【ガブテックイベント】テクノロジーで日本の社会課題は解決できるのか?デジタル・ガバメントウィーク登壇レポート
政府の重点分野であり、ますます動きが加速している電子行政。その電子行政に特化した、中央省庁職員および自治体職員向けのイベント「デジタル・ガバメントウィーク」が2019年10月7日に開催されました。既にデジタル国家として注目を集めているデンマークの状況をはじめ、国内3社の若手注目スタートアップが語る、スタートアップと行政の連携事情に迫ります。
取材・写真:田村 愛、文:東 真希(Govtech Trends 編集部)
デジタル先進国デンマークの最新事例が紹介される
はじめに紹介されたのは、ここ数年デジタル化が急速に浸透するデンマークの最新動向です。
デンマークは、小国ながらペーパーレス化の定着、医療ポータルの整備などが高い水準で進んでいる国として知られています。「例えば、日本でいうマイナンバーにあたるID基盤は既に当たり前のものとして定着し、役所のほとんどの手続きはオンラインで行うことができます」とデンマーク大使館の中島健祐氏は語ります。
また、そのID基盤を生かした医療ポータルが整備されており、患者の過去の通院、投薬などの履歴は一元管理されています。医療ポータルを活用することのメリットを中島氏は「医師は患者から許可を得ることでそれらの情報にアクセスし、医療に生かすことができます。もはや紙のカルテは必要ありません」と続けます。
デンマーク大使館 投資部部門長 中島健祐氏
デンマークではデータの共有や利活用の観点でも、オープンデータがしっかりと整備されています。「オープンデータシステムにアクセスすると、基本的な都市のデータがCSV形式やExcel形式でダウンロードできます」と話す中島氏。もともと各都市で個別に管理していたものを一元管理したことで、大幅に効率化されたといいます。一元化されたデータは、地元の中小企業やスタートアップによって活用され、効率的にビジネスに活かされています。
デンマークでは、行政、企業、市民それぞれがテクノロジーを身近なものとして一歩踏み込んで利活用している。
これほどまでのデジタル行政がデンマークで進む背景は、国家の重要施策として「効率性の向上、情報の共有、統合化」の変革に取り組んでいるからです。中島氏はデンマークの状況として「デンマークでは65才以上の人口が約20%と、日本よりは低いものの、危機的状況に面しています。さらに、人口約580万人のうち約30%の約160万人が公務員で、今後10年で高齢化によってそのうち約20万人が退職すると言われています」と話します。そのような状況の中、テクノロジーを使って効率化、情報の共有、統合に取り組むことが言葉通り急務となっているのです。
このように、国家として本格的な次世代型社会システムの構築に取り組むデンマークは、デジタル化先進国としてさまざまな企業が実証実験を行う場としても評価を集め、ますますデジタル化、スマートシティ化が進んでいます。起業支援が充実しているため、スタートアップ企業が活動しやすい場にもなっているといい、今後の動向が世界的に注目されています。
スタートアップ3社が「テクノロジーを使って社会課題をどのように解決できるか」を議論する
第2部のパネルディスカッションでは、中島氏のファシリテーションのもと、日本で注目を集めるスタートアップ企業3社によって、日本の社会課題へのテクノロジー活用に関する議論が交わされました。そのうちいくつかのトピックをご紹介します。
左から、株式会社メドレー篠崎智洋氏、株式会社PoliPoli伊藤和真氏、株式会社グラファー石井大地
なぜ日本の行政分野でテクノロジーの活用が進まないのか
まず中島氏から議題として挙げられたのが、日本の行政分野でテクノロジーの活用が進まないのはなぜかという問題です。
前職の総務省での経験を交え、篠崎氏が課題の1つと考えるのが、行政とテクノロジーを持った企業との接点が少ないという問題です。「行政ではどうしても、既存のやりとりがある企業や人との議論がメインとなります。新しいテクノロジーや考え方を持った方と接点を持つ機会は少なく、自身ももっと必要なところにアプローチできたのではないかという反省があるほどです」と振り返ります。
株式会社メドレー 事業連携推進室 篠崎智洋氏
篠崎氏は、行政がベンチャーのテクノロジーを知る機会が増えればと続けます。「実際にベンチャーに身を置いてみると、ベンチャー側でも真剣に社会課題を解決していこうと取り組んでいる方が多いことに驚かされます。最新テクノロジーを持つ企業と行政がタッグを組める接点があれば大きな推進力になるのではないでしょうか」
株式会社グラファー 代表 石井大地
さらに、スタートアップの立場から行政の業務効率化に取り組むグラファー代表石井は「日本の行政においては、テクノロジーで効率化できる部分は無限にあると感じています」と加えます。
行政側がテクノロジーを導入するのに壁はない、と言う石井はその理由として、「法律や制度自体を変えるには大変な労力や政治力が必要となります。しかし、テクノロジーは適切に活用すれば、制度変更のコストをかけなくても社会に大きな利益をもたらすことができるのです」と話します。
若いスタートアップは日本では不利なのか
次に話題となったのが、北欧と日本におけるスタートアップの違いです。北欧では、起業支援が充実しておりスタートアップが活躍しやすい環境だと言います。また、多様性を認める文化のため、大企業がメンバーに加わればスタートアップを加えたり、高齢者を加えれば若者を加えたりするといった仕組みが整っているとファシリテーターの中島氏が話します。
対して、3社は「日本で若いスタートアップが排除されているという感覚はなく、むしろ若者が挑戦しきれていないという問題もあるのではないか」と口をそろえます。
株式会社PoliPoli 代表取締役CEO伊藤和真氏
自身も現在20歳でスタートアップの代表を務める伊藤氏は「若さに対してはデメリットよりもメリットを感じています。今以上に若者が活躍しやすい環境にするということであれば、失敗しても次があるという雰囲気作りがあるとよいと感じています」と話します。
あわせて石井は「行政側が小さい若い会社を意図的に排除しているというよりは、存在を知らない方のほうが多いという印象を持っています。だからといって日本は若い会社が活躍しているわけではないので、若い人が前に出て行く機会が増えてほしい」と述べます。
議論後、会場からは、「行政システムといえばSIerが多く、ベンチャーはどう活躍できるのか」という質問をはじめ、若者の政治参加を促すサービスを提供する伊藤氏に対して、「選挙区が限られる中で政治家は不特定多数にアピールして票につながるのか」という質問が続きました。
まとめ:テクノロジーを持つ企業と行政との接点作りが重要
デンマークの先進的な取り組みをはじめ、日本の行政が今後さらにテクノロジーを取り入れるためのヒントとなる議論が交わされました。今後、日本ではデンマーク以上に急速な少子高齢化が社会課題となる中、デンマーク式のテクノロジー活用の観点はポイントとなるのではないでしょうか。そのための手段として、最新テクノロジーを持つスタートアップや中小企業と行政とが、今後どのように接点を持っていくかが重要な一歩につながりそうです。
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グラファー Govtech Trends編集部
Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。
株式会社グラファー
Govtech Trendsを運営するグラファーは、テクノロジーの力で、従来の行政システムが抱えるさまざまな課題を解決するスタートアップ企業です。『Digital Government for the People』をミッションに掲げ、行政の電子化を支援しています。