デジタルファースト法案とは。行政手続きはどう電子化されるのか?今後の課題は。【総まとめ】
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デジタルファースト法案とは。行政手続きはどう電子化されるのか?今後の課題は。【総まとめ】

2019.08.27 Tue

行政手続きをデジタル化し、電子行政を進めるための法律であるデジタルファースト法(デジタル手続法)とは、一体どのような法律なのでしょうか。デジタルファーストの特徴であるデジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップの3つを通じてデジタル手続き法の内容について詳しくご紹介します。

さらに、デジタルファースト法が抱える課題についても解説します。デジタル手続き法は、印鑑業界の反発などで骨抜きにされたというニュースを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。紙の手続きの全廃は進んでいるのか、なぜ骨抜き法案だと言われるのかという点や、今後実施される、引っ越しワンストップサービスなどの展開についても解説します。

デジタルファースト法(デジタル手続き法)とは

デジタルファースト法(別名、デジタル手続法)とは、行政手続きを電子化することを定めた法律で、これまで役所に出向く必要があった手続きがパソコンやスマホから行えるようになるものです。正式名称は「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律」と言います。

これまでの行政手続きは、紙での手続きが必要とされていたため市民の利便性は悪く、自治体での事務処理にも膨大な工数がかるという問題がありました。そこで2000年頃から、平井卓也大臣率いる内閣官房の情報通信技術(IT)総合戦略室を中心に、行政手続きの電子化に向けて本格的な取り組みが行われてきました。

デジタルファースト法の特徴

行政サービスの100%電子化を目指すデジタルファースト法には、デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップという3つの特徴があります。これらの特徴をしっかりと理解しておくことで、デジタルファースト法の目指すものが掴みやすくなります。

デジタルファースト

デジタルファーストとは、「行政手続きをデジタルだけで完結させる」という考え方です。行政で行うべき手続きを、紙などを経由せずに100%一貫してデジタルで完結させます。

ワンスオンリー

ワンスオンリーとは、「申請者に同一情報の提供を求めない」という考え方です。バックオフィスのデータを連携させることにより、一度提出した情報を再度提出する必要がなくなります。

コネクテッド・ワンストップ

コネクテッド・ワンストップとは、「手続きは1回だけ」という考え方です。民間サービスとの連携も含め、どこでも・一か所でできるサービスを実現します。

このような3つの特徴を持つのがデジタルファースト法です。デジタルファースト法が目指す姿は、原則インターネットだけで行政手続きが完結し、これまで手間がかかっていた行政手続きを簡単にすることなのです。

参考:首相官邸 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)『デジタル手続法の概要

デジタルファースト法で何が変わるのか

デジタルファースト法では、市民、企業、行政の3つの観点で大きな変化があります。単にインターネットで行政手続きが行えるので手続きが楽になる、というだけではなく、行政、企業の業務に非常に大きな影響があるのです。

1. 市民の負担が軽減される

役所で書面での手続きが必要だったものが、インターネットでの手続きに変化します。例えば引越しの際などにスマホやパソコンで手続きをするだけで、電気、ガス、水道も変更されたり、相続や死亡の手続きがオンラインで便利に行えるようになります。市民の利便性が向上し、行政手続きの負担が大きく軽減されるのです。
参考:『平井卓也IT担当大臣ブログ

2. 企業の負担が軽減される

社員のライフイベントに伴って会社が行う、社会保険や税に関わる手続が一元化されます。経団連や新経連はデジタルファーストに向けて様々な提言を行っていますが、その中で、企業が行政手続きにかける手続きコストは、年間3億4727万時間にのぼるとされており、手続きが簡素化されることで民間企業で8831億円の経済効果があると推計されています
参考:経団連『デジタル・ガバメントの実現に向けた緊急提言
新経連『【プレスリリース】「デジタルファースト社会に向けた法案への期待と要望事項」を 平井IT担当大臣に提出

3. 行政の事務工数が削減される

デジタル化が進むことによって、行政手続きがオンラインで実施されるようになり、事務工数が大幅に削減されます。これまで行なっていた書面での受付が不要になることによって、バックオフィス作業が削減されるのは大きなメリットです。地方行政などにおいて人員不足や予算不足が話題となる中、事務工数の削減は非常に重要な課題です。このように、市民、企業、行政の3つの視点で大きな恩恵をもたらすのがデジタルファースト法なのです。

デジタルファースト法のキーとなるのが、マイナンバーカードの普及

デジタルファースト法の基盤となるのが、個人を識別するマイナンバーカードの普及です。デジタルファーストを進めるには個人を識別する個人番号は必要不可欠と言えます。政府は2022年までにマイナンバーカードの普及させることを目指していますが、2019年現在、マイナンバーカードの普及率は10%程度と低迷しているため、大きな障害となっています。

政府では既に、マイナンバー通知カードの廃止やマイナンバーの利用事務の拡大を予定しています。2019年7月現在、マイナンバーカードの健康保険証利用の仕組みを本格運用することを決定しており、今後は国民全体にマイナンバーカードの取得が推進される予定です。
参考:首相官邸『マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針(案)

デジタルファースト法の課題。骨抜き法案だと言われる理由とは?

このようにメリットが大きいデジタルファースト法ですが、骨抜き法案だと言われることがあります。それは、自治体の対応が努力義務であることや、対面による本人確認が必要な場合には行ってもよいという例外がある等の理由のためです。

理由1:地方自治体の対応が努力義務であるため

オンライン化の判断は、必須義務ではなく各行政機関の裁量に任せられています。そのため、自治体によって実施するかどうかの判断が分かれてしまうことが問題とされているのです。対策として、地方公共団体の後押しとなるような政府の施策が、今後求められると考えられます。

理由2:対面による本人確認が必要な場合には行ってもよいため

デジタルファーストを阻む最大の要因である、対面の確認の境界を曖昧にしたことが、骨抜きと言われる最大の理由だと言われています。デジタルファースト法では、6条6項等において、本人確認を「対面により本人確認をするべき事情がある場合(途中省略)、当該部分以外の部分につき、前各項の規定を適用する」と定めています。対面での確認が必要な場合には行なってもよいとしたことで、完全なデジタル化には遠いものになってしまっているのです。

デジタルファーストでも印鑑は必要なのか

また、デジタルファースト法においては、本人確認の方法として押印が不要となりませんでした。つまり、完全デジタル化を目指すという建てつけはあるものの、実際のところ本人確認で印鑑が必要とされるケースは残るのです。背景として、全日本印章業協会などによる本人確認や法人設立における印鑑不要に反発する要望書があったことがメディア等で取り上げられています。業界団体の反対によって、「デジタルファーストだが印鑑での本人確認は残る」という形になってしまったのです。

デジタルファースト法の今後の予定

2019年に成立したデジタルファースト法は、今後数年をかけて、引越しワンストップサービスやマイナンバー通知カードの廃止などの取り組みが予定されています。様々な課題はあるものの、施策自体は少しずつ進行しています。

引越しワンストップサービス

引っ越しワンストップサービスとは、引越し手続きを一元化し、電気、ガス、水道の停止や開始の手続き、自治体への転入届、転出届の手続きなどをワンストップで行えるようにする取り組みです。インターネットで住民票の移転手続きを行うと、住所などの情報が電気やガスの契約に転用されるため、何度も入力する必要がなくなります。引越し手続きのワンストップサービスは、2020年からの開始が予定されています

参考:政府CIOポータル『引っ越しワンストップサービスの推進

マイナンバー通知カードの廃止

マイナンバーカードの普及を目的として、2019年5月から1年以内にマイナンバー通知カードが廃止されます。紙のカードを廃止し、ICチップつきのカードへの移行が促されることで、現在10%ほどのマイナンバーカード普及率を上げていくことが予定されています。

法人設立の簡易化

法人を設立する際に、これまで必要だった登記事項証明書の添付が省略できるようになります。法務局に出向くことなく、インターネットで申請できるようにすることで、法人設立関係の手続きが簡素化されます。

上記の3つの施策以外にも、今後さらに、具体的なアクションを明確化していくという流れとなっています。(2019年7月現在)
参考:政府CIOポータル『デジタル・ガバメント推進方針

補足:デジタルファースト法案成立までの流れ

2019年に成立したデジタルファースト法ですが、成立するまでの間に約20年の期間がかかっています。デジタルファースト法が成立するまでの長れを簡単に次に記します。

・2000年8月
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室が設置
・2000年11月
高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)(平成12年法律第144号)
・2001年1月
高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)設立
・2016年12月
官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号)交付
・2017年6月
世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(IT宣言・官民データ計画)閣議決定
・2017年5月
デジタル・ガバメント推進方針が策定
・2019年3月
デジタルファースト法案が閣議決定
・2019年5月
デジタルファースト法(デジタル手続法。令和元年法律第16号)が参院本会議で成立、交付

まとめ

デジタルファースト法案とは何かについて解説しました。印鑑業界の反発や、自治体の対応は義務ではないことから当初の構想から離れた法律になっている面は否めません。しかし、デジタルファースト法の特徴である、デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップの実現は、世界最先端デジタル国家を目指す日本にとって極めて大きな一歩です。

行政のあり方そのものを、デジタル前提で見直すデジタルガバメント実行計画の施策の実行が待ち受けている中、いかに実行していくかが大切だと言えます。

行政デジタル化の実現に向けて、各自治体では取り組みが進んでいます。デジタル改革を後押しするのは、あらゆる行政手続きをオンラインで完結する「Graffer スマート申請」、簡単な質問に答えるだけで必要な行政手続きを洗い出せる「Graffer 手続きガイド」などの製品です。Graffer 製品の導入期間や費用については、お問い合わせ窓口からお気軽にご相談ください。

グラファー Govtech Trends編集部

Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。

株式会社グラファー
Govtech Trendsを運営するグラファーは、テクノロジーの力で、従来の行政システムが抱えるさまざまな課題を解決するスタートアップ企業です。『Digital Government for the People』をミッションに掲げ、行政の電子化を支援しています。