「郵送にかかる期間やコストを改善したい」と考えたことがきっかけに
——「不在者投票の投票用紙のオンライン請求」はどのような仕組みなのでしょうか。
髙畑:「不在者投票の投票用紙のオンライン請求」は、遠隔地で投票をする市民が、オンラインで不在者投票の投票用紙を請求できるサービスです。市民はスマートフォンから、24時間いつでも簡単に投票用紙を請求できます。請求時の本人確認にはマイナンバーカードの公的個人認証を活用しています。
市民は郵送で手続きをしなくても、スマートフォンで不在者投票の投票用紙を請求することができる。本人確認には、マイナンバーカードを利用する。
——オンライン請求を導入する前は、どのような課題がありましたか。
髙畑:これまで市民は、不在者投票の投票用紙を受け取るために、郵送や窓口で手続きを行う必要がありましたが、郵送の場合には、投票用紙が市民の手元に届くまでに、期間も郵送費用もかかっていました。
選挙管理委員会事務局 髙畑 太貴氏
オンライン化によって、投票用紙の請求にかかる期間を短縮
——2022年度からオンライン請求を開始されたということですが、どのくらい利用されましたか。
髙畑:令和4年参議院議員通常選挙では、111件の請求のうち、25件がオンライン請求でした。想定より多く、幅広い年代の方に利用いただけたと感じています。
——オンライン請求によって、どのような効果がありましたか。
髙畑:市民が請求してから投票用紙が手元に届くまでの期間を短縮することができました。遠方から請求する場合、早くても往復で4〜6日ほどかかりますが、オンライン請求を利用すれば、2〜3日ほどで手元に届けられます。
片道分の郵送が無くなったことによって、投票用紙は、これまでの約半分の期間で市民に届けられるようになった。限られた投票期間の中、できるだけ早急に市民の手元に届く仕組みが構築できた。
髙畑:また、オンライン請求の場合、市民はいつでも手続きを行うことができます。職員が退勤した後に届いたオンライン請求についても、職員が翌朝すぐに処理することができるようになったため、郵送や持参による請求と比較して、市民の手元に届くまでの期間短縮につながっています。
——オンライン請求によって、市民には他にどのようなメリットがありましたか。
髙畑:郵送にかかる市民の費用や手間の削減にもつながりました。不在者投票の投票用紙を郵送で請求する場合、市民は請求時に請求書や封筒、切手を用意する必要があります。しかし、オンライン化によって、このような費用や手間が一切かからなくなりました。
——市民からは、どのような反応がありましたか。
髙畑:オンライン請求を利用した市民からの反応の中でも特に、「便利になった」、「想像より簡単だった」という声が印象的でした。
また、これまでは、請求した市民から「請求書が到着したかどうか」という確認の連絡をいただくことがありましたが、今回は1件もありませんでした。オンライン請求では、メールで処理の状況を確認できるため、市民の安心感につながったのではないかと考えています。
市民は、メールから処理の最新状況を随時確認できる。そのため「処理がどこまで進んでいるのか分からない」、「郵送した請求書が届いているか心配」といった不安の解消につながっている。
職員の業務を削減し、執務室の書類削減にも寄与
——職員の事務の観点では、オンライン請求の導入によってどのような変化がありましたか。
髙畑:事務の観点では、発送に関連する業務量が約4分の3に減少しました。「不在者投票請求書」を郵送する市民の多くは、通常、自らダウンロードして印刷するなどの方法で請求書を用意していますが、印刷環境などが無い市民に対しては、市から請求書の様式を郵送しており、その分の発送事務や郵送費用がかかっていました。今後マイナンバーカードがさらに普及することによって、より多くの方がスマートフォンから簡単に請求できるようになれば、業務のさらなる削減につながるのではないかと考えています。
オンライン化によって、印刷環境などが無い市民に対する請求書の様式発送に関わる業務が約4分の3に減少した。
——他には事務の観点でどのようなメリットがありましたか。
髙畑:市民から届いた請求書の開封にかかる時間が削減されました。これまで郵送で届いた請求書については、開封して中身を確認する作業が発生していましたが、オンライン請求の場合には、画面上で確認するだけで作業が完了します。画面上で作業を行った後は、これまでと同様に指定の住所に投票用紙を送付するだけです。
川端:郵送物が減ったことによって、執務室の書類削減にもつながりました。選挙期間中はどうしても執務室に書類が多くなってしまうのですが、オンライン請求の場合は市民からの郵送物がないため、紛失リスクが減少するメリットがあります。
総合政策部 デジタル推進課 デジタル戦略担当 参事補佐兼係長 川端 正也氏
スマートフォンでの利用を前提としたフォームになるように作成
——「不在者投票の投票用紙のオンライン請求」はどのような体制で構築しましたか。
髙畑:デジタル推進課にアドバイスをもらいながら、選挙管理委員会事務局でフォームを作成しました。すでに「Graffer スマート申請」を使って不在者投票の投票用紙のオンライン請求を構築していた先行自治体である北九州市の事例も参考にしました。テスト環境を構築した後には、レビューを行い、フォームをブラッシュアップしていきました。
——デジタル推進課ではどのようなアドバイスを行いましたか。
又野:デジタル推進課では、スマートフォンで操作しやすいフォームになるようにアドバイスを行いました。今回の「不在者投票の投票用紙のオンライン請求」はスマートフォンでの公的個人認証が必要な手続きのため、大半の方が全ての操作をスマートフォンで行います。そのため例えば、選択肢が少ない項目の場合には、セレクトボックスではなくラジオボタンにして、1回の操作で選択できるようにするなどの配慮を行っています。
総合政策部 デジタル推進課 デジタル戦略担当 主任主事 又野 洸陽氏
今後は、申請フォームの改善や導線改善に取り組んでいく
——今後はどのようなことに取り組んでいく予定でしょうか。
髙畑:利用者からいただいたフィードバックなどをもとに、より分かりやすい申請フォームを目指して改善していきます。例えば今回、「選挙名を入力しなければならないのが分かりにくかった」という意見があったため、次回は選挙名の項目を選択肢にするなどの方法を検討したいと考えています。
あわせて、オンライン請求率の向上にも取り組んでいきます。例えば、市の公式サイトからオンライン請求ページへの導線を、テキストリンクではなくボタンにするなどの方法を検討したいと考えています。
——デジタル推進課では、今後どのように庁内のデジタル化を推進していきますか。
又野:全庁的なデジタル化推進に向けて、まずは各担当部署において、「最初の1手続き」をオンライン化することを目指していきます。実際にオンライン化に取り組んだ部署からは「意外と簡単だった」、「次はこの手続きをオンライン化してみたい」といった反応もあるため、まずは「最初の1手続き」に取り組んでもらうことが大切だと考えています。
川端:「最初の1手続き」の選定は、市民や職員の負担軽減につながりやすい手続きを優先して進めています。特に、添付資料や決済のない手続きの方が、オンライン化に取り組みやすいと考えています。引き続き、市民や職員に丁寧に寄り添いながらデジタル化を推進していきます。
取材・写真:佐竹 佳穂 / 取材・文:東 真希(Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)
大野城市が取り組む、不在者投票の投票用紙のオンライン請求は「Graffer スマート申請」で実現することができます。複雑なプログラミングや手続きは必要ありません。情報の追加や変更も追加費用なしで分かりやすく設定することができます。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。
グラファー Govtech Trends編集部
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