給付金申請にオンラインを活用「約107時間分の業務削減、早期支給を実現」一関市
国内事例

給付金申請にオンラインを活用「約107時間分の業務削減、早期支給を実現」一関市

2023.01.10 Tue

「いちのせき事業者応援給付金」および「いちのせき事業復活給付金」の申請をオンライン化した岩手県一関市。約1時間でオンライン申請フォームを構築し、約107時間分の業務削減や事業者への早期支給を実現しています。

岩手県一関市:111,932人(令和2年国勢調査)

「いちのせき事業者応援特別給付金」「いちのせき事業復活給付金」とは
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により影響を受ける一関市内の事業者に対して支給する給付金です。

郵送での申請は、事業者・職員に大きな負荷がかかっていた

——「いちのせき事業者応援給付金」および「いちのせき事業復活給付金」のオンライン申請はどのような仕組みでしょうか。

菊地:「いちのせき事業者応援給付金」および「いちのせき事業復活給付金」のオンライン申請は、対象の事業者がPCやスマートフォンから給付金の申請を行える仕組みです。事業者は郵送したり窓口に行ったりすることなく、オンラインで手続きを完結できます。申請額についてはシステム上で自動的に計算されるため、事業者は必要な項目を入力していくだけで、正しい額で申請できます。

事業者は、オンラインで24時間いつでも給付金の申請ができる。事業者が選択した項目に応じて申請額が自動で計算されるため、申請の不備が少なく、事業者への負荷の小さい仕組みとなっている。

——どのようなきっかけでオンライン申請の導入を検討したのでしょうか。

菊地:給付金に関わる事業者や職員の負担を軽減したいと考えたのがきっかけです。2020年に新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、事業者向けの給付金の受け付けを郵送申請で開始したのですが、当時はイレギュラーな業務も多い中、少ない職員数でより迅速な対応が求められるような状況でした。

商工労働部 商政課 商政係長 菊地 由紀恵氏

——郵送のみで受け付けていた頃は、どのような負担があったのでしょうか。

菊地:郵送のみで受け付けていた頃に感じていた事業者・職員の負荷としては、大きく分けて三つありました。

一つ目は、申請の不備にかかわる負荷です。紙の申請書の場合、分かりやすい記入例を付けたとしても、申請のうちの約3割から5割に、記入間違いや記入漏れ、添付書類の不足が発生していました。不備があった場合には職員が電話で問い合わせたり、書類をFAXで送ってもらったりする必要がありました。

二つ目は、申請内容をエクセルシートに転記する負荷です。約1,700件の申請を手作業でエクセルシートに入力する業務を会計年度職員が担っており、1件あたり約8分の時間がかかっていました。

三つ目は、入力内容のチェックにかかわる負荷です。職員3人がエクセルシートに入力したデータや、財務システムとのチェックを行っていたのですが、窓口での対応も行いながら業務を担っていたため、一時的に負荷が集中してしまっていました。

——約1,700件の申請となると、保管する書類の量も多かったのではないでしょうか。

菊地:2つの事業をあわせると、約40冊以上のファイルが必要となっていました。添付書類だけで10枚以上となる事業者もいるため、保管場所として一定のスペースが必要となっていました。

厚み約10センチのファイル計40冊以上を、10年保管する必要があった。

本格導入の前に、オンライン申請を事業者へのアンケートに利用

——郵送での申請受け付けに課題を感じていた中、どのようなきっかけでオンライン申請の検討をはじめたのでしょうか。

須藤:きっかけは国から示された「自治体DX推進計画」です。オンライン化に向けて、まずは総務課から全庁に勉強会の呼びかけを行ったところ、商政課から手が挙がりました。話し合いを進める中で、まずは事業者を対象とした簡単なアンケートからオンライン化に取り組むのがよいのではないかという話が持ち上がりました。

総務部 総務課 課長補佐兼情報化推進係長 須藤 美由紀氏

——オンライン申請を、いきなり給付金の申請に使用するのではなく、まずはアンケートに利用した理由は何でしょうか。

菊地:事業者にオンライン申請が受け入れられるかどうかを確認したかったためです。当時、事業者向けにオンラインで行っている申請がなく、まずは簡単なものからはじめてみようと考え、2021年にアンケートを実施することにしました。アンケートでは事業者に対して、新型コロナウイルス感染症の影響や、今後必要な支援について確認しました。

——どのくらいの数の事業者がオンラインでのアンケート提出を選択しましたか。

菊地:約1,500の回答のうち3割の事業者がオンラインを、残りの7割の事業者が郵送での提出を選択しました。初回としては想像以上の事業者に利用いただいたと感じました。

——アンケートにオンライン申請を使用することによって、どのようなメリットを感じましたか。

菊地:オンライン申請を使用することによって、アンケートの集計結果がすぐに見られる点にメリットを感じました。オンラインで申請されたアンケートはすぐに集計結果を確認できますが、郵送で提出されたアンケートはデータの入力が必要です。入力は5人の職員が約1カ月かけて行ったのですが、傾向としては、オンラインで提出された3割と、郵送で提出された7割をあわせた集計結果は、ほとんど同じでした。

約107時間分の削減など、業務を大幅に効率化

——アンケートのオンライン化を経て、「いちのせき事業者応援給付金」および「いちのせき事業復活給付金」をオンライン化されたのですね。どのくらいの申請がオンラインで提出されましたか。

菊地:約1,750件のうちの5割がオンラインで申請されました。アンケートを実施したときよりも多くの事業者がオンラインを選択した結果となりました。深夜0時に受け付けをスタートしたのですが、翌朝すでに約10件の申請が届いていたので驚きました。

約5割の申請がオンラインで、残りの5割が郵送で提出された。

——オンライン化によって、どのようなメリットを感じていますか。

菊地:事業者への給付を早期化できた点にメリットを感じています。オンライン申請を導入する前は申請を締め切った後、すべての支払いが完了するまでに約1カ月かかっていました。しかし、オンライン申請を導入したことによって、申請を締め切った後2週間ほどで全ての支払いが完了しました。

すべての支払いが完了するまでにかかる期間が、約1カ月から2週間に半減した。

——給付の早期化によって事業者にメリットがあったということですね。職員の業務にはどのような変化がありましたか。

菊地:職員の業務においては、申請書をエクセルシートに入力する作業が約107時間分削減されました。オンラインで申請された分についてはすでにデータ化されているため、1件あたり約8分かかっていた作業が不要となりました。

オンラインで提出された申請については、申請書の内容を手作業でデータ入力する業務が一切不要になった。

——給付の決定通知書に関する業務については、何か変化がありましたか。

菊地:給付の決定通知書についてもオンライン化によって、2割ほどの業務削減につながったと感じています。郵送の場合は決定通知書を印刷・押印・郵送するという業務が発生していましたが、オンラインの場合は公印を省略したうえで、決定通知書のデータをアップロードするのみです。アップロードには「Grffer スマート申請」の交付物アップロード機能を利用し、事業者自身が決定通知書のデータをオンラインで入手できるような仕組みを用意しました。

——導入前、課題に感じていた申請の不備については、どのような変化がありましたか。

菊地:オンライン申請では、申請の不備がほとんどなくなりました。「Graffer スマート申請」では入力時に制御をかけることができるため、入力の段階で不備を防ぐことができます。

郵送のみで申請を受け付けていた際は約3割から5割の申請で不備があり、FAXで追加書類を送ってもらったり、書類を一度返送して修正後に再申請してもらったりといった手間がかかっていたため、業務は大幅に削減されました。

オンラインで受け付けた申請については不備がほとんどなくなり、関連する業務が大幅に削減された。

——不備がほとんどなくなったというのは大きな変化ですね。まれに不備が発生した場合は、事業者とどのように連絡を取り合うのでしょうか。

菊地:オンラインで受け付けた申請については、申請者とメールで連絡を取り合います。郵送で受け付けた申請については、電話で連絡を取り合っていたため、何度連絡しても時間帯が合わずにつながらないケースもありました。しかし、メールの場合、お互いにとって都合のよい時間帯に返信することができるため、事業者と職員双方の負荷軽減につながりました。「Graffer スマート申請」では、メールアドレス認証によって、すでに本人確認が完了したメールアドレスが取得できるため、確実につながる連絡先が把握できるのも助かりました。

事業者からは「分かりやすい」の声

——実際にオンライン申請を利用した事業者からは、どのような声がありましたか。

管野:事業者からは、「分かりやすい」、「手間なくできた」といったポジティブな反応がありました。事業者からの評価も5点満点中4.5点と高い結果でした。夜中の時間帯に申請している事業者もいたため、業務で忙しい中、手軽に申請できたことが、このような声につながったのではないかと考えています。

事業者からはオンライン申請に対してポジティブな声が届いた。

菊地:商工会議所の方からも「多くの自治体で給付金事業を行っているが、今回の一関市のオンライン申請は特に簡単だったという評判を聞いた」という声が寄せられました。

——事業者から、システムについてのお問い合わせはありましたか。

管野:システムに関する問い合わせはほとんどありませんでした。まれに、メールアドレス認証のメールが届かないという問い合わせなどがありました。

商工労働部 商政課 商政係 主事 管野 千夏氏

オンライン申請の申請フォームは「約1時間で作成」

——申請フォームの作成にはどのくらいの時間がかかりましたか。

管野:オンライン申請のフォーム作成にかかった時間は約1時間です。直感的に操作できるため、てこずること無く作成できました。事業決定から時間的余裕が無い中ではありましたが、修正も含めてトータル数日でフォームを用意するというスケジュールでも、無理なく対応できました。

——作成後には課内でチェックなどをされたのでしょうか。

管野:作成後には課内のメンバーにテスト画面で申請してもらいました。そのフィードバックの結果をもとにさらに2〜3時間ほど調整したうえで公開しました。

——申請フォームを作成する際、どのような点を工夫しましたか。

管野:不備をできるだけなくしたいと考え、申請金額が自動的に計算されるように工夫しました。「Graffer スマート申請」の自動計算機能(※)を活用することによって、申請者が選択した項目に応じて、自動的に申請額が表示される仕組みを用意しました。

(※)自動計算機能とは
計算式を設定することによって、回答内容に応じて必要な金額を表示できる機能。

——このような工夫によって、申請の不備減少につながったのですね。他にはどのような工夫を行いましたか。

管野:申請者が意識することなく必要な添付書類を添付できるように、入力フォームで選択した項目に応じて、添付する書類の項目が変化するようにしました。「Graffer スマート申請」の条件分岐機能(※)を活用すれば、条件を設定していくだけで簡単に項目を出し分けることができます。

(※)条件分岐機能とは
回答内容に応じて設問を出し分けることができる機能。

——申請フォームを作る際には、情報化推進係とも連携しながら進めたのでしょうか。

管野:分からない点は情報化推進係にアドバイスをもらうようにしていました。担当課とは違う目線で申請フォームを見てもらえるので、大変助かりました。

——情報化推進係ではどのようなアドバイスを行ったのでしょうか。

菅原:情報化推進係では、事業者目線で、入力項目を極力減らす観点のアドバイスを行いました。例えば、フリガナや性別など、紙の申請書に存在する項目でも、オンラインで必要かどうかといった点では検討の余地があります。

総務部 総務課 情報化推進係 主任主事 菅原 正晴氏

——事業者に対しては、どのようにオンライン申請の広報を行いましたか。

菊地:市の広報紙に給付金の案内とあわせて、申請ページの二次元コードを配置しました。二次元コードをしっかり確認してもらえるよう、できるだけ余計な文言を載せないように配慮しています。他には、会議所便り、市の公式ホームページやFacebookページ、事業者向けのチラシでも広報を行いました。

各所に二次元コードを配置し、オンライン申請ページへの遷移を促した。

管野:市の公式ホームページや事業者向けのチラシについては、郵送申請ではなくオンライン申請を目立たせるようにレイアウトしています。小さな工夫ではありますが、24時間いつでも申請できる趣旨の説明とともにオンライン申請を前方に記載することによって、オンライン申請がメインの申請方法として認識されるようにしました。

オンライン申請を活用し、さらなる利便性向上・業務効率化に取り組んでいく

——オンライン申請の導入を振り返っていかがでしたか。

菊地:オンライン申請は、事業者・職員の双方にとって大きなメリットがある方法だと感じました。例えば申請書についても、紙の場合にはどうしても情報量が多く、分かりにくくなりがちです。一方、オンライン申請は事業者が選択した項目に応じて添付書類を出し分けるなどの対応もできるため、よりシンプルに申請することができます。

——今後はどのようなことに取り組む予定ですか。

菊地:今回行った給付金事業について、オンラインで事業者へのアンケートを取って、振り返りを進めていきます。今後の課題として、オンライン申請を受け付けた後の決裁の電子化についても検討していきたいと考えています。

菅原:「Graffer スマート申請」ではデータをCSV形式で出力することができます。すぐにというわけにはいきませんが、データを活用することによって、財務会計システムへの手入力を無くし、さらに業務を効率化できるよう検討していきたいと考えています。

管野:今回の申請は事業者からも好評なため、機会があれば、今後は別の手続きもオンラインに移行していければと考えています。

——情報化推進係として、今後はどのような取り組みを行っていきますか。

須藤:情報化推進係では、日々「こうしたら市民や事業者が楽になるのではないか?」、「こうしたら職員の業務負荷が軽減されるのではないか?」と考えながらデジタル化に取り組んでいます。

今回の「いちのせき事業者応援給付金」および「いちのせき事業復活給付金」ではオンライン申請の活用によって、事業者に対しての早期支給の実現に寄与することができました。補助金等の事業は、受け付け・審査・支払い・証明書の発行など、事務が多い業務の一つのため、今後も類似の事業については、オンラインで受け付けることによって、市民・職員双方のメリットにつなげていきたいと考えています。

取材・写真:佐竹 佳穂 / 取材・文:東 真希(Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)

一関市が取り組む、給付事務のオンライン化は「Graffer スマート申請」で実現することができます。複雑なプログラミングや手続きは必要ありません。情報の追加や変更も追加費用なしで分かりやすく設定することができます。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。


グラファー Govtech Trends編集部

Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。

株式会社グラファー
Govtech Trendsを運営するグラファーは、テクノロジーの力で、従来の行政システムが抱えるさまざまな課題を解決するスタートアップ企業です。『プロダクトの力で 行動を変え 社会を変える』をミッションに掲げ、行政の電子化を支援しています。

一関市

人口:
11.19万人(令和2年国勢調査)

導入サービス:
Graffer スマート申請
Graffer 手続きガイド