自治体のワンストップ窓口(総合窓口)とは。問題点や先進事例をまとめて解説
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自治体のワンストップ窓口(総合窓口)とは。問題点や先進事例をまとめて解説

2019.08.16 Fri

市役所や自治体のワンストップ窓口(総合窓口)とは何か、これから総合窓口の導入を行おうと検討している自治体の方に向けて、総合窓口が抱える問題点や課題をまとめて解説します。「市民をたらい回しにさせたくない」という自治体の方のヒントとなるよう、ワンストップ窓口のメリットやデメリットをはじめ、総合窓口の自治体の先進事例として、宝塚市、神戸市、富士市についても取り上げます。

ワンストップ窓口とは

ワンストップ窓口(総合窓口)とは、自治体での各種手続きにおける市民の窓口を1つに集約し、ワンストップで手続きを完結する取り組みのことです。ワンストップ窓口の導入によって、市民は転入や転出、お悔やみといった手続きの際に、窓口を行き来する必要がなくなります。市民にとっては、ワンストップ(1つの窓口)だけで手続きが完結する分かりやすさなどから、満足度向上も期待されます。このような背景から、ワンストップ窓口は、窓口業務改善の取り組みとして注目を集めています。

ワンストップ窓口(総合窓口)を導入する自治体のメリット・デメリット

ワンストップ窓口のメリット

ワンストップ窓口によるメリットの一つは、市民満足度の向上です。複数の手続きが必要となる場合でも、窓口を何度も行き来したり、同じ説明を何度もしたりする必要がありません。

ワンストップ窓口のデメリット

ワンストップ窓口によるデメリットの一つは、窓口職員の負担が増加する場合があるといった点です。ワンストップ窓口を担当する職員は、これまでよりも幅広い業務を覚える必要があります。

ワンストップ窓口にはデメリットもありますが、自治体の業務効率化と市民の満足度向上の双方を実現できるため、8割の自治体が導入の必要性を感じているという調査結果もあります

参考:『2012年財団法人東京市町村自治調査会資料 図7「総合窓口の必要性」

ワンストップ窓口(総合窓口)の問題点・課題

必要性を感じているにも関わらず市役所等の自治体でワンストップ窓口(総合窓口)の導入がなかなか進まない背景には、組織や職員体制変更の難しさ、予算、システムの改修、職員の育成といった課題があります

さらに、庁舎のレイアウト変更といった課題も残ります。既存のレイアウトから変更する場合にはさまざまな調整が必要です。総務省では2015年に行政業務改革の一つとしてワンストップ窓口の導入を推奨していますが、実際にワンストップ窓口を導入している自治体は多くはない状況です。

参考:『2012年財団法人東京市町村自治調査会資料 図9「総合窓口導入の課題」


課題1. 組織や職員体制変更

ワンストップ窓口を導入する際には、組織や体制の変更が必要となります。これまで縦割りで行っていた業務の担当範囲を見直して、フローを整理しなおす際には、組織的な協力体制やトップの統率力が必要です。

課題2. 予算確保

ワンストップ窓口を導入するには、システム改修費用、庁舎のレイアウト変更費用といった費用が発生する場合もあります。入念な要件定義や、それに伴う見積もりも必要となります。

課題3. システム改修

総合窓口を設置する際には一定のシステム対応が必要です。システム選定の際には、「業務の見直しとセットでシステムを選ぶ」という視点が欠かせません。

課題4. 職員の育成

総合窓口を設置する際には、総合的な内容に幅広く対処できて、必要に応じて担当課にエスカレーションできる職員の育成が重要です。職員からは「1人の職員が幅広い業務を理解することは難しい」という懸念が発生することもあります。マニュアルや資料の整備も必要となります。

ワンストップ窓口(総合窓口)の導入率

全市区町村でのワンストップ窓口の導入率は、12.4%程度にとどまっています。町村を除いても17.4%となっています。2007年頃から注目を集めてきたワンストップ窓口ですが、日本全国で見るとまだまだ導入のハードルが高いというのが現状です。

参考:総務省『第4回 評価・分析WG御説明資料(地方行政関係)

※2010年の地方自治情報センターの報告においては、ワンストップ窓口の導入率は22.3%という結果となっています。

ワンストップ窓口(総合窓口)の先進事例

一方、総合窓口を導入することによって、市民満足度の向上や業務効率化に成功している自治体もあります。兵庫県宝塚市、千葉県船橋市、北海道北見市、兵庫県神戸市、静岡県富士市などでは、ワンストップ窓口を有効活用しています。

1. 兵庫県宝塚市の事例

兵庫県宝塚市では、「お悔やみ窓口」の手続きをワンストップ化しています。住民が亡くなった際の手続きは多岐に渡り、ご遺族には大きな負担がかかります。そこで宝塚市では2021年1月に「お悔やみ窓口」を開設。

宝塚市の「お悔やみ窓口」の特徴は、市民の満足度向上と職員の負荷軽減を同時に実現している点です。双方のバランスを取るのが非常に難しいところですが、デジタルを上手に活用することによって、職員の負担を増やすことなく利用者の92%が「満足」という成果を出しています。

宝塚市の詳細事例『「お悔やみ窓口」×「デジタル」最新事例。宝塚市の挑戦

2. 千葉県船橋市の事例

船橋市のワンストップ窓口の特徴は、市民が申告書を「書かない」窓口であることです。市民は、総合窓口で職員の聞き取りに答えるだけで申告書を完成させられます。船橋市は、積極的に窓口業務改善に取り組んでおり、業務改革モデルプロジェクトにも選定されています。
参考:『船橋市 窓口業務プロセス改革事業

3. 北海道北見市の事例

北見市のワンストップ窓口の特徴は、船橋市同様「書かない窓口」であることに加え、手続きの際に記入する申請書の書式の統一、手続きの際の押印省略の推進などの総合的な取り組みを行っている点です。職員発信で総合窓口の設置プロジェクトが進んだ事例で、業務改革モデルプロジェクトにも選ばれています。2009年から窓口業務改革を実施しており、徹底した効率化と市民の利便性向上を図っています。戸籍住民課において、転入・転出・転居・出生届・国民年金の加入など幅広い手続きに対応しています。
参考:『これからの自治体人材に求められること

4. 兵庫県神戸市の事例

2019年にはGovTech(ガブテック)サミットを主催し、行政とテクノロジーとの連携を率先している神戸市は、比較的新しく2016年から総合窓口の取り組みを開始しました。引っ越しに伴って発生する手続きに限定し、各区役所において国民健康保険、国民年金、後期高齢者医療などの手続きが行えるようにする取り組みを行っています。
参考:『平成 28 年度業務改革モデルプロジェクト

5. 静岡県富士市の事例

富士市は、船橋市や北見市と同じく、職員がヒアリングしながら申請書の作成を行うため、市民が申請書に記入する必要はありません。2010年からすでに総合窓口の設置を開始していた先進的な自治体で、庁舎のレイアウトにも工夫がされており、バックヤードにある執務スペースが見えないような配置、大きな呼び出し画面を設置するといった工夫がなされています。市民課において、転入、転出、転居、出生、婚姻などに伴う、国民健康保険課、介護保険課、学校教育課、廃棄物対策課、収納課の市税関係証明書の発行などを行っています。
参考:『窓口での手続きの流れについて

事例から学ぶこと

総合窓口においては、全ての手続きを網羅する必要はありません。各事例においても、一部分の手続きがワンストップ化されています。各自治体の課題や、庁内のレイアウト等にあわせて、必要に応じてワンストップ窓口を部分的に活用していくのがよいと考えられます。

総合窓口の種類

総合窓口には、統合施設型、職員派遣型、スーパーマン型といった3つのタイプがあります。確保できるスペースや、職員体制を鑑みて、どのタイプが適しているのかを検討します。

参考:市川市『ワンストップサービス窓口に必要な面積について

統合施設型

統合施設型は、大規模な自治体で導入しやすい方法で、ワンストップというよりは、ワンフロアに関連窓口を統合する方法です。集約によって市民の移動は少なく済みます。

職員派遣型

職員派遣型は、窓口を一本化して市民は動くことなく職員がローテーションで入れ替わり対応する方法です。社員出張方式とも呼ばれます。市民は窓口を動く必要がないため、見た目はワンストップ化されています。自治体内部では、組織改編や運用変更を行う必要がないため、取り入れやすい方法だと言えます。

スーパーマン型

スーパーマン型は、同じ職員が最初から最後まで全て対応する、本来の意味での総合窓口です。市民は同じ説明を何度も行う必要がありません。必要なスペースも比較的小さいというメリットがあります。一方、スーパーマン型を実現するには、対応できる職員の育成もしくは、人材に依存しないシステムの構築等の工夫が必要となります。

【補足】総合窓口のセミナー

総合窓口の現状や、システムについてまとめて紹介する「窓口総合セミナー」が自治日報社によって開催されています。これから窓口業務の改善に取り組む方や、さらなる改善を行う予定の方は参加してみてはいかがでしょうか。
参考:『2021年 窓口総合セミナー

市民満足度を向上させるワンストップ窓口

ワンストップ窓口(総合窓口)の課題や事例を解説しました。役所の総合窓口の導入には、課題もありますが、行政手続きがワンストップでできるといった点では、市民満足度に大きな影響を与えることができます。

一方で、自治体のコスト削減という観点では、単に総合窓口の設置するだけでは不十分だとも言えます。導入にあたっては、現状の業務を整理し、業務を効率化する観点とセットで行うことが重要だと言えます。

Graffer 手続きガイド」の活用によって、ワンストップ窓口にデジタルを取り入れることができます。例えば宝塚市のように、デジタルを取り入れて、窓口で案内を行う職員の負担を軽減する使い方が可能。費用や導入期間については、無料お問い合わせからお気軽にご相談ください。

グラファー Govtech Trends編集部

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