神戸市福祉局「国民健康保険の脱退届」のオンライン申請によって、来庁者の割合が2割減少
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神戸市福祉局「国民健康保険の脱退届」のオンライン申請によって、来庁者の割合が2割減少

2021.12.08 Wed

「オンライン申請に迅速に対応することが、市民サービス向上や職員の生産性向上につながると考えた」と語る兵庫県神戸市。「国民健康保険の脱退」をオンライン化して、来庁者の割合を2割減少させた福祉局の取り組みについて伺います。

兵庫県神戸市:1,527,022人(令和2年国勢調査)

オンライン申請の導入によって、来庁者数の割合が2割減少

——「国民健康保険の脱退届」のオンライン申請は、どのような手続きなのでしょうか。

中本:「国民健康保険の脱退届」のオンライン申請は、就職などにより社会保険に加入したことで、国民健康保険を脱退する市民が行う手続きです。従来は窓口および郵送で申請を受け付けてきましたが、2020年11月にオンライン申請に対応。来庁や郵送の手間をかけることなく申請できるようになりました。

市民は、スマートフォンやPCから、24時間いつでも好きなときに申請できる。

——オンライン申請に対応したことによって、どのような変化がありましたか。

浦田:オンライン申請への対応後、非対面による申請の割合は、1割から3割に増加しました。それに伴い、対面による申請の割合が9割から7割に減少しています。

オンライン申請の導入後、対面による申請の割合が減少。来庁不要の市民サービスの実現に向けて、デジタル活用が進んでいる。

——非対面による手続きとしてオンライン申請が加わったことによって、市民の行動に変化が起きたということですね。

浦田:オンライン申請に対応してすぐに、非対面による申請の割合に大きな変化がありました。その背景には、オンライン申請が持つ特徴が「行動変容」につながりやすいものだったことが影響していると考えています。

——郵送申請だけでは行動変容に結びつかなかったものが、オンライン申請を加えることによって行動変容につながったということですね。オンライン申請が持つ、行動変容につながりやすい特徴とは、どのようなものでしょうか。

浦田:オンライン申請の「ワンステップでできる」という手軽さが、行動変容につながった要因の一つではないかと考えています。例えば、窓口での申請の場合には、役所に行くという行動を起こすために、スケジュールを調整したり、準備をしたりするといった複数のステップがあります。郵送による申請の場合にも、封筒を準備したり、切手を購入したりといった多くのステップがあります。一方、オンライン申請の場合には、時間や場所にしばられずに、スマートフォンやPCさえあればワンステップで手続きを完結できます。いくつもの煩わしいステップはありません。こういった違いが、これまで手続きを面倒に感じてきた方々の行動に変化をもたらしたのではないかと考えています。

左から、福祉局 国保年金医療課 業務改善担当係長 浦田 光宏氏、国民健康保険担当係長 中本 哲二氏、国民健康保険担当 吉谷 天晴氏

行動変容を後押しした「総合的な広報施策」

——市民の行動に変化をもたらす際に一つのポイントとなるのが、広報施策です。どのような施策を行いましたか。

浦田:市のウェブサイトへの分かりやすい掲載などを通じて、広報を行いました。さらに、神戸市の垂水区においては、実証実験として、より戦略的な広報施策を実施して効果をあげています。

——垂水区では、実証実験によってどのような効果をあげていますか。

浦田:垂水区では、非対面による申請の割合が、1割から3割に増加しました。垂水区はもともと、非対面による申請の割合が低い区だったのですが、広報施策の結果として、全区の中でも上位に位置するまでになりました。非対面による申請のうち、オンライン申請の割合は80%を超えており、約1年の取り組みを通じて、目に見える形で効果が現れています。

——垂水区で効果をあげた広報戦略について、詳しく教えてください。

浦田:垂水区においては、「来庁する市民はどこで情報を取得しているか」といった行動調査をもとに戦略的な広報施策を実施しています。一つひとつの施策を個別に行うというよりは、窓口全体を通じて、来庁する市民に対して集中的にオンライン申請を広報する取り組みです。

例えば、ポスターの掲示や対象者へのチラシの送付に加えて、電話や窓口における案内を行っています。電話や窓口における案内については、関連する手続きの際にオンライン申請の案内を行うことを業務フローに組み込んでいます。

——戦略的な広報施策の具体例として、まずは、ポスターの掲示について詳しく教えてください。

浦田:施策の一つ目として、国保窓口へのポスターの掲示を行っています。デザイン面においては、雑多な印象とならないように、神戸市全体で統一されたデザイントーンを適用しています。文章面においては、情報を盛り込み過ぎないことによって、市民の理解が進むように工夫しています。

市民の目につくよう、呼出機の上にポスターを掲示。パワーポイントで作成することよって、後から誰でも修正できるようにしている。


神戸市が行う、市民向けの広報キャンペーン「KOBE うわさプロジェクト」でも、オンライン申請を推奨する「チョット待って!その手続きオンライン申請できるかも」という分かりやすいポスターを用意している。

——掲示物を同色で統一して、窓口全体が雑多にならないようにすることによって、市民の目にとまるように工夫されているのが特徴的ですね。次に、電話や窓口での案内について教えてください。

浦田:施策の二つ目として、電話や窓口における案内の徹底を行っています。案内を徹底するために、職員一人ひとりに対してオンライン申請の説明を実施。職員自身がメリットを理解することによって、オンライン申請を必要とする市民に対して、しっかりと周知できるようにしています。

——最後に、チラシの送付について教えてください。

浦田:施策の三つ目として、対象者へのチラシ送付を行っています。国民健康保険を脱退する対象者に対して送付している勧奨通知に、オンライン申請のチラシを同封。チラシには、ポスターのデザインをそのまま流用したため、作成工数はかかっていません。オペレーション面でも、すでにある運用にチラシの封入を加えただけのため、運用負荷はほとんどかかっていません。チラシでピンポイントに案内を行うことによって、必要な対象者に認知を拡大できたと考えています。

市民からは「会社を休んで役所に行かなくてもよくなった」という声

——さまざまな広報施策によって効果をあげた「国民健康保険の脱退届」のオンライン申請について、実際に利用した市民からは、どのような声が届いていますか。

浦田:市民からは、「会社休んで役所にいかなくてもよくなったので助かった」「子どもがいたため区役所に行くのが大変なので、ネットで申請できてすごく便利だった」「市役所まで遠いので、ネットからできると助かります。今後も継続していただきたいです」といった声が届いています。

——市民サービスの向上につながったと言える取り組みですね。

中本:新型コロナウイルスによる感染拡大に伴い、「来庁や外出せずに手続きできるので、安心」という声も多くいただきました。早い段階からオンライン申請を準備していたことが、感染防止、市民の安心・安全につながったと考えています。

なぜ「国民健康保険脱退」をオンライン化の対象に選んだのか

——今回の取り組みは、オンライン化によって市民サービスが向上したことが、定性的にも定量的にも見てとれる事例かと思います。どのような経緯で取り組みをはじめたのでしょうか。

中本:神戸市が平成30年度に策定した「働き方改革(業務改革)ロードマップ2.0」を受けて、デジタル戦略部から声がかかったのがきっかけです。来庁不要な手続きを拡大していくことで市民サービスを実現するための取り組みのひとつが、「国民健康保険の脱退届」のオンライン申請です。

参考:神戸市「働き方改革(業務改革)ロードマップ2.0

——多くの手続きがある中、なぜ「国民健康保険の脱退届」を選んだのでしょうか。

中本:対象者のボリュームや特性、オペレーションといった観点から、「国民健康保険の脱退届」はオンライン化に適切だと考えたからです。

——対象者のボリュームや特性の観点において、どういった点がオンライン申請に適していると判断しましたか。

中本:対象者のボリュームが多く、デジタルになじみのある層が利用者であることを一つの軸として考えました。「国民健康保険の脱退届」の申請者は年間約33,000人で、その多くは、就職や転職を機に申請する若年層です。スマートフォンでの操作に慣れており、オンライン申請が利用しやすいため、効果が出やすいと判断しました。

——オペレーション面では、どういった観点で考えましたか。

中本:既存のオペレーションから大きく変える必要がないかどうかも重視しました。「国民健康保険の脱退届」は、すでに郵送による申請を業務委託により事務センターで運営しており、流れに組み込むことでオペレーションが組みやすいと考えました。

「導入前には検討事項もあった」プロジェクトはどのように進んだのか

——オンライン申請を導入する前は、先が見えない分、不安に感じる部分もあるとは思います。率直に、どのように感じていましたか。

浦田:導入前は、いくつかの検討事項がありました。例えば「オンライン申請は市民に利用されるのか」「オペレーション面は問題なく進むのか」「法令の解釈は問題ないのか」といった点です。

一方で、「市民サービスの向上に向けて来庁者を削減したい」という課題はすでに顕在化していました。遅かれ早かれ来庁者の削減に取り組むのであれば、早い段階から取り組んでいこうと考えました。早く取り組めば、市民はその分早くメリットを享受できるからです。

——すでに課題と解決策が見えているのであれば、迅速に対応するのがよいという考え方ですね。導入前にあった検討事項に対しては、どのように対処していきましたか。

浦田:プロジェクトメンバーがアイデア出しをしながら、検討事項をクリアにしていきました。一つひとつ対処していくことによって、想定していたような問題は発生しませんでした。

——検討事項に関してはいきなりすべてを解決するのではなく、一つひとつクリアしていったということですね。プロジェクトメンバーとしては、どのような職員が参加したのでしょうか。

中本:プロジェクトメンバーには、本庁のメンバーに加えて、区役所の若手職員を募りました。最前線で市民と接している若手職員を積極的に登用することによって、市民目線の斬新な発想を取り入れたいと考えたからです。これからキャリアを作っていく若手職員にノウハウや知見を残したいという考えもありました。結果として、デジタル化を通じて職員の育成につながったと考えています。

今後はさらなる改善を重ねて、より使い勝手のよいオンライン申請へ

——すでに具体的な成果をあげている「国民健康保険の脱退届」のオンライン申請ですが、今後はどのようなことに取り組んでいく予定ですか。

中本:今後はオンラインの利便性をさらに高めていきたいと考えています。例えば、窓口において関連する手続きをまとめて行うのと同様に、オンラインでも関連する手続きにうまくリンクできるような仕組みを検討できるのではないかと思います。あわせて、オンラインにおける文言や表現方法といった観点で、市民にとっての「分かりにくさ」を一つひとつ解決していくことによって、より利用しやすいデジタル環境を目指していきます。

——今回のプロジェクトにおいては、現場の巻き込み方も参考になるポイントだったと感じています。こういった観点で、最後に、これからデジタル化に取り組む自治体に向けて、アドバイスがあればお願いします。

中本:今回のプロジェクトは、組織の縦割りを超えて協力できる現場を見つけて、巻き込みながら進めていったのが一つのポイントでした。その際には、いきなり大きくはじめるのではなく、小さく始めて、少しずつ改善を加えていくことが大切だと思います。デジタル化は、今後どの自治体においても避けては通れないものとなっていきます。今後も、市民サービスの向上、職員の生産性向上に向けて、各自治体で事例を共有しながら取り組みを進めていければと思います。

取材:本山 紗奈 / 写真:本山 紗奈 / 文:東 真希 (Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)

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グラファー Govtech Trends編集部

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