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2021.07.13 Tue

「バーチャル都政」を目指す東京都下水道局は、約2万件を対象とした届出のオンライン化をどう進めたのか

2021年3月から「シン・トセイ」戦略として、都政の構造改革を進める東京都。そのコア・プロジェクトの一つに据えられたのが、年間約2万件の手続きを対象とした下水道局の排水設備計画に関する届出のオンライン化です。数社を対象にスタートして、段階的に対象を拡大しています。「バーチャル都庁」の実現を目指す東京都は、業務にデジタルをどのように取り入れたのか——東京都下水道局にプロジェクトの背景や進め方を詳しくお伺いします。聞き手:本山 紗奈(Govtech Trends編集部)

「バーチャル都政」を目指す東京都下水道局は、約2万件を対象とした届出のオンライン化をどう進めたのか

なぜ東京都でデジタル化が進んだのか?

——「デジタル化に取り組みたいけれど、なかなか進まない」といった自治体の声もお聞きします。東京都下水道局ではどのようにスタートしたのでしょうか。

松澤:東京都下水道局でも、約2年前の2019年頃にオンライン化を検討したことがありましたが、その当時はなかなか検討が進みませんでした。例えば「運用を変更して問題が起きないか」「これまでの窓口のままでもよいのではないか」といった声もありました。


下水道局 排水設備課 主任 松澤公俊氏

松澤:このような中で一つの後押しとなったのが、デジタル化に向けた機運の高まりです。新型コロナウイルス感染拡大を背景に、2020年頃から、行政でも非接触・非対面にシフトしていこうという動きが活発になりました。こういった背景を受けて、年間約2万件の届出をオンライン化して、窓口での対面接触を減少させようという動きがはじまりました。

——年間約2万件というと、かなりボリュームがありますね。

松澤:東京都下水道局の中では一番ボリュームが多いですね。事業者が排水設備を新設する際の届出や、排水設備を変更したりする際の届出をあわせて、年間約2万件となります。

——オンライン申請以外に、郵送やメールなどの方法も検討したのでしょうか。

松澤:郵送やメールでの受け付けも検討しました。そのうえで最終的にクラウドサービスを活用したオンライン申請が適していると判断しました。今回対象となる届出には、「図面のやりとり」が含まれるためです。郵送では図面の修正が発生した場合に書面で何度も往復する必要がありますし、メールでは履歴の管理が難しくなってしまいますので、いずれも現実的ではありません。そこでオンライン申請の導入を進めることにしました。

どのように、オンラインで「図面のやりとり」を完結するか

《事業者が東京都下水道局に届出を行う際には、排水設備の図面が必要となる。東京都下水道局では、この図面データをオンラインでやりとりできる仕組みを用意した。》

図面データ(イメージ)
排水設備が詳細に記された図面データは、オンライン上でやりとりする。

——オンラインで「図面のやりとり」をするということですが、どういった方法で図面を受け付けているのでしょうか。

松澤:届出画面の中で、図面の画像データをアップロードできるようにしています。

事業者はオンライン申請の中で、図面をアップロードする。東京都側は、受け取った図面を確認し、修正の必要があればメールや電話で修正を依頼。再度オンラインで届出を行ってもらう。

——図面データは、「サイズが大きくてPCでチェックするのが難しそう」というイメージもあります。データで受け付けることに対して、オペレーションを受け持つ職員の方から不安の声はありませんでしたか。

佐々木:最初の頃はやはり不安の声はありました。しかし、オンラインで図面をやりとりするのは大変だとも言えますが不可能なことではありません。ただ、窓口であればその場で話しながら解決できるものでも、デジタルでは何度か連絡を取り合う必要があります。この点については、今後よりよい方法を模索していきたいと考えています。

——図面データはPCのモニター上で、問題なく確認できるのでしょうか。

佐々木:図面データはPCのモニターでも十分確認できます。年配の職員もいるため、当初は「図面をPCのモニターで見るのが大変そうだ」「確認の際に、PCの操作が分かりにいのではないか」といった反応もありました。しかし実際には、図面の多くはA4サイズですので、PCのモニターでも問題なく表示できました。届出内容を確認する画面も、直感的に操作できる画面でしたので、図面データの確認に大きく手間取ることはありませんでした。

下水道局 施設管理部 排水設備課 主事 佐々木 徳朗氏

導入プロジェクトのポイントとなったのは、「段階的なオンライン化」

——これまで窓口でのみ受け付けていた届出をオンライン化するために、東京都下水道局ではどのようなステップを踏んだのでしょうか。

松澤:導入の際には、いきなり約2万件の全届出を対象とするのではなく、事業者を絞って段階的に対象事業者を拡大していきました。手法として選んだのは、システムの新規開発ではなく、パッケージを利用した試行運用です。

——対象事業者を絞ってオンライン申請を開始したのですね。このような進め方を採用した理由を教えてください。

松澤:小さくはじめてから、約2万件に対象を広げていったほうが、スムーズに移行できると考えたからです。事業者も職員もこれまで紙での届出に慣れているので、初めてのシステム利用にあたって、不具合や問い合わせが殺到する可能性が考えられました。内容の確認に時間がかかると、都民に迷惑をかけることになりかねません。そのため、まずは小さくはじめて、段階的に拡大するという進め方を選択しました。

——なるほど。まずは小規模でやってみる。その成果をもって拡大していくということですね。

松澤:オンライン申請は「運用開始後の改善」が大切だと考えています。システムは導入して終わりではありません。事業者や職員からの声をもとに見直しを重ねることで、さらに使い勝手のよいものにしていきたいと考えています。

——現状維持ではなく、常に改善の姿勢ですね。オンライン化をきっかけに具体的に見直したことはありますか。

松永:オンライン申請を導入する際に、押印や項目の見直しを行いました。例えば、紙の届出書では、指定事業者の欄が重複していたため、オンライン申請の導入時に、重複した項目を削除しました。

下水道局 施設管理部 排水設備課 主事 松永 圭右氏

松永:オンライン化のためのプロジェクトは、既存の運用を見直すきっかけにもなりました。例えば、これまで届出書の様式として定めていた厚紙の廃止、受付シールの廃止、押印の廃止などです。これまで窓口で提出を受け付ける際には厚紙に印刷したものを受け付けていました。しかし、オンラインで提出された届出書は普通紙に印字します。これを契機に、これまで慣例的に厚紙を様式として指定していた必要性を考え直し、事業者の負担なども考慮して窓口における受付でも、普通紙を可能としました。受付後に渡す届出シールに関しても、オンラインで受け付けた届出の分を郵送するのは現実的でないため、要望があれば交付する形にしました。その結果、シールという形式にこだわる必要がないことが分かり、運用を見直す契機となりました。押印の廃止に関しても、ハンコレスの流れを受けて廃止しました。

事業者からは「届出に行く必要がなくなるので助かる」。職員からは「直感的で使いやすい」という反応

——さまざまな見直しや工夫を重ねてオンライン申請を導入されたのですね。実際に利用した事業者からはどのような反応がありましたか。

松澤:「提出のためにわざわざ時間をかけて行く必要がなくなるので助かる」という反応をいただいています。事業者によっては、提出のために往復3時間をかけて届出に来ている場合もあります。そういった時間を削減できたことは、喜ばしいことだと感じています。

最大往復3時間がかかっていた移動時間をゼロにすることができた。

——職員の反応はいかがですか。

佐々木:オペレーションを担う事業所の職員からは、「直感的で使いやすい」という反応がありました。加えて、現場とのコミュニケーションの強化につながったという副次的な効果もあります。

——現場とのコミュニケーション強化というと、どういった効果があったのでしょうか。詳しく教えてください。

松澤:プロジェクトを通じて、現場の職員と話す機会が増えました。これまでは頻繁に集まる機会がなかったのですが、プロジェクトが一つのきっかけとなり、コミュニケーションを取る機会が増加。結果として、現場との距離が近くなり、意見が集まりやすくなりました。

——デジタル化プロジェクトを通じて、現場との関係によい変化があったということですね。これからデジタル化に取り組む自治体の方にも参考となりそうです。現場とのコミュニケーションは、どのような方法で行われたのでしょうか。

佐々木:職員同士の会議は、すべてSkypeで行いました。新型コロナウイルス感染症の拡大防止という背景もあり、直接集まるのではなく、オンラインで会話をする方法を採用しました。

オンライン会議の様子

——それは働き方の変革とも言えますね。オンライン会議は、当初からスムーズに進みましたか。

松澤:オンライン会議はこれまで実施したことがなかったので、当初は抵抗の声も寄せられました。しかし一度やってみると、移動時間が削減されてよいといった好評の声が集まりました。さらに、集合で開催するよりも頻繁に開催しやすくなり、現場とのコミュニケーション強化の甲斐もあってか、意見が出やすくなったり、前向きな声が集まったりする状況を作ることができました。今では、「ちょっと話を聞かせてほしい」といったシーンに、オンラインで気軽に話を聞けるようになりました。

今後は、さらなるデジタル化に踏み込む予定

——次はどのようなことに取り組む予定でしょうか。

松澤:内部事務のデジタル化も検討していきたいと考えています。現在はオンラインで申請されたデータをプリントアウトして、窓口で提出されたものと同様に、紙でファイリングしています。しかし、紙でファイリングしたものを取り出す機会は少なく、紛失リスクも考えられます。物理的に紙を保存し続けるスペースも必要です。そのため今後は、紙でのファイリングをなくして、デジタルで保存することも検討しています。

——届出をデジタルで保存することで、職場の働き方も変わりそうですね。

佐々木:そうですね。内部事務もデジタル化できれば、テレワークにも対応しやすくなると思います。

松澤:あわせて、オンラインの利用率を上げる取り組みも行っていきます。現在の利用率が32%なのですが、利便性をさらに向上させることで、利用率を上げていきたいと考えています。

——利用率のさらなる向上にむけて、今後はどのような施策に取り組む予定でしょうか。

松澤:オンライン申請を浸透させるには、まずは「一度利用してもらう」ことが必要だと考えています。一度利用してみてその後利用がなければ、システムの利便性に課題があると考えられますが、一度も利用していない事業者が多いということは、オンラインを利用することに対して、ハードルを設けてしまっているのかもしれません。一度利用してもらえれば利便性を体感してもらえると思いますので、今後は、個別の働きかけを通じて利用率の改善に努めたいと考えています。

 写真/文:東 真希 (Govtech Trends編集部)

(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)

グラファー Govtech Trends編集部

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