材・写真:田村 愛、文:東 真希(Govtech Trends 編集部)
官民を代表する5人のキーマンが議論を交わす
官民をそれぞれ代表するメンバーが登壇。西村氏、村田氏、志水氏とともにグラファー石井が官民連携とスタートアップに関するパネルディスカッションを行いました。
左から、西村氏、村田氏、グラファー石井、志水氏(敬称略)
西村 賢
Coral Capital Partner & Chief Editor
最新のスタートアップ企業やプロダクトを取り扱うメディアであるTechCrunch Japan元編集長。2019年からベンチャーキャピタルであるCoral Capitalに参画。
村田 祐介
インキュベイトファンド 代表パートナー
成長企業を支援するベンチャーキャピタリスト。日本で最も影響力のあるキャピタリストにも選ばれ、様々なベンチャー企業のグロースに携わる。
石井 大地
株式会社グラファー 代表取締役 CEO
行政手続きをテクノロジーで解決するスタートアップ企業であるグラファーを設立。鎌倉市、神戸市など多くの自治体と連携しながら日本のガブテックを牽引する。
志水 雄一郎
フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長 CEO
人材支援を通じてスタートアップをバックアップするフォースタートアップス代表。ベンチャーキャピタルやスタートアップと連携しながら、成長産業を強力に支援する。
特別ゲスト:平井卓也 大臣
IT・科学技術担当大臣
第4次安倍改造内閣にて情報通信技術(IT)政策担当 内閣府特命担当大臣(科学技術・知的財産戦略・クールジャパン戦略・宇宙政策)に就任。「デジタル手続法」の成立を牽引し、世界最先端デジタル国家を目指す。
官民連携の新しい切り口「ガブテック 」。その世界の動向とは。
世界的に見ると行政のデジタル化は1つのテーマとなっており、東ヨーロッパにある人口130万人の小国であるエストニアでは、国家全体のデジタル化が進んでいることで広く知られています。エストニア一国でのデジタルIDの総数は、ヨーロッパ全体よりも多いというデータもあるほどです。
また、官民連携の新しい切り口としても行政が抱える問題を解決するガブテックスタートアップの動きが世界的に加速しています。例えば、ガブテック領域のスタートアップでイグジット(※)した例が出てきたり、TechCrunchのベルリン大会でガブテックに取り組むスタートアップが優勝したりと、注目が集まっています。
※イグジットとは、IPO(株式公開)やM&Aによって投資家が資金を回収するための方法です。
日本国内と海外のガブテックの動向の違い
日本国内とアメリカのガブテックの動向として、アメリカはデータを活用するという視点、日本は手続きをデジタル化する視点という違いがあります。アメリカは既に政府機関のデジタル化が進んでおり、収集したデータをどのように取り纏めて活用して行くかが求められています。逆に日本は、業務が全てデジタル化されておらず紙で管理されているため、データを分析するというよりは、その前に手続きをデジタル化していくことが求められているのです。
日本のガブテックの大きな流れとしては、2019年に行政のデジタル化を後押しするデジタル手続法が成立しました。これからどのように行政手続きがデジタル化されていくのかが焦点になると考えられています。
日本の行政手続きを電子化することで、経済的に巨大なインパクトがある
行政手続きにかかるコストは、政府にとってはもちろん、民間事業者や個人にとっても非常に膨大です。例えば政府では、日本のGDP550兆円のうち約130兆円が政府部門に費やされていると言われており、政府や行政の業務を改善することで膨大なコスト削減につながります。民間の事業者では、行政手続きに費やす事業者側の人件費はGDPの1〜2%と試算(イギリスやデンマークのデータより)されています。日本に換算すると毎年5〜10兆円の人件費が民間事業者側の負担になっているということです。市民個人としても、行政手続きを行うために有給を取った経験がある方は多いのではないでしょうか。この時間を別の消費に費やした場合の経済効果も無視できません。
このように、行政手続きの煩雑さは、政府だけではなく事業者や個人にとっても大きな負担で、経済に対してネガティブなインパクトを与えていると言えます。そういった意味で、行政手続きの電子化を進めて行くことは、日本社会全体に大きな影響を与えるものなのです。
日本のスタートアップの今後について
平井卓也 IT・科学技術担当大臣
政府では日本のスタートアップに非常に注目しており、スタートアップエコシステムの拠点形成をはじめとした、新たな支援プログラムを年末に向けて準備中です。まずは、スタートアップエコシステムの拠点を形成し、シナジー効果によって必要な人材同士が連携していけるような場を作ります。年末には新たなプログラム実施に向けたイベントを開催することも予定しています。将来的には日本でも5年で20社ほどのユニコーン企業(※)が排出できるのではないかと思っています。
※ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル以上で未上場のテクノロジー企業のことです。
日本政府がスタートアップを支援している理由の1つとしては、今日本が抱える少子高齢化社会の問題解決にスタートアップの持つ技術力が重要だからです。現在日本では、高齢化や人口減少が非常に早いスピードで進んでいます。世界でも例を見ないこの超少子高齢化を乗り切るには、これまでにない新しいやり方や、新しいテクノロジーが必要です。そのためにはスタートアップの革新的な技術力が求められているのです。
政府では、スタートアップ企業にチャンスを与えるために、行政や国が率先してスタートアップに発注をするなど、調達の段階から支援をする取り組みをはじめています。そういう意味では、これから5年間くらいで景色が変わるのではないかと思います。日本の技術や考え方、人材のポテンシャルは非常に高いと言われているので、それを生かして世界に出て行くスタートアップを作っていきたいと思っています。
日本の弱点は、「失敗を気にしすぎる、まずはやってみるという力が弱い」ということだと考えています。過去の延長戦で微調整するやり方では、幸せを実感できる社会にはなりません。これからの日本を変えて行くために、役人自身のマインドセットも変えていくべきです。
編集後記
「Microsoft Innovation Lab 2019」のレポートをお届けしました。行政のデジタル化は、これからの日本の経済にとって非常に大きなインパクトを持つことがディスカッションされました。
平井卓也氏(IT・科学技術担当大臣)から語られたように、スタートアップは、その高い技術力や革新的なノウハウから、行政改革の新たなパートナーとして期待されています。これから数年間で、行政×スタートアップがタッグを組む事例もさらに増えてくることが期待されます。
(※文中の敬称略。所属や氏名は取材当時のものです。)
行政デジタル化の実現に向けて、各自治体では取り組みが進んでいます。デジタル改革を後押しするのは、あらゆる行政手続きをオンラインで完結する「Graffer スマート申請」、簡単な質問に答えるだけで必要な行政手続きを洗い出せる「Graffer 手続きガイド」などの製品です。Graffer 製品の導入期間や費用については、お問い合わせ窓口からお気軽にご相談ください。
グラファー Govtech Trends編集部
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株式会社グラファー
Govtech Trendsを運営するグラファーは、テクノロジーの力で、従来の行政システムが抱えるさまざまな課題を解決するスタートアップ企業です。『Digital Government for the People』をミッションに掲げ、行政の電子化を支援しています。