窓口・郵送で受け付けていた届出を、全てオンライン申請に切り替え
——「介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算及びベースアップ等支援加算」のオンライン申請はどのような仕組みでしょうか。
楢島:「介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算及びベースアップ等支援加算のオンライン申請(以下、処遇改善加算のオンライン申請)」は、介護事業者が処遇改善加算のために行う計画書や報告書等の届出を、職場のパソコンからインターネットを利用して行える仕組みです。現在は全ての届出をオンライン申請で受け付けています。
介護事業者は、処遇改善加算の届出などを、24時間いつでもネット経由で行うことができる。
——オンライン申請を導入する前は、どのように受け付けていたのでしょうか。
楢島:以前は、窓口と郵送で届出を受け付けていました。事業者は、通常業務もある中で期日までに書類を準備して郵送したり、開庁している時間にあわせて窓口に行ったりする必要がありました。特に書類の枚数が多い場合には大きな負担となっており、事業者からは「書類の準備や提出が大変だ」といった声をいただくこともありました。
——窓口や郵送での受け付けに課題を感じる中、どのようなきっかけでデジタル化に向けた取り組みを始めたのでしょうか。
吉本:八王子市の基本方針「八王子未来デザイン2040」でDXの推進が重要なテーマとして明確に位置づけられたことを背景に、福祉部においても、デジタル技術の活用によって、新たな価値の創出と市民生活の質の向上を図るためにできることはないかと考え、庁内のデジタル推進室に問い合わせたのが取り組みのきっかけです。窓口と郵送で受け付けていた届出を2022年度にメールでの受け付けに切り替えて、2023年度にはオンライン申請を導入しました。
福祉部高齢者いきいき課 課長 吉本 知宏氏
オンライン化によって職員の業務負荷が半減
——オンライン申請を導入したことによって、職員の業務負荷はどのくらい減少しましたか。
楢島:窓口や郵送で受け付けていた頃の業務負荷を10割とすると、メールでの受け付けでは8割の負荷に減少し、オンライン申請では5割の負荷に減少しました。
デジタル化によって職員の業務負荷が減少した。
——メールでの受け付けとオンライン申請とを比較すると、オンライン申請のほうが業務負荷が小さくなったのはなぜでしょうか。
楢島:メールでの受け付けは、セキュリティ環境の影響で、返信や添付ファイルのダウンロードに時間がかかるためです。返信に1件あたり5分かかるとすると、200件対応するだけで、16時間が追加でかかる計算です。また、メールの到着確認の電話に対応する業務も追加で発生します。そのためトータルで考えると、メールでの受け付けは、窓口や郵送よりは負荷の軽減につながりましたが、オンライン申請ほどの軽減にはつながりませんでした。
福祉部高齢者いきいき課 主事 楢島 杏奈氏
——デジタル化したことによって、届出を受け付けた後のチェック業務に変化はありましたか。
細井:紙で受け付けていた頃と比較すると、約7割の人員でチェック業務が行えるようになりました。以前は、チェックの際に手作業で金額計算を行っていましたが、デジタル化したことでマクロを組んで自動的に計算できるようになりました。デジタル化のタイミングで審査項目を見直したこともあり、1件1件のチェック内容も半減しています。
デジタル化とあわせて審査項目の見直しなどを行ったことで、届出内容のチェック業務は、約7割の人員で行えるようになった。
計画書や報告書のペーパーレス化を実現
——書類の保管という面では、どのような変化がありましたか。
楢島:計画書や報告書の保存がデータで行えるようになったことで、ペーパーレス化が実現できました。書類は1年分で段ボール約3箱分あり、保存期間は5年です。そのため合計すると約15箱分の削減につながる見込みです。
段ボール箱に保存していた書類が合計15箱分削減されることで、保管スペースの問題も解消される。
——データ化されたことによって、書類を探し出す手間も省けそうですね。
楢島:書庫の中から該当のものを探し出す手間も削減されました。以前は、特に上の棚にある段ボールを取り出すのは大変で、その中から目的の書類を見つけるのは時間のかかる作業でした。しかし現在では検索するだけで必要な書類を見つけ出すことができます。
——データ化されることで、ファイリングする必要もなくなりますね。
楢島:以前は、約270事業者分の書類を、こより綴じでまとめていたためファイリングにも手間がかかっていました。事業所数の多い事業者の場合、1年分で約10センチの厚みになるため、1件ファイリングするためにも約3分かかります。このような作業がなくなったのも大きな変化です。
利用者からは「操作しやすく簡便だった」の声
——オンライン申請を利用した介護事業者からはどのような反応がありましたか。
楢島:オンライン申請を利用した介護事業者からは「操作しやすく簡便だった」「郵送よりも業務負担が少なくなり助かった」などの反応がありました。
100%オンライン化したところ、介護事業者からはポジティブな反応が届いた。
——来庁や郵送が必要なくなったことで、事業者の時間を短縮できているということですね。システムに関する事業者からの問い合わせはありましたか。
楢島:導入前は、「パソコンの操作が苦手な事業者も問題なく利用できるのか」といった不安や、「システムに関する問い合わせが増加するのではないか」という懸念もありましたが、実際には問い合わせは数件で、「簡単だった」という反応が大多数でした。用意したマニュアルについても「分かりやすい」という反応がありました。
オンライン申請が初めての事業者でも操作に迷わないように、操作方法を分かりやすく紹介したマニュアルを用意した。
審査や審査後の業務も効率化
——届出を受け付けた後、職員はどのようにチェックを行っているのでしょうか。
楢島:受け付けた届出はパソコンの画面上で審査を行っています。以前は紙で審査を行っていたため狭い机での作業は煩雑になりがちでしたが、現在は効率的に作業できるようになりました。
——作業の効率化につながっているのですね。オンライン化によって、他にはどのような変化がありましたか。
楢島:約7割の届出で発生する不備に対して、事業者に再提出を依頼する際の運用負荷が減少しました。これまでは再提出の依頼を行った後も実際に再提出があったかどうか確認するのは大変な作業でした。しかし現在は、提出ページとは別に、差し替え用のページを用意することによって、再提出があったにも関わらず見逃してしまうようなミスの防止につながっています。
——「Graffer スマート申請」の中で特に気に入っている機能はありますか。
楢島:利用者からの反応が確認できる「利用者アンケート機能」が気に入っています。事業者からのフィードバックを通じて課題が見えてくるため、細かな機能改善につなげることができます。職員のモチベーションにもつながっていると感じています。
事業者からの反応が確認できる「利用者アンケート機能」
申請一覧画面で、申請ごとのステータスが見られるのも便利です。メールで受け付けていた頃は、やりとりが受信トレイに埋もれてしまうため管理が煩雑になってしまっていました。しかし「Graffer スマート申請」では、進捗状況が一覧で見られるため見逃すことがなく、検索もしやすくなりました。
今後はさらなる利便性向上に取り組んでいく
——今後はどのようなことに取り組む予定でしょうか。
楢島:「Graffer スマート申請」には多くの機能があるため、まだ把握しきれていないものもあります。そのため、今後は機能を活用しながら、処遇改善加算のオンライン申請をさらに利便性の高いものにしていきたいと考えています。
細井:高齢者いきいき課では、処遇改善加算の届出以外にも、さまざまな届出があります。これらについても徐々に電子化に取り組んでいけたらと思います。
福祉部高齢者いきいき課 細井 彩花氏
吉本:高齢者を対象とした手続きについては、まだまだオンラインになじまない部分もあるのではないかと感じるものもあります。一方で、事業者向けの手続きについては、処遇改善加算のオンライン化で一定の手応えを得ることができました。今回得た知見を生かしながら、事業者の負担軽減に向けて、さまざまな場面でデジタルを活用していきたいと考えています。
取材:佐竹 佳穂 / 取材・文:東 真希/ 撮影:柏野 幸大(Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)
八王子市が取り組む、介護事業者による処遇改善加算の届出のオンライン化は「Graffer スマート申請」によって実現できます。複雑なプログラミングや手続きは必要ありません。情報の追加や変更も追加費用なしで分かりやすく設定することができます。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。
グラファー Govtech Trends編集部
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