ひとり親の「どの制度が利用できるか分からない」という悩みを解決したい。オンラインで支援策の周知に取り組む枚方市
国内事例

ひとり親の「どの制度が利用できるか分からない」という悩みを解決したい。オンラインで支援策の周知に取り組む枚方市

2022.09.22 Thu

「さまざまな制度がある中で、どの制度が利用できるか分からない」といった、ひとり親家庭が持つ課題の解決に取り組む、大阪府枚方市。厚生労働省が行う「ひとり親家庭等に対するワンストップ相談体制強化事業」による補助金を活用し、「Graffer 手続きガイド」を導入。ひとり親に対して、オンラインで制度を周知する取り組みを進めています。

大阪府枚方市 397,289人(令和2年国勢調査)

簡単な質問に答えるだけで、利用できる制度が分かる「ひとり親家庭応援ガイド」

——枚方市の「ひとり親家庭応援ガイド」は、どのようなサービスですか。

北本:「ひとり親家庭応援ガイド」は、スマートフォン等から簡単な質問に答えていくだけで、ひとり親家庭に必要な支援策を導き出せるサービスです。例えば、ひとり親になる前に必要な手続きを調べたり、離婚後に利用できる制度を調べたりする際に、さまざまな制度の中から、自分に必要なものだけを選別できます。

ひとり親家庭の方が、スマートフォンやタブレット、パソコンから、簡単な質問に答えていくだけで、自分が受けられる制度や支援の一覧を確認できる。例えば、「児童扶養手当を受給しているかどうか」、「どのくらいの年齢の子どもがいるか」といった質問に回答していくと、受けられる制度や支援の一覧が確認できる。個人情報の入力は一切不要。

——導入のきっかけは何だったのでしょうか。

北本:ひとり親家庭の方からの、「さまざまな制度がある中で、自分がどの制度を受けられるのか分かりにくい」、「時間がなくて電話すらかけられない」、「離婚前の相談をしたいけれど、周りに家族がいるので電話が難しい」という声がきっかけになりました。

——時間が取れないひとり親家庭の方のために、何かできることはないかと考えられていたのですね。

北本:ひとり親に対する支援は、申請しないと受けられないため、どうしてもご本人からの申し出が必要になります。しかし、ひとり親の方にとって、情報が無い中で、話をしたり窓口に行ったりするためのまとまった時間は、なかなか確保できるものではありません。「相談したい気持ちを抱えたまま、時間が過ぎていく」というケースも多いのではないかと思います。

数年に一度とっているアンケートや、市議会の意見もガイド導入のきっかけとなりました。例えばアンケートでは「閉庁時間にも対応してほしい」、「相談できる窓口が少ない」という声をいただきました。市議会から「制度の利用率が低い手続きについて、周知をもっと工夫できないか」といった意見もあり、これまでの取り組みとは別に、もっとできることはないかと考えていました。

枚方市 子ども未来部 子ども青少年政策課 北本 早氏

厚生労働省の「ひとり親家庭等に対するワンストップ相談体制強化事業」が後押しに

——課題を感じていた中、どのような経緯で「ひとり親家庭応援ガイド」を作ることになったのでしょうか。

北本:厚生労働省が行う「ひとり親家庭等に対するワンストップ相談体制強化事業」が取り組みの後押しとなりました。この制度を活用すれば、課題の解決に向けて、具体的な取り組みができると考えました。いろいろなシステムを検討し、最終的に「Graffer 手続きガイド」に決まりました。

「ひとり親家庭等に対するワンストップ相談体制強化事業」とは
ひとり親家庭が、必要な支援に繋がり、自立に向けた適切な支援を受けられるように、ITサービスを活用した相談体制の構築を行う事業です。(実施主体:都道府県及び市、福祉事務所設置町村、補助率10/10相当(上限8千万円))

ひとり親への「支援の入り口」として活用が進んでいる

——実際に「ひとり親家庭応援ガイド」を利用したひとり親家庭の方からはどのような反応がありましたか。

北本:リリース後3カ月間で500人以上の方がアクセスしており、想定していたよりも多くの方に活用いただいていると感じています。

——利用の時間帯は何時頃が多いですか。

北本:全体の約半数が、開庁時間にアクセスしています。導入前は、閉庁時間のアクセスが多いのではないかと考えていましたが、実際には、仕事の休憩時間などの隙間時間に利用いただくケースが多いように見受けられます。ガイドを利用すれば2、3分で結果が分かるので、「電話はかけられないけど、スマートフォンで調べることはできる」という方に届いているのではないかと考えています。

全体の約半数が開庁時間にアクセスしている。

——ガイドの導入を機に変化したことはありますか。

中武:ガイドの利用を機に、電話相談につながった事例がありました。ひとり親家庭の方はそれぞれ異なる事情を抱えており、中には「人には話しにくい」、「役所への電話に踏み切れない」と感じている方もいます。

一方、「ひとり親家庭応援ガイド」は、個人情報の入力なしに、スマートフォンでいつでも簡単に操作できるため、事情を抱える方が、より気軽に情報を得ることができます。複雑な制度を読み解く必要もないため、支援の入り口として役立っていると感じます。

ひとり親家庭相談支援センター(子ども未来部 子ども相談課内) 母子父子自立支援員 中武 絢子氏

山本:最近は、ひとり親家庭の方と面談をしている際、「ガイドを見たので、その制度のことを知っています」とお聞きすることもあります。ガイドを通じて、先に制度を知っていることで、より安心感を持って相談に来ていただけていると感じます。

支援員の「心の支え」としても活用が進む

——支援員の方は、どのように「ひとり親家庭応援ガイド」を活用していますか。

山本:相談者の方と電話をする際に、「ひとり親家庭応援ガイド」のことをお伝えするようにしています。支援員として、電話でコミュニケーションを取る際には、かなり多くの情報をやりとりします。そのため、支援員としては「お伝えした制度に漏れがないか」という不安を感じることがあります。

そこで、会話の中で「ひとり親家庭応援ガイドでは、今お伝えしたような制度を簡単に一覧で確認できます」のようにお伝えするようにしています。万が一、伝え漏れや聞き漏れがあっても「ひとり親家庭応援ガイド」を通じて補足することができるため、支援員の心の支えのようになっています。

ひとり親家庭相談支援センター(子ども未来部 子ども相談課内)母子父子自立支援員 山本 亜希子氏

——「ひとり親家庭応援ガイド」が、情報の「伝え漏れ」や「聞き漏れ」を防ぐ役割を果たしているということですね。

山本:「ひとり親家庭応援ガイド」を利用すれば、制度について再確認することができるので、支援員も相談者も、「今困っていること」に集中して話を進めることができます。

相談者の立場で考えたときには、「たくさん聞いたけど、制度を全部覚えられなくて不安」と感じる方もいるのではないかと思います。「ひとり親家庭応援ガイド」は、24時間いつでもスマートフォンやパソコンなどから簡単に制度を確認できるため、こういった不安の解消にもつながっていると感じます。

——支援員、相談者、双方の役に立っているということですね。

中武:ひとり親本人がお仕事をされているため、その親族が代わりに相談に来るケースでも「ひとり親家庭応援ガイド」が役立っています。間に人を介することによって、情報がなかなか正確に伝わらず、伝言ゲームのようになってしまう場合があるのですが、こういったケースにおいても、「ひとり親家庭応援ガイド」を介して、制度を正確に周知することができるようになりました。

他の活用方法としては、職員が制度の案内漏れがないか調べたり、制度の担当課を調べたりすることにも活用できるのではないかと思います。これから枚方市に転入する方にも活用いただけるのではないかと考えています。

導入時は、各課の協力を得やすいように進めた

——導入の際は、どのように周囲の課の協力を得るのかという点が一つのポイントになってきます。こういった観点で工夫したことはありますか。

北本:ガイドを導入するときには、関係部署となる24課に協力を得ながら進めました。協力を得るうえで重要だったと感じたのが、最初の説明会です。

——説明会ではどのようなことを伝えましたか。

北本:説明会では、「ガイドを通じて実現したいこと」を丁寧に伝えました。そのうえで、ガイドで紹介する制度の詳細を記入してもらうための回答シートの入力方法などについて説明して、「制度の名称はそのままの名称ではなく、分かりやすい名前で書いてほしい」などの依頼も行いました。

関係部署に回答シートを配布。制度の概要、持ち物などを入力してもらった。

——説明会のタイミングでは、ガイドを通じて実現したいことが明確になっていたのですね。

北本:ガイドを通じて実現したいことは、説明会の前にグラファーと枚方市で行った、キックオフミーティングを通して明確にしました。

説明会の前に行った、関係者間のキックオフミーティングを通じて、「こんなシステムを作ろう」というメンバーの思いが一つになった。

北本:キックオフミーティングでは、実際に現場でガイドを使用する支援員を交えて、「どんな思いで仕事に向き合っているのか」、「どんなシステムを目指したいのか」といったディスカッションを行い、最終的に、「これからひとり親になる人の不安を取り除くシステムにしたい」という目標を定めました。

——ひとり親の方にとって利用しやすいシステムにしていくために、工夫したことはありますか。

北本:一番工夫したのが、案内する制度に漏れがないようにすることです。システムでカバーしている内容と、口頭で案内する内容に食い違いが発生しないようにしました。

——かなり多くの制度がある中、どのようにして漏れがないようにしたのでしょうか。

北本:導入前に、細かくフロー図を書いて情報を整理しました。制度の一覧と対象者を一覧にして、どういった制度がどういった条件で受けられるのか、何度も話し合いながら整理しました。

フロー図を作成し、制度と対象者を細かく整理していった。

——フロー図をもとに導入を進めたのですね。

北本:フロー図をもとに構築した後にも、何度もテストを行いました。全ての関係部署に見てもらいながら、いろいろな目線で繰り返し細かく修正を行いました。

——結果として、現在の形の「ひとり親家庭応援ガイド」ができあがったのですね。

山本:こういったプロセスを通じて完成したガイドのため、相談者の方に対して、自信を持って案内できます。何人もの目線で細かく修正を重ねたため、制度やパターンをしっかりと網羅できていると考えています。

今後は周知を通じて、より多くのひとり親の支援につなげていく

——今後は、どのような取り組みを行う予定ですか。

北本:今後は継続的に、ひとり親家庭の方への周知を行っていきたいと思います。市の公式ホームページや、公式SNS、枚方市が作成している「ひとり親のみなさんへのてびき」への掲載などは、既に実施しています。

加えて、児童扶養手当の現況届を発送する際に案内を封入したり、枚方市で行っているひとり親LINE相談の際にもお伝えしたりといった周知をしていく予定です。

——他にはどのようなことに取り組んでいきますか。

北本:広報に加えて、「ひとり親家庭応援ガイド」の改善にも取り組んでいきたいと考えています。各課に一人、担当者を設置してもらっているため、制度が変わったときなどには、情報を都度最新に更新していきたいと考えています。あわせて、年に一度の見直しも行っていきます。

いずれは、「ひとり親家庭応援ガイド」を通じて洗い出した制度について、申請書などもダウンロードできるようにして、より便利にブラッシュアップしていきたいと考えています。

取材:本山 紗奈 / 文:東 真希 / 写真:野手 咲芳 (Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)

枚方市が取り組む、ひとり親家庭応援ガイドは「Graffer 手続きガイド」で実現することができます。複雑なプログラミングや手続きは必要ありません。情報の追加や変更も追加費用なしで分かりやすく設定することができます。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。

グラファー Govtech Trends編集部

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枚方市

人口:
39.73万人(令和2年国勢調査)

導入サービス:
Graffer 手続きガイド