補助金申請の「8割がオンライン」はどのように実現したのか
——オンライン申請はどのような経緯で開始したのでしょうか。
岡田:新型コロナウイルス感染症の影響で打撃を受ける中小企業を支援する目的で、2020年5月に「中小法人等の店舗家賃負担軽減補助金」「中小企業チャレンジ支援補助金」という神戸市独自の制度を開始し、その申請方法としてオンライン申請を導入しようと考えたのがきっかけです。
当時、新型コロナウイルス感染症が拡大したことによって、市内の中小企業は深刻な打撃を受けていました。特に対面型の店舗では人と人の接触機会が多いことから、大幅な収入減を余儀なくされました。そういった方々に向けてこれらの制度を実施することを2020年5月に発表すると、連日100件を超える問い合わせがありました。このような状況の中、できるだけ申請の負担がなく迅速に支給できる方法を検討した結果、オンライン申請が最適ではないかと考えたのです。
神戸市 経済観光局 経済政策課 担当課長 岡田 篤氏
※神戸市が全国に先駆けて独自の補助を行った「神戸市中小法人等の店舗家賃負担軽減補助金」「神戸市内中小企業チャレンジ支援補助金(中小企業等の事業継続や売上向上への支援)」とは
・神戸市中小法人等の店舗家賃負担軽減補助金は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、売上減少等の影響を受けた市内中小法人等が営む店舗の家賃負担軽減を図るため、その一定割合を減額する不動産オーナー等に対する補助金です。
・神戸市内中小企業チャレンジ支援補助金(中小企業等の事業継続や売上向上への支援)は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、厳しい経営状況にある市内中小企業に対し、現下の危機的状況を乗り越えるための事業継続に向けた新たな取り組みや、回復期を見据えた販路開拓、新商品・新サービスの開発へのチャレンジなどの「新たな取り組み」に挑戦する市内中小企業を支援する制度です。
岡田:「中小企業チャレンジ支援補助金」は8,186件の83%が、「中小法人等の店舗家賃負担軽減補助金」は3,906件の29%がオンライン経由でした。8割という数字は、正直なところ想像以上で驚きました。
図1:オンライン申請の割合
——「中小企業チャレンジ支援補助金」では、なぜ8割もの利用者がオンライン申請を選んだのでしょうか。
原:オンライン申請を利用してもらうために使いやすさを重視したことが理由だと考えています。
神戸市 経済観光局 経済政策課 担当係長 原 正弥氏
——オンライン申請を選んでもらうために、具体的にどういった点を工夫したのでしょうか。
原:例えば、申請の最初の画面で準備するものを明確に記載しました。本人確認書類や登記事項説明書の画像が必要なことをはじめから明らかにしておくことで、途中で離脱することを防ぎ、申請の最後までたどり着けるようにしています。
また、オンライン申請の入力項目数を紙の半分にしました。紙で記載する項目をそのまま電子化するのではなく、自動計算ができる項目や電子では入力が不要な項目を見直すことで利用者の負担を軽減したのです。
図2:申請項目数の変化 オンラインの申請項目数は、自動計算や自動入力を活用したり項目を見直したりすることによって、44項目から26項目に削減した。(44項目は検討開始時の法人申請の項目数)
原:「中小企業チャレンジ支援補助金」では、特設の案内ページを設けることでオンライン申請でつまづきそうなポイントを分かりやすく解説しました。
図3:中小法人等の店舗家賃負担軽減補助金オンライン申請用の特設案内ページ
オンラインで迷わずに申請できるように、利用者が疑問に感じそうな点を分かりやすく案内している。
原:また、神戸市のホームページでは、オンライン申請のページに誘導するためにリンクの位置や、記載してある文言の改善を行いました。
図4:オンライン申請の案内画面の改善 利用者がスムーズにオンラインの申請画面へ遷移できるように、画面上の文言も工夫されている。この改善は運用段階に入ってから行われた。
原:他にも、実際にあった問い合わせ内容をもとに、ページ上の細かい文言を改善する取り組みも行いました。例えば、実際に多かった「4月、5月の家賃はすでに支払い済みだがどうしたらいいか」という問い合わせに対しては、支払い済みでも対応できるケースがある旨を画面上に追記しました。このような改善は、問い合わせ内容を分析することで見えてきたものです。かなりの数の見直しを行ったことで、どんどん分かりやすい画面に改善できました。
——利用者からの評判はいかがでしたか。
岡田:利用者からは「申請が短時間でスムーズにできた」という声があがりました。「すぐにできる」「簡単だ」という印象を持ってもらえたのは大きな成果です。受付期間中にオンライン申請のトラブルが全くなく、円滑な申請受付を行えたことも、よい評価につながる要因だったのではないかと思います。
神戸市 経済観光局 経済政策課 時本 麻美氏
オンライン申請は、パソコンやスマートフォンから簡単に申請することができる。
オンラインの処理時間は郵送の二分の一以下
——事務コストの観点では、郵送とオンラインとを比べると、どのような違いがありましたか。
野坂:郵送とオンラインとを比較すると、オンラインの事務処理にかかる時間は郵送の2分の1以下でした。その背景にはオンライン申請が持つ二つの特性があります。1点目は、行政側の審査工程でシステムに申請内容を入力する必要がないこと。2点目は、オンライン申請ページの入力チェックによって利用者の入力ミスを防げることです。
図5:「中小法人等の店舗家賃負担軽減補助金」郵送とオンラインの処理時間の差
事務コストを比較した場合、オンラインは郵送の二分の一以下となった。
野坂:1点目に関して、オンライン申請では事務サイドで申請書の内容を入力する必要がありません。郵送申請の場合は申請者が書いたものを見ながら入力する必要がありますが、オンライン申請では申請者自身がパソコンやスマートフォンなどから直接入力します。そのため、事務コストは大きく削減されるのです。結果として、入力に関するオンライン申請の事務コストは、郵送の約八分の一となります(図5「入力」部分を比較)。
神戸市 経済観光局 経済政策課 担当係長 野坂 翔馬氏
野坂:2点目に関して、オンライン申請では自動チェックによって申請者が申請する際の入力ミスを防ぐことができます。郵送申請の場合には、申請者がケアレスミスをしたり、意図に反する値で申請したりしてしまうことがあります。しかしオンライン申請の場合には、意図しない値での申請はほとんどありません。入力制限を設けたり、入力項目に不備があると次に進めない仕組みのためです。郵送申請では不備が見つかると、電話連絡を行って不明箇所を確認したり再び郵送でやりとりをしたりする必要が出てきますが、オンライン申請の場合にはその件数が圧倒的に少なくなります。結果として、不備への対応に関するオンラインの事務コストは、郵送の約九分の二となります(図5「不備への対応」部分を比較)。
システムによる自動チェックは、人の目のみでチェックする場合と比べて、審査の不備を防ぐことにもつながります。人の目によるチェックだけでは、どうしても人的ミスが発生してしまうことがありますが、自動チェックを活用することで、ミスの発生数を抑制することができるのです。
スピード感のあるスケジュールで申請を開始
——導入はどのようなスケジュールで行ったのでしょうか。
岡田:導入にかかった期間は約1か月です。開始当時、新型コロナウイルスの影響で困窮する中小企業から、制度の開始に対して多くの問い合わせが届く中、少しでも早く補助金を支給したいという背景があったため、できるだけ迅速にプロジェクトを進める必要がありました。
図7:導入スケジュール
導入は制度設計期間を含めて約1か月間で行われた。
岡田:本来であれば、システムの構築は、さらに時間をかけて行う方法も考えられましたが、今回はできるだけ早期に申請を開始したかったこともあり、スピーディな導入を行いました。しかし結果的には、グラファーとのコミュニケーションを密に取りながら導入を進めたことで、齟齬をきたすことはなく想定通りのオンライン申請の仕組みを構築することができました。
審査において、不自然な内容を検知する機能を導入。今後も引き続きデジタル化を加速していく
——最後に、最近取り組んでいることや、今後の予定をお聞かせください。
岡田:検知機能を導入して審査に役立てています。これは、審査の際にデータ化した申請内容に対して一定のシステム処理を行うことによって不自然な申請を検知するものです。システムでチェックを行うことによって職員がチェックしても気づかないような不自然さを発見することにつながるため、今後の効果に期待できそうです。
今回の導入では、オンライン申請を活用することで、業務の簡素化や効率化につながることが実感できました。今後も市としてさらにオンライン申請を活用し、業務デジタル化を加速させていきます。
写真:櫻井 優 / 文:東 真希 (Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)
神戸市のオンライン申請は「Graffer スマート申請」によって実現することができます。あらゆる行政手続きをスマートフォンやパソコンから完結できるため市民メリットが大きく、事務コストの削減にもつながります。さらにアウトソーシングを活用することで、よりスムーズで安定した導入やコールセンター運用を実現することも可能です。費用、導入期間、アウトソーシングについては、無料お問い合わせからお気軽にご相談ください。
グラファー Govtech Trends編集部
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