新型コロナウイルスと行政デジタル化【緊急調査レポート】
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新型コロナウイルスと行政デジタル化【緊急調査レポート】

2020.08.27 Thu

デジタル手続法の施行や骨太方針2020の閣議決定といった動きを背景に、行政手続きの非対面化や効率化を実現する機運が高まっています。新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点からも、行政機能を継続させるために手続きのデジタル化が急務であると認識されています。

このような流れを受け、グラファーGovtech推進支援室では2020年6月に「新型コロナウイルスと行政デジタル化に係る緊急調査」を実施し、各自治体が行政デジタル化に対して現状どのように取り組んでいるのかを調査しました。380自治体から寄せられた回答をもとに自治体が抱える課題や現状について解説します。

要旨

1. 行政デジタル化を本格的に始めた時期は、自治体規模による違いが顕著に見られ、大規模な自治体であるほど新型コロナ以前からデジタル化に取り組んでいる。

2. 住民異動届を除くほとんどの手続きが、新型コロナ以前から検討されている。

3. デジタル化を特に進めたい行政事務領域は「届出や申請など行政手続そのもの」、「申請データの処理などの事務効率化」が大部分を占める。

4. 行政デジタル化を断念した経験は全体の約2割。断念理由は、人口規模が小さいほど予算上の課題、人口規模が大きいほど予算以外が課題となる。

5. 今後デジタル化を進めていく上での懸念や障壁は「デジタル手続法と現行事務の兼ね合いやその整理」や「費用対効果の見通しが立たず、予算化が難しい」といった回答が多数。

(調査期間:2020年6月15日〜6月30日、アンケート実施方法:オンライン回答、回答要旨のメール添付、回答数:380自治体)

※本レポートではアンケート結果から一部結果を抜粋して紹介します。

【回答者内訳】

本レポートでは、回答を得られた380自治体を人口別に5万人未満・5万人以上・20万人以上の3区分に分けて分析を行っています。

※人口区分の参照先:総務省 地方公共団体の区分


1. 人口20万人以上(指定都市・中核市・施行時特例市など)
2. 人口5万人以上(その他の市)
3. 人口5万人未満(町村ほか)

図1 回答自治体の人口別割合

1. 行政デジタル化を本格的に始めた時期

行政デジタル化を始めた時期は、自治体規模による違いが顕著に見られ、大規模な自治体であるほど以前からデジタル化に取り組んでいることが分かりました。

図2  行政デジタル化を本格的に始めた時期

人口5万人未満の自治体の傾向

デジタル手続法の施行や新型コロナウイルスによる影響とは関係なく、69%が「現時点では本格的にデジタル化を検討していない」と回答しています。人口5万人以下の自治体の高齢化率が、5万人超の自治体の高齢化率と比較して高いことが影響していると推察されます。
※人口5万人以下の自治体における高齢化率は34.2%、5万人以上の自治体における高齢化率は26.5%。

出典:2015年国勢調査

人口5万人以上の自治体および人口20万人以上の自治体の傾向

いずれも全体の約2割がデジタル手続法の成立や施行をきっかけに、デジタル化の推進を始めています。一定数の自治体の取り組みに対して、法改正が影響していることが分かります。

人口20万人以上の自治体の傾向

全体の62%が、「デジタル手続法成立以前から行政手続のデジタル化に取り組んでいる」と回答しています。「デジタル手続法成立・施行を機にデジタル化に取り組んだ」を加えると、全体の83%もが新型コロナウイルスによる影響とは関係なくデジタル化を推進していることが分かります。

2. 新型コロナウイルスによりデジタル化の必要性を感じた手続き

住民異動届を除くほとんどの手続きについて、新型コロナウイルス以前から検討されていることが分かりました。

図3  新型コロナウイルスによりデジタル化の必要性を感じた手続き

新型コロナウイルスの影響によりデジタル化の必要性を感じた手続きは、「当てはまるものはない(47%)」の回答が最も多い結果となりました。図2で確認できた結果と同様に、新型コロナウイルスを機に検討が進んだ事例は少ないようです。

住民異動届(転出届)に関しては、「新型コロナを機に必要性を感じた(34%)」が「新型コロナ以前から検討していた(27%)」を上回る結果となりました。新型コロナウイルスが猛威を振るった時期が、2月から5月の引っ越し時期と重なったことによる影響が考えられます。

人口5万人未満の自治体の傾向

半数が「当てはまるものはない(49%)」と回答し、新型コロナウイルスを機にデジタル化が検討されたケースは少ないことが分かります。図2の「現時点では本格的にデジタル化を検討していない(69%)」という結果と照らし合わせても、人口5万人未満の自治体では、新型コロナウイルスによってデジタル化が検討されていることが少ない結果となりました。

図4 新型コロナウイルスによりデジタル化の必要性を感じた手続き(人口5万人未満)

人口5万人以上の自治体の傾向

半数近くが「あてはまるものはない(45%)」と回答し、新型コロナウイルスを機にデジタル化が進んだケースは少ないことが分かります。

図5 新型コロナウイルスによりデジタル化の必要性を感じた手続き(人口5万人以上)

人口20万人以上の自治体の傾向

新型コロナウイルス以前から検討していた手続きは、「公共施設の予約やイベントの受付(93%)」が最も多い結果となりました。法令による制約が比較的少ないため、以前から検討が進んでいたと推察されます。一方で、「公共施設の予約やイベントの受付」に対して新型コロナを機に必要性を感じたと回答したのはわずか3%でした。公共施設の予約やイベントのデジタル化は既に検討済みだったことや、イベントの実施を控えるようになった影響が顕著に確認できる結果となりました。

図6 新型コロナウイルスによりデジタル化の必要性を感じた手続き(人口20万人以上)

3. デジタル化を特に進めたい行政事務領域 

デジタル化を特に進めたい行政事務としては、「届出や申請など行政手続そのもの」、「申請データの処理などの事務効率化」が大部分を占めました。

デジタル化を進めたい行政事務

図7  行政デジタル化を進めたい行政事務

人口規模別の傾向

人口規模が大きいほど、住民対応の事務(「届出や申請など行政手続そのもの」、「庁内における窓口対応」)と回答する比率が高い結果となりました。一方、人口規模が小さいほど内部事務(「申請データの処理などの事務効率化」)の比率が高いことが分かります。全体で見ると「申請データの処理などの事務効率化(27%)」がもっとも進めたい行政事務として選択されていますが、20万人以上の大規模自治体では10%に留まります。

4. 行政デジタル化を断念した経験の有無と理由

「デジタル化を断念したことがある」と回答したのは全体の約2割で、人口規模による大きな差は見られませんでした。デジタル化を断念した理由としては、人口規模が小さいほど予算上の課題で断念するケースが多く、人口規模が大きいほど予算以外の理由で断念するケースが多く見られました。

行政デジタル化を断念した経験の有無

図8  行政デジタル化を断念した経験の有無

人口規模別に大きな差は見られず、規模を問わず約2割が「断念したことがある」と回答しました。人口5万人未満の自治体では「断念したことがある(17%)」を選択した割合がやや少ない傾向にありました。

行政デジタル化を断念した理由

図9 行政デジタル化を断念した理由

人口規模別の傾向

断念した理由として、人口5万人未満・5万人以上の自治体では予算による理由(「じゅうぶんな予算が確保できなかった(いずれも40%)」)が最も多く選択されています。一方、人口20万人以上の自治体では予算による理由ではなく申請者本人確認の方法(「デジタル化した場合の申請者本人確認の仕方が難しかった(43%)」)が最も多い結果となりました。

5. 今後デジタル化を進めていく上での懸念や障壁

懸念としては、「デジタル手続法と現行事務の兼ね合いやその整理」や「費用対効果の見通しが立たず、予算化が難しい」といった回答が多くを占めました。

図10 行政デジタル化を進める障壁

人口規模に関わらず約3割前後が「デジタル手続法と現行事務の兼ね合いやその整理」を懸念だと考えています。一方、予算化については、自治体規模が小さくなるほど懸念とする自治体が多くなる傾向が見られました。

まとめ:今後の急速な変化に備え、状況を注視する必要がある

今回の調査では、自治体の人口規模に応じて、デジタル化に向けた取り組みの傾向や必要としている情報が異なる様子が見て取れました。人口規模が大きい自治体ほど、デジタル手続法が成立する以前から取り組みを進めており、先進事例や成功事例に関する情報を求めています。デジタル化を具体的に進めていくためのヒントが必要とされている状況であることがうかがえます。一方、人口規模が小さい自治体ほど、デジタル化の検討が進んでおらず、これからデジタル化を進めるための情報を求めています。予算上の課題を抱えている状況もうかがえます。

2020年7月に閣議決定された骨太方針2020では、「行政のデジタル化」が重点項目に据えられ、今後1年間は、集中改革期間に位置付けられています。デジタル手続法で現行努力義務にとどまっている自治体の手続きは今後義務化されていくのか——。動向を注視しながら、今後の急速な変化に備えていくことが求められます。

アンケート結果全編について

本記事の内容はアンケート結果の抜粋です。アンケートの全編では、今後、どのようなスケジュール感で行政デジタル化を進めようと考えているのか、どのような財源を検討しているのかといった項目についても詳細に調査しています。全編が必要な自治体の方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。


行政デジタル化の実現に向けて、各自治体では取り組みが進んでいます。デジタル改革を後押しするのは、あらゆる行政手続きをオンラインで完結する「Graffer スマート申請」、簡単な質問に答えるだけで行政手続きを洗い出せる「Graffer 手続きガイド」などの製品です。Graffer 製品の導入期間や費用については、お問い合わせ窓口からお気軽にご相談ください。

グラファー Govtech Trends編集部

Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。

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