イギリス流マイナンバー「デジタルID」の中身
海外動向

イギリス流マイナンバー「デジタルID」の中身

2020.01.30 Thu

国民へのIDカード発行法案が政権交代で廃止となった歴史を持つイギリス。しかしその後イギリスが取り組むのが、イギリス版マイナンバーとも言えるデジタルID「GOV.UK Verify」です。イギリスは国家として、電子的な本人認証の仕組み構築に取り組んでいるのです。さらに、イギリスが進めるデジタルIDは今、政府サービスへのアクセスだけではなく民間サービスとの連携を強く意識したものへの進化を目指しています。「GOV.UK Verify」とは一体どのような特徴を持つサービスで、今後どう展開していくのでしょうか。その最新動向を探ります。

イギリスには、マイナンバーカードはなくデジタルIDで本人認証を行う

日本では、マイナンバーカードでオンラインでの各種行政手続きのための本人認証を行うことを目指していますが、イギリスではデジタルIDを本人認証に利用する仕組みを採用しています。デジタルIDとは、電子的に本人認証を行える仕組みのことを言います。

イギリスのデジタルID「GOV.UK Verify」のサイトでは、オンラインで簡単にIDを発行することができます。デジタルIDを発行するには、免許証などの身分証と一緒に写った写真を送る、自分しか知らない質問に答える、銀行口座にオンラインでサインアップする、などの方法で本人認証を行うことが必要です。

IDが発行されると、政府のサービスなどへのログインが行えるようになります。

参考:『GOV.UK Verify』 公式サイト

イギリスのデジタルIDの特徴

1. 政府のサービスへアクセスできる

「GOV.UK Verify」を利用することで、ユーザーは政府のサービスにアクセスして所得税や年金の確認、運転免許証情報の表示などが行えるようになります。また、イギリスの機関では退職者の年金請求に「GOV.UK Verify」を利用できるようにするなど、活用の幅が広がっています。

出典:『Taking GOV.UK Verify to the next stage

2. 政府が認めるセキュアな身元証明

「GOV.UK Verify」のセキュリティは、なりすましの詐欺を防ぐために強化されています。「GOV.UK Verify」のモデルは、イギリス内のみならず、ヨーロッパ、アメリカでも導入され、イギリスはデジタルアイデンティティのグローバルリーダーとして認められているほどです。

また、民間組織の技術連携や、不正パターンの検出による詐欺行為の監視などにも注力しています。テクノロジーを活用することで、安全性が保障されたアクセスを確保することに重点を置いているのです。

3. 利用は個人の意思に委ねられている

「GOV.UK Verify」の利用は、プライバシー保護の観点から個人の意思に委ねられています。利用したい個人が自主的に登録することではじめて、使用できるようになります。

政府一部門としての私たちの役割は、デジタルIDシステムは英国のプライバシー規制と価値観に沿ったプライバシー保護の観点から構築されており、IDカードシステムや役所が管轄するいわゆる住民登録に相当するようなシステムを稼働させるつもりはないということである。

引用元:Moving forward our work on identity assurance

訳:Toshihiro Hatano(Govtech Trends編集部)

4. 複数のセキュリティレベルが設けられている

デジタルIDのセキュリティレベルには複数の段階があり、その認証段階によって利用できるサービスが異なります。例えば、一番低いレベルの「LOA1」は、機密情報に関わらない情報の閲覧などに使用できる認証です。「LOA2」「LOA3」と認証段階が上がっていくに従って、より厳密なサービスへのアクセスに使用されるようになります。

今後は「民間サービスとの連携」に焦点

イギリス政府は2019年、「GOV.UK Verify」を、公共だけではなく民間部門でも使用できるIDプラットフォームの基盤にすることを表明しました。その理由は、デジタルIDの市場規模や需要は、政府部門より民間部門の方がはるかに大きいことが挙げられます。

民間サービスに展開することで、経済的な価値の創出を目指す

民間サービスで共通のデジタルIDが使用できるようになることで、利用者が大幅に拡大し利便性が増すことが期待されています。つまり、民間への展開が進むにつれて「ネットワーク経済性」の効力が発揮され、イギリス全体に経済効果がもたらされるのです。

内閣府実行大臣は声明を発表し、デジタルID認証の分野で高い潜在需要が期待さる「GOV.UK Verify」の運用は民間部門へ開放し、”GOV.UK Verify”次の開発段階として民間部門が英国のデジタルID認証の利便性を高め、また使い勝手の良いアプリケーションの開発に責任を負うことが重要であると述べられた。

引用元:Moving forward our work on identity assurance

訳:Toshihiro Hatano(Govtech Trends編集部)

民間サービス側では、面倒な本人確認がデジタル化されるメリット

民間サービス側では、これまで対面での確認が必要だった手続きが、オンラインで簡単に行えるようになるというメリットがあります。例えば銀行口座の確認に「GOV.UK Verify」が活用されれば、オンラインで簡単に安全な手続きが行えるようになります。

有効期限内のパスポートなどの身分証を持っていれば「GOV.UK Verify」のアカウントは短時間で作成できます。政府によって安全性が保障されたデジタルIDで認証が行えるようになることで、時間やコストを削減することができ、さらに、なりすまし詐欺を防止することにもつながります。

「GOV.UK Verify」の利用者数は460万人以上。サービスへのアクセス人数が、6か月間で120万人増加したという実績もあります。ここに民間サービスの利用が加わることで、産業全体の本人認証手続きが圧縮され、業務コストが削減されることが期待されるのです。

まとめ:民間との積極的な連携によって国家的な普及を目指す「GOV.UK Verify」

イギリスのデジタルIDは、もともとは公共サービスだけで使用できることを目指してスタートした取り組みです。しかし、今後は民間サービスとの積極的な相互利用を目指すことで、急速に次の段階へとシフトしていくでしょう。安全なデジタルアクセスの重要度が年々高まる中、新たな価値の創造につながるイギリスの取り組みに、今後も注目していきます。

出典:
GOV.UK『Moving forward our work on identity assurance

参考文献:
GOV.UK『Who we are and what we do
GOV.UK『Keeping GOV.UK Verify secure from identity crime and fraud
GOV.UK Verify『Understand the different levels of assurance


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グラファー Govtech Trends編集部

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