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なぜ共済事業でネット加入が実現したのか。東京市町村総合事務組合「ちょこっと共済」のオンライン申し込みとは
東京都の市町村が共同で運営する交通災害共済である「ちょこっと共済」が、2021年2月から新たにネット加入を導入。これまで窓口で受け付けていた申し込みを、オンラインでも行えるようにしました。その結果、50代以上の利用者が全体の6割にも関わらず、開始1か月で5,000件以上がネット経由で申し込み。さらに、システムに関する問い合わせはほとんどありません。このような使い勝手のよいオンライン申し込みは、どのように実現したのでしょうか。運営母体である東京市町村総合事務組合に、その背景をお伺いします。
聞き手:本山 紗奈、東 真希(Govtech Trends編集部)
オンライン申し込みのハードルは、個人情報の扱いと運用変更だった
——「ちょこっと共済」では2021年2月から、これまで対面で受け付けていた申し込みがネットで行えるようになりました。ネット加入の導入を検討する際に、どのような点が障壁となりましたか。
松村:導入前は、「ネットで個人情報を取得しても問題ないのだろうか」といった、漠然とした心配がありました。これまでは自治体や金融機関の窓口で、申し込みの受付や会費の受領を行っていたので、それをオンラインに移し変えても差し障りないのかという点をハードルに感じていました。
東京市町村総合事務組合 事業課長 松村 仁文氏
《「ちょこっと共済」とは東京都39市町村の住民が会費を出し合い、交通災害にあった際に一定の見舞金が受け取れる共済制度です。500円や1,000円といった少額で加入することができます。従来は、市町村や銀行の窓口で申し込みを受け付けていました。》
新保:ネット申し込みの導入には、膨大なイニシャルコストがかかりそうだというイメージもありました。専用のシステムを開発するとなると、ネット申し込みが実際に利用されるかどうかに関わらず、構築に一定の費用がかかります。そういったコスト観点でも、ネット申し込みの導入は難しそうだと考えていました。
——運用面ではどのような不安がありましたか。
新保:受付方法を、対面とネットの2種類にすることで、運用面で整合性が取れなくなるのではないかといった心配がありました。申し込みを受け付けた後の業務フローが複雑になるのではないかというイメージもありました。
東京市町村総合事務組合 事業課 交通災害共済係長 新保 公美氏
導入のきっかけは、窓口を担う自治体からの声だった
《ちょこっと共済では、組合が運営を、自治体が申し込み窓口の役割を担っている。そのため、市民との直接の接点は自治体側にある。ネット申し込み導入のきっかけとなったのは、この自治体からの声だった。》
——ネット申し込みに対してハードルの高さを感じていた中、なぜ導入を考えたのでしょうか。
松村:「ちょこっと共済」への加入窓口を増やしたいという背景がありました。「ちょこっと共済」への加入受付は、もともと各町会や自治会で行っていました。しかし受付窓口が役所や金融機関の窓口に移り、加入のために現金を添えて窓口まで出向く必要が出てきたことにより、加入のハードルが上がりました。さらに「ちょこっと共済」は、年度ごとの更新が必要な制度です。継続加入したい場合には、毎年手続きを行う必要がありますが、毎年窓口まで足を運ぶのは利用者にとって負担です。そこでネットで簡単に加入できるようにすることで、市民の利便性を向上して、加入者の増加に寄与したいと考えました。
新保:自治体からの声もきっかけとなりました。「職員の削減が進む中、共済の申し込みを行うために人員を配置するのが難しい」という意見です。「ちょこっと共済」は毎年3月頃に申し込みが集中するため、一時的に大きな負荷がかかっていました。そこで、役所の窓口での業務を減らせないかと考えたのです。その選択肢としてあがったのがネット申し込みです。
蓋を開けてみると、50代以上の申し込みが全体の6割。システムの利用に関する問い合わせはない
——実際にネット申し込みを導入したところ、開始1か月で5,000件以上の申し込みがあったとお聞きしています。利用者は、どういった方が多かったのでしょうか。
中田:50代以上の申し込みが全体の62%でした。年齢層は、比較的高めだと思います。当初は「ちょこっと共済は、年齢層が高めの方が多いので、ネットあまり使われないのではないか」といった声もありましたが、実際には多くの方に利用されました。
ネット申し込みを行った、5人に3人が50代以上。
——システムに対する問い合わせはどのくらいありましたか。
松村:利用者からのシステムに関する問い合わせはほとんどありません。当初は「この画面から進めない」「手取り足取り教えてほしい」といった質問もあるのではないかと想定していましたが、そういった質問は現在のところありません。
「ちょこっと共済」の申し込み画面。使い勝手のよいUI/UXで設計されていることで、利用者からのシステムに関する問い合わせはほとんどない。
——使い勝手の面では、どういった点にこだわりがあるのでしょうか。
中田:「ちょこっと共済」の申し込み画面は、文章量を極力減らすように工夫されています。例えば、利用者に確実に情報を伝えようとすると、どうしても文章量が多くなりやすくなります。しかし、それではハードルが上がり、加入する気持ちが削がれてしまいます。そこで、誤りがなく正確であることを前提に、余分な文章を削ることで、利用者の負荷を下げるようにしています。このような工夫を重ねることで、使い勝手がよく、利用者が迷わない申し込み画面を作り上げることができました。
——当初不安に感じていた点は解消されましたか。
松村:個人情報取得の面では、全国的なオンライン化の流れに伴い、法令が改正されて取り組みやすくなったことで、当初不安に感じていた点は解決されました。
新保:運用面では、組合の役割と実際に市民と対面する自治体の窓口の役割とを分けて考えることで、スムーズに進めることができました。グラファーからも、それぞれの役割を意識しながら提案を受けたことで、運用面で困ることはありませんでした。
中田:コストの面でも、心配していたような膨大な初期費用はかかりませんでした。今回採用したシステム「Graffer スマート申請」はSaaS(※)です。そのため「利用されないのに膨大な費用がかかる」といったことはありませんでした。
※SaaSとは
従来型の、専用システムを構築して所有する方法とは違い、インターネットを通じて提供される機能を利用する形のサービスです。機能が共同で利用できるため、利用に応じた費用の中で、随時追加される最新機能を取り入れることができるといったメリットがあります。
——窓口を担う自治体からの反応はいかがでしたか。
中田:自治体からは、加入のために窓口を訪れる方は減少しており、さらに加入者に関する情報がリアルタイムで分かるのがよいと好評です。「こんなにすぐに最新情報が確認できるんですか!」という声も届いています。従来、窓口で申し込みを受け付けていた際には、申し込み内容を集計するまでに数か月かかっていました。そのため加入者の情報をすぐに調べることができませんでした。しかしネット申し込みでは、正確な情報を即座に調べることができます。
東京市町村総合事務組合 事業課 交通災害共済係 中田 実野氏
今後は、戦略的に加入者拡大やコスト削減へ取り組む
——今後は、どのようなことに取り組む予定でしょうか。
松村:加入者を増加する施策に取り組んでいきたいと考えています。これまではチラシやハガキなどでしか案内ができませんでしたが、ネット申し込みで受け付けるようになったことを機に、メールでも案内が行えるようになりました。そのため、案内を機に「今年はうっかり加入するのを忘れていた」といった利用者が、簡単に加入するといった流れのきっかけとなるのではないかと期待しています。
中田:せっかくオンライン化したので、コスト削減にも取り組んでいきたいと考えています。例えば、申込書の印刷や配布、パンチコストの削減などを検討したいと思います。
松村:共済は助け合いの制度のため、引き続き、若い世代を含めた、どの世代の方にも広く加入できるような仕組みを作っていきたいと思います。我々は公共団体ですが、実際の活動内容を考えるとサービス業に近い面もあります。そのため、民間のサービスのよいところを取り入れながら、より簡単に加入したり見舞金を申請したりできるような仕組み作りに取り組んでいきたいと考えています。
写真:本山 紗奈 / 文:東 真希 (Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名は取材当時のものです。)
東京市町村総合事務組合の「ちょこっと共済」オンライン申し込みは「Graffer スマート申請」によって実現することができます。費用や導入期間については、無料お問い合わせからお気軽にご相談ください。
グラファー Govtech Trends編集部
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