きっかけは働き方改革。本当に人間がすべき業務は何なのか。
ーー今回電子化に取り組んだ介護事業者の手続きは、具体的にどういった業務なのでしょうか。
赤坂:今回取り組んだのは、神戸市にある介護事業所から提出される年間約5,000件の申請の案内業務のデジタル化です。神戸市内には、2,500以上の介護事業所があり、その事業所からの提出される新規指定・指定更新・変更等の申請書の問い合わせ業務を効率化できないかと考えたのです。
神戸市 保健福祉局 高齢福祉部 介護指導課 課長 赤坂 憲章氏
ーー年間約5,000件もの数の申請を受け付けているのですね。手続きの「案内業務」に絞って電子化しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
赤坂:きっかけは、平成29年6月から神戸市で進めている「やめる・へらす・かえる」をスローガンとした働き方改革です。本格的な働き方改革を進める中で注目したのが、ICTの活用による業務の見直しです。介護指導課においても、平成29年から検討を開始し、平成30年度からFAQシステムの導入やタブレット活用などの取り組みを進めていました。
上野:その際、大きなテーマとなったのが申請業務の電子化でした。しかし、全ての書式をフォーム化し電子申請に完全に対応するのは極めて困難です。そこで、まず第一歩として進めたのが業務の入口である「手続き案内」の効率化です。
ーーこれまで、手続きの案内業務には、どのような課題があったのでしょうか。
上野:介護事業者の手続きは、必要な書類の種類が非常に多い上に、書類をダウンロードするためのHPが分かりづらいという課題がありました。年間約5,000件の申請がある中で、毎回100種類を超える書類から自社の状況に応じた書類を選んで提出してもらう必要があるのです。その際、必要な書類を案内するために時間がかかっていました。
神戸市 保健福祉局 高齢福祉部 介護指導課 指定担当係長 上野 大氏
ーー案内業務にはどのくらいの時間がかかっていましたか。
森正:平均すると、以前は書類の案内のみでも1件あたり約10〜15分、それが1日10件以上発生していました。介護事業所から電話でのお問い合わせがあった際には、まず事業所の詳細をヒアリングし、次にその内容に応じて該当する書類を案内します。必要な書類をお伝えする際には、市のHP上にある検索画面を見てもらいながら、電話口で一緒に該当の書類を探していくのですが、種類が多いため非常に時間がかかっていました。パソコンの操作に不慣れな事業者の場合には尚更です。そして、書類の案内の後には書き方などの質問が発生することも多いため、トータルでは更に長時間になります。他の業務もある中、どのようにこの業務を効率化していくかが大きな課題となっていました。
神戸市 保健福祉局 高齢福祉部 介護指導課 森正 翔氏
ワンポイント
- テクノロジーを取り入れて業務を効率化するには、一気に電子申請まで行うのではなく、まずは案内業務に絞って小さくはじめる方法がある。
- 案内用のHPが分かりにくい、申請書の種類が多いという状況でも、案内業務を効率化することはできる。
- 働き方改革を進めるには、やめる業務を見つけるという観点が重要。
案内業務を効率化するGraffer「手続きガイド」。実際に使ってみて効果を実感した。
ーー案内業務の効率化を目指して「手続きガイド」を導入してみていかがでしたか。
森正:2019年7月に「神戸市 介護事業者手続きガイド」をリリースしたところ、問い合わせ数や書類の提出間違いの減少効果がありました。
具体的には、「必要書類が分からない」という問い合わせはほとんどなくなりました。これまでは、100種類以上の書類の中から必要な書類を選ぶ必要がありましたが、「神戸市 介護事業者手続きガイド」なら、事業所の方が選択肢から該当するものを選んでいくだけで必要な書類を簡単に洗い出すことができるのです。
「神戸市 介護事業者手続きガイド」回答ページ(一例)
介護事業者は、専用ページで該当する選択肢を選んでいくだけで、必要書類を洗い出すことができる。
「神戸市 介護事業者手続きガイド」書式ダウンロードページ(一例)
介護事業者は、洗い出した必要書類を一括でダウンロードすることができる。
ーー事業所の方からの問い合わせが減少したのは、非常に嬉しい結果です。それ以外にはどのようなメリットがありましたか。
森正:ガイドの最後の画面では、全ての必要な書類をまとめてダウンロードできるので、以前のように書類を1つ1つHP上から探してもらう必要はなくなりました。また、電話でお問い合わせがあった際にも、「神戸市 介護事業者手続きガイド」の専用ページを案内するだけで対応が完了するため効率化につながっています。
ーー書類の提出間違いについては、どのような変化がありましたか。
上野:今回新たに用意したチェックシートのおかげで、書類の提出間違いや漏れがほとんどなくなりました。チェックシートは、必要な書類を一覧にまとめた表紙のようなもので、必要書類と一緒にダウンロードされます。
「神戸市 介護事業者手続きガイド」チェックリスト(一例)
必要書類に含まれるチェックシートを併せて提出することで、提出間違いや漏れを防ぐことができる。
上野:100種類以上の申請書の中には似たような様式のものも多く、これまでは選び間違いも発生していました。書類の提出間違いがあると、補正処理を行なったり再提出をお願いする必要があったのですが、チェックシートによってその手間がなくなりました。
また、実際の書類提出時に職員がチェックを行う際にも、このチェックリストに沿って書類の一覧が確認できるので業務が効率的に行えるようになりました。
ーー介護事業所の方からの反応はいかがでしたか。
森正:実際の事業者の方々のレビューでは、「使いやすいのでぜひ対応領域を広げてほしい」という声があがっています。今回のガイドの導入では、介護事業所の方の利便性を確保しながら、複雑な介護制度にどう対応していくかという点が重要なポイントでした。そういった意味では、介護事業者の方からポジティブな反応をいただけたのは嬉しい結果です。今後、さらに範囲を広げていくことで効果が大きくなるのではないかと考えています。
ワンポイント
- 手続きガイドを導入することで、問い合わせ数、書類の提出間違い数の減少効果があった。
- チェックリストをつけることで、提出物の間違いが減る効果があった。
- チェックリストは、書類を受け取った後の業務効率化にもつながった。
複雑な介護制度に柔軟に対応したシステム導入のポイントとは。
ーー「Graffer 手続きガイド」を導入する際には、特にどのような点を意識したのでしょうか。
上野:導入時には、介護制度の複雑さにきめ細やかに対応することを重視しました。介護制度は非常に複雑な上に、3年に一度は制度改正があります。その複雑さをできるだけ感じさせないようなものにすることに配慮しました。
森正:分かりやすく表現するために、例えば、画面上に表示する手続きの名称も工夫しています。制度上の正式名称をそのまま記載するのではなく、家族単位で経営しているような事業者や高齢の事業者の方にも分かりやすいように、正式名称にこだわりすぎず、より実状に即した言葉遣いを採用しています。
事業者の方の利便性を一番に意識して画面上の様々な表現にも工夫がなされた「神戸市 介護事業者手続きガイド」。PCやスマホから簡単に操作を行うことができる。
上野:人間がどういう風に質問に答えていくと答えやすいのか、という点もしっかり検討しました。いくつかのパターンを試した結果として、最も分かりやすかったものを採用しています。
ーー「神戸市 介護事業者手続きガイド」の導入はどのような体制で行なったのでしょうか。
森正:プロジェクトリーダーである私、課長の赤坂、係長の上野の3名がメインメンバーとしてグラファーとのやりとりを進めました。それ以外に、各介護事業サービス担当5名に詳細なレビューを担当してもらいました。介護サービスは非常に専門的なので、私一人では全てを確認することができません。各分野のエキスパートである担当職員にレビューを分担してそれを取りまとめるという形で進められたのは本当に心強かったです。
ーー導入にかかった期間はどのくらいでしたか。
森正:導入期間は、2019年1月から7月までの約6ヵ月です。6ヵ月というとグラファーのサービスの中でも少し長い期間をかけた方かもしれませんが、全国初の取り組みということもあり、グラファーと密なコミュニケーションを取りながら共同開発を行いました。制度への理解にしっかりと時間をかけて汎用性の高いサービス作りを目指したことで、最終的には多くの自治体で共同利用できるような分かりやすい仕組みが完成したと考えています。
図:導入の流れ
分かりやすく汎用的なサービスを目指し、コミュニケーションをしっかりと取りながらグラファーと共同開発を行なった。(他自治体で同じ介護領域での導入を行う際には、より短期間での導入が可能。)
ーー導入の中で特に気を使った箇所はどこですか。
森正:導入の中で特に時間をかけたのがレビューです。職員がレビューした結果をシステムにしっかりと反映したことで、最終的に、複雑な内容をわかりやすい形で表現することができました。その際、システムの専門的な知識は必要なく、グラファーの担当者と打ち合わせを行いながら進められたのは非常に助かりました。
ーー導入は大変ではありませんでしたか。
森正:導入期間は通常業務と並行してのプロジェクトでしたが、それほど大変だとは感じませんでした。ポイントは職員同士のしっかりとした分業体制です。先ほどお伝えしたような、レビューを分担してそれを取りまとめていく形がよかったのだと考えています。また、テクノロジーに関する部分はグラファーの担当者が丁寧にリードしてくれたので、我々は内容に注力できた点もよかったと考えています。
ワンポイント
- 複雑な制度でも、工夫によって分かりやすくデジタル化することができる。
- 分かりやすく表現するためには、必ずしも正式名称にこだわりすぎないことも大切。
- 導入時は、全てを1人で担当するのではなく、分業の体制作りがポイント。
一歩目の成功を活かして、段階的にデジタル領域を拡大していく。
ーー介護事業所の方々、市役所職員双方の効率化につながった今回のプロジェクトですが、今後は、どういったことに取り組んでいく予定でしょうか。
森正:今回、指定更新の手続き案内の電子化で得た手応えをもとに、次のステップでは各種変更という手続きにも対応していく予定です。各種変更手続きは、年間約2,500件と、指定更新よりもボリュームが多い手続きですので、さらなる効果につながるのではないかと考えています。
上野:手続きガイドを導入したことによって、これまでなかなかマニュアル化しづらかった手続きの洗い出しを分かりやすく表現することができました。これは、今後人事異動によって介護指導課に新しく入ってくる職員の負荷削減にもつながりそうだと考えています。将来、加算の計算などの複雑な領域のシステム対応を行なっていくことにも期待しています。
最後に、これから「手続きガイド」を導入しようと考えている自治体の方に一言お願いします。
赤坂:今回の導入を通して、一気に全てを電子化しようとするのではなく、まずはサービスを限定して段階を踏んで進めていくのが成功の秘訣だと感じました。一気に行うには制度が複雑すぎるため、一歩一歩進めていくことが重要だと思います。
上野:今回の「神戸市 介護事業者手続きガイド」は神戸市だけで使うにはもったいないくらいの非常によいシステムに仕上がったと感じています。介護手続きの事務にお悩みの全国の自治体の方もぜひ一度ご確認いただければと思っています。
(※文中の敬称略。所属や氏名は取材当時のものです。)
ワンポイント
- デジタル化を進める際には、小さな取り組みからスタートすることがポイント。
- 汎用的なサービスを作ることで、多くの自治体で共同利用することができる。
聞き手:藤本 光太郎/文・写真:東 真希 (Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。所属や氏名は取材当時のものです。)
神戸市の手続きガイドは「Graffer 手続きガイド」を使えば簡単に作成することができます。複雑なプログラミングや手続きは必要ありません。情報の追加や変更も簡単に設定可能。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。
グラファー Govtech Trends編集部
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