【特集】効果につながる「転出届のオンライン申請」がすべて分かる
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【特集】効果につながる「転出届のオンライン申請」がすべて分かる

2021.09.01 Wed

3月、4月の引越し繁忙期における窓口の混雑緩和を目的にした取り組みとして「転出届のオンライン申請」が進んでいます。転出届がオンラインで申請できるようになれば、住民は来庁せずにスマホから申請、自治体は内部事務の削減を見込めます。マイナンバーカードの交付枚数率が増加する中、実際にどのような効果が出ているのか——。2021年から転出届のオンライン申請をはじめた、秋田市、つくば市、横浜市の事例から、詳細な利用率や業務削減効果を明らかにします。聞き手:本山 紗奈、東 真希(Govtech Trends編集部) 

転出届オンライン申請を行う、3市のプロフィール

秋田市
人口:307,885人
マイナンバーカード交付枚数率:28.7%(3月)、39.9%(8月)
職員体制の特徴:各職員が、オンライン申請、窓口申請に関する一連の手続きが行える体制を取っている。

つくば市
人口:241,785人
マイナンバーカード交付枚数率:31.1%(3月)、39.6%(8月)
職員体制の特徴:オンラインでの受け付け、郵送物の開封と確認、住民記録システムへの反映といった業務ごとの分業が進んでいる。

横浜市
人口: 3,778,318人 ※18区の人口は約10万人から約36万人。
マイナンバーカード交付枚数率:29.5%(3月)、38.7%(8月)
職員体制の特徴:各区役所が手続きを実施、市役所ではオンライン申請の導入や各区への展開を担う。

出典
総務省『令和2年国勢調査 人口速報集計』、総務省『マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(2021年3月1日現在)』、総務省『マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(2021年8月1日現在)

1. マイナンバーカードの普及でオンライン化は進む

マイナンバーカードの普及を背景に、自治体における手続きのデジタル化が進みつつあります。2020年の年間交付枚数は過去最多の1,185万枚。マイナンバーカードの交付枚数率は34.2% (*1) となり、3人に1人がマイナンバーカードを保有している計算となります。政府が掲げる「2022年度末にほぼすべての国民にカードが行き渡るようにする」という目標に向けて、今後もさらに普及が進み、行政デジタル化を後押しすると考えられます。

(*1)出典:総務省『マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(2021年7月1日現在)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた現金10万円の一律給付のオンライン申請や、マイナポイント制度の導入によって交付数が増加。「転出届のオンライン申請」の本人確認にはマイナンバーカードが必要となるため、マイナンバーカードの交付が増えるにつれて、利用率の向上が想定される。

2. 引っ越しシーズンの繁忙は、どの自治体でも共通の課題

3月、4月の引越しシーズンにおける窓口の繁忙は、多くの自治体で課題となっています。混雑時の待ち時間は、受け付けまでの待ち時間で1〜2時間、さらに転出証明書を受け取るまでに30分〜1時間と、計2〜3時間に及びます。転出以外に複数の手続きがある場合には、最長4時間かかるケースもあるといいます。

転出入の約3割が3月、4月に集中している。
出典:e-Stat『住民基本台帳人口移動報告

窓口が混雑する原因の一つは、短期間に手続きが集中することにあります。3月20日頃から4月10日頃の間に、他の月と比べて2倍以上の手続きが殺到。休日開庁や窓口数の拡大、混雑状況の告知といった複数の対策を取っている場合でも、混雑の解消が厳しい状態となっています。

3. 秋田、つくば、横浜の3市で進むのが、「Graffer スマート申請」を活用した「転出届のオンライン申請」

窓口混雑の緩和対策の一つとして進むのが「転出届のオンライン申請」です。秋田市、つくば市、横浜市では2021年に「転出届のオンライン申請」を導入。行政デジタル化や三密回避の流れを受けて、市民がスマートフォンやパソコンから簡単に転出届の手続きができるサービスを開始。コンビニ交付や、フロアスタッフ業務の改善等に加えて、オンライン申請を導入することによって、「待たない窓口」「行かない窓口」の総合的な実現を目指します

参考:各市の「転出届のオンライン申請」ページ
秋田市
つくば市
横浜市(各区のページからオンライン申請が行えます)

「Graffer スマート申請」とは
「Graffer スマート申請」は、市民がスマートフォンから手続きを完結できるオンライン申請サービスです。マイナンバーカードを利用した本人認証、キャッシュレス決済など、市民にとって使い勝手のよい機能を備えています。「Graffer スマート申請」を利用した「転出届のオンライン申請」は、マイナンバーカードを用いた「特例転出」で行われます。 参考: Graffer スマート申請

特例転出とは
特例転出とは、マイナンバーカードを用いて転出入の手続きを行う仕組みです。転出時にマイナンバーカードを用いれば、転入地の市区町村では「転出証明書」なしに手続きが行えます。(マイナンバーカードに加えて、住民基本台帳カードでも特例転出が行えます。)

4. 転出届オンライン申請の利用率——マイナンバーカードの普及に伴い今後さらなる利用率の向上が想定される

秋田市、つくば市、横浜市における2021年の「転出届のオンライン申請」の利用率は、全体の約1割。「初年度にも関わらず、想定よりも多くの方が利用した(秋田市、つくば市、横浜市)」といいます。特例転出の形がとられるため、マイナンバーカードを持った市民がオンライン申請の対象となります。そのため今後、マイナンバーカードの交付枚数が増えるにつれて、「転出届のオンライン申請」の利用率が上がっていくことが予想されます

マイナンバーカード保有の転出者のうち約3〜4割がオンライン申請を利用

「マイナンバーカードを保有し、転出届を出した申請者」に限ると、全体の約25〜40%が「転出届のオンライン申請」を利用(*2)。マイナンバーカードを保有した転出者に認知を広げれば、高い確率でオンライン申請を利用することが分かります。

(*2)3市における2021年3月の数値。算出方法として、オンライン申請数 ÷(転出届数×マイナンバーカード交付枚数率)で理論値を計算した結果。

年代別では、20代の利用が目立つ

「転出届のオンライン申請」の利用者を年代別に見ると、20代の利用が約半数を占め、秋田市では10代の利用も目立ちます。40代以上の利用者に目を向けると、20代に比べて少数ではありますが、それぞれの年代で利用者がいることが分かります。年代が上がるにつれて利用が減少する要因としては、転出数自体が少ないことに加えて、家族を伴う場合には複数の手続きがあるため、来庁して手続きを済ませる傾向があると考えられます。

20代の利用が最も多く、次いで30代が多く利用している様子が伺える。

5. 窓口や郵送申請と比較した場合の削減効果——オンライン申請の工数は窓口の約5分の1

住民記録システムへの入力や審査を除くと、「転出届のオンライン申請」にかかる工数は窓口申請の約5分の1(*3)となります。オンライン申請では、ログイン後に申請書を出力したり、申請者に完了通知を送信したりするのに2分26秒。一方、窓口では、受け付けや転出証明書を発行したりするのに12分かかります。このような受け付け時間の短縮に加えて、転出証明書に関わる業務も短縮されます。オンライン申請は特例転出で行われるので転出証明書を出す必要がないためです。
(*3)つくば市による、2021年7月時点の検証。混雑時を除く、通常時を想定した検証です。

郵送と比較すると、約3〜4割の業務削減

オンライン申請と郵送申請を比較すると、約3〜4割の業務削減効果が見られます。郵送申請で発生していた郵便物の確認や転出証明書の発送をはじめ、不備があった際の電話連絡が不要となるためです。郵送申請では、郵便物を開封して内容物がそろっているかを確認して、不足がある場合には電話で確認する必要があります。一方、オンライン申請では通知がきたら申請書を出力するだけです。必要な情報はあらかじめそろっているため、申請者に確認する作業はありません

住基システムの処理が完了した後、郵送申請での場合には転出証明書を用意して封詰め、投函を行う必要がありますが、オンライン申請の場合には、管理画面上で処理ステータスを「完了」に変更するだけで、申請者に転出処理が完了した旨の通知がメールで自動送信されます。

郵送申請で発生していた、郵送物の確認や不備の場合の電話連絡、転出証明書の送付が不要となることで、内部事務業務が削減できる。

郵送申請の約3割で発生する「記入漏れや返信用封筒なし」の電話連絡がなくなる

郵送申請の場合には、記入漏れや返信用封筒の不足、本人確認書類の不足等が一定の割合で発生します。「体感的には約3割は何かしらの理由で電話確認が必要(秋田市市民生活部市民課)」。「郵送では文字が読み取りにくいことも多い(横浜市市民局窓口サービス課)」といいます。申請者が電話に出ないケースでは何度もかけなおす必要があり、どうしても連絡がつかない場合には郵送で文書を送る場合もあります。一方、オンライン申請ではこのようなやりとりがなくなるため、内部事務を削減することができます

オンラインは「履歴」が自動的に残る

郵送申請では、郵便物にまつわるトラブルが発生することもあります。例えば、市民が郵送先である役所の住所を誤って記載したり、返信用封筒に記載した住所が誤っていたりといった場合です。このようなケースでは、これまで宛所不明による差し戻しが発生し、ご本人から問い合わせがあった際にも案内が難しい状態にありました。一方、オンライン申請では履歴が残るため、問い合わせがあった際にも効率的かつ適切に案内することができます

6. 市民に向けた効果的な広報——各自治体で工夫が見られる

オンライン申請の利用を促進するためには、市民への広報にも工夫が必要です。例えば、市民に見てもらいやすいチラシやポスター。電車広告や新聞を活用した広報、マイナンバーカードの保有率の高い公務員に向けてピンポイントな広報といった工夫によって、オンライン申請の利用率を向上させる取り組みが進んでいます。

つくば市では、情報量を絞ったチラシやポスターで告知

つくば市では、市のホームページやSNSでの広報に加えて、来庁した市民に対してチラシやポスターを通じた広報を行っています。

特に工夫が見られるのは、情報量が大幅に絞られている点。文字量を少なくして、分かりやすく、映えるように工夫されています。庁舎に来た市民を誘導できるように、2次元バーコードはチラシやポスターの中の目立つ位置に配置。スマートフォンを持っている市民がターゲットのため、スマートフォンユーザーをいかに誘導するのかを意識しているといいます。

記載台に設置されたチラシ。市民が手に取ってさっと持ち帰れるように、手のひらサイズにデザインされている。


庁舎入り口に掲示されたポスター。3月の混雑時に貼り出して、庁舎に来た市民に対して、窓口以外の申請方法を周知。文字量は最小限に抑えられている。


庁舎内の椅子に掲示したシンプルなチラシ。待合時に目に入る位置に貼ることで、オンラインを認知していなかった市民に対して、スマートフォンで手続きできることを伝えている。ただし、庁舎内がチラシやポスターで溢れないように配慮している。

横浜市では、電車広告を活用

政令指定都市である横浜市では、広報施策として市のホームページへの記載に加えて、記者発表、広報紙への掲載、区役所や区民利用施設へのポスター掲示、市公式SNSや公式LINEへの配信や、交通広告やラジオ、新聞、テレビを活用した広報を実施。交通広告に関しては、市内の主要な駅8駅と市営地下鉄2路線に対して、4週間掲載しています

電車の中吊り広告に、混雑予想とともにオンラインでの手続きを案内。転出する可能性がある市民が乗車する路線に幅広く掲示。


駅構内にB1サイズのポスターを掲示。


横浜市LINE公式アカウントでお知らせを配信。登録者約30万人に対して幅広く案内した。


秋田市では、地方公務員に呼びかけ

秋田市では、市のホームページやSNSでの広報、ポスターの掲示に加えて、地方公務員にオンライン申請の利用を呼びかける通知文書を送付。地方公務員の人事異動にあわせて、マイナンバーカードの取得率が高い警察や県職員、教職員に対して利用を直接呼びかけました。実際に公務員の利用が伺えたことから、今後は、マイナンバーカードの取得を進めている市内企業への周知も検討していくといいます。

公務員に向けた通知文書。「転出届のオンライン申請」はマイナンバーカードを取得した市民が対象となるため、取得済みの層に直接呼びかけることで利用促進が期待できる。

7. 市民・職員のリアルな声は——市民の反応は上々

転出届がオンラインで申請できるようになれば、市民は来庁せずにいつでも好きな場所から申請できるようになります。実際に利用した市民からは、「簡単だった」「ネットでできて大変ありがたかった」「土日祝日に関係なくオンラインで手続きできた」という声が届いています

「転出届のオンライン申請」を利用した多くの市民から、便利だったという声が寄せられている。

窓口で待つ市民がオンライン申請に変更したケースも

3月の混雑時に、窓口で待つ市民自らがオンライン申請に切り替えた例もあります。「長時間区役所で待たれている途中に、マイナンバーカードを持っているということで、オンライン申請をなさる方もいた(横浜市市民局窓口サービス課)」といいます。スマートフォンとマイナンバーカードがあればどこでも手続きができるため、何時間も待たなくても済むメリットがあります

「落ち着いて処理ができる」と語る職員

職員の観点では、業務工数の削減に加えて、落ち着いて処理ができるメリットもあります。オンラインで届いた申請は、混雑していない時間帯に回すことができるためです。

目の前に市民が並んでいる状態となると、落ち着いて処理するわけにいかない。オンライン申請は、時間外でも処理できると思えば余裕を持って処理もできる。(秋田市民生活部市民課)」朝や夕方など、時間を決めて処理することで、繁忙期でも業務にゆとりを持って対応することができます。

横浜市では、各区への展開に工夫

政令指定都市である横浜市では、実務を担う区に「転出届のオンライン申請」を展開する際に集合研修を実施。「事前の研修でシステムの操作や処理の流れを説明し、質問を受け付けました。具体的な変更点やメリットを中心に伝えるようにした(横浜市市民局窓口サービス課)」といいます。一方的に説明するのではなく双方向で質問を受け付けることで、スムーズな運用を開始しています。

8. 「転出届のオンライン申請」運用の流れ

転出届のオンライン申請は、「申請を確認」「住民記録システムに登録」「ファイリング」といった大きく3つのステップで行います

Step 1. 電子申請システムを開く

電子申請システムに届いた申請データをプリントアウトします。

ワンポイント
・標準的なレイアウトで組まれた帳票をプリントアウト。郵送で届く申請と同様に処理できるため、オンライン用に独自の運用を組む必要はありません。
・大規模な区では、ある程度の量があるため毎日決まった時間にまとめて処理。小規模な区では、申請の都度メール通知が届いたら処理する傾向がある(横浜市市民局窓口サービス課)。

Step 2. 住民記録システムに登録

プリントアウトした帳票に必要な情報を追記して、住民記録システムのステータスを「転出」に変更します。

ワンポイント
プリントアウトして住基処理をした帳票は、一時保管箱に保管。一定量をストックしてからファイリングします(秋田市民生活部市民課)。

Step 3. 手続き完了を通知する

管理システム上でステータスを「完了」にすると、申請者に自動的に手続き完了のメールが送信されます。

ワンポイント
帳票は、窓口受付、郵送申請のものとあわせてファイリングします(秋田市民生活部市民課)。


秋田市、つくば市、横浜市が取り組む、転出届のオンライン手続きは「Graffer スマート申請」によって実現できます。導入時は、さまざまな優良事例を取り込んだテンプレートを活用可能。費用や導入期間については、無料お問い合わせからお気軽にご相談ください。

グラファー Govtech Trends編集部

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秋田市

人口:
30.56万人(令和2年国勢調査)

導入サービス:
Graffer スマート申請
Graffer 手続きガイド


つくば市

人口:
22.7万人(令和2年国勢調査)

導入サービス:
Graffer スマート申請


横浜市

人口:
376.05万人(令和2年国勢調査)

導入サービス:
Graffer スマート申請
Graffer 手続きガイド
Graffer 窓口予約