【ガブテックイベント】行政手続きのデジタル化の重要なポイントは?働き方改革・窓口改善等ソリューションフェアin広島市
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【ガブテックイベント】行政手続きのデジタル化の重要なポイントは?働き方改革・窓口改善等ソリューションフェアin広島市

2019.12.17 Tue

行政の窓口改善や働き方改革では、せっかくデジタル化を進めても「使われない・効率化されない」ことが課題の1つとなっています。では、どうすればデジタル化を成功させて、真に市民にとって使いやすく、行政の業務効率化につなげることができるのでしょうか。広島市で開催された「働き方改革・窓口改善等ソリューションフェア」おいて「行政手続きのデジタル化のポイントと展望」と題しそのヒントが紹介された様子をお伝えします。

取材・写真:田村 愛、文:東 真希(Govtech Trends 編集部)

行政デジタル化の大きな課題は「導入しても使われていないこと」

昨今、デジタル化を進める行政担当者の課題として、「電子申請システムを導入しても、実際は思うように使われていない」という声がよく聞こえてきます。システム自体はあるにも関わらず、分かりにくさなどの理由で市民に使われないという問題が発生しているのです。システムが存在しないことではなく、使われていないことが大きな課題となって、デジタル化成功の障害となっています。

デジタル化を進めたことで、かえってシステムに対する問い合わせが増え、業務が上乗せされてしまったというケースも聞かれます。効率化や業務改革を進める目的でシステム化を行なったにも関わらず、削減効果よりも負荷が大きくなっては本末転倒です。

株式会社グラファー 取締役COO 井原真吾

では行政デジタル化は進めないほうがよいのかというと、現場の負荷を下げるために、デジタル化が有効な手段であることは間違いありません。行政手続きをアナログで行う場合「どの申請が必要なのか分からない、何を書くのかが分かりにくい」など多岐に渡る課題があり、窓口では問い合わせをはじめとした対応に追われています。その解決のためにデジタル化はやはり欠かせません。

ただ、デジタル化を進めるためには「デジタル特有の分かりにくさ、使いにくさ」といった問題を解決する必要があります。アナログとは違うノウハウが必要となってくるのです。そのポイントについて簡単にご紹介します。

【デジタル化のポイント1】はじめから完成品を目指さない

行政のデジタル化を成功させる1つ目のポイントは、はじめから完成品を目指さずに、改善を前提に考えることです。行政で多くみられるのが、システム完成までをゴールに設定し、完成後にほとんど改善しないケースです。

デジタルの世界では、「最初に考えたものが一番使いやすいとは限らない」という考え方が鉄則です。例えば、一般消費者向けに使いやすさを追求する民間企業においては、システムやサービスの完成までよりも、使いやすさなどの改善に力を入れます。

また、改善し続けるためには、改善しやすい状況を作ることが重要です。「システムは外部に依頼しているので少しの修正にも手間やコストがかかる」というケースは多いのではないでしょうか。全てを人任せにせずに、小さな修正なら自分で簡単に行えるようにしておくことが大切です。

小さな例として、例えば、ある自治体では、案内用紙をパワーポイントで作ることで現場で修正しやすい環境を作っています。外部デザイナーに発注してPDFで納品してもらうのではなく、パワーポイントにすることで現場でいくらでも小さな修正が行えるようになるのです。

改善には様々な方法がありますが、民間でよく行われる方法として、一部分だけを小さく修正して効果を検証する方法があります。使いにくい点、分かりにくい点を部分的に変更し、それによってどのくらいの数値の変化があるかを検証します。この方法であれば、簡単に取り入れることができます。最初から完成品を目指さずに、少しずつ積み上げていくことが大切なのです。

【デジタル化のポイント2】ユーザーの「体験全体」を通して考える

デジタル化を進める2つ目のポイントは、ユーザーの体験を全体を通して考えることです。市民がシステムを使用する場面だけを「点」としてとらえるのではなく、市民がどう考えて、どういう問い合わせをして、最終的にどう行動するかも含めた体験全体を「面」でとらえて改善していくのです。民間企業においては、この考え方を「UX(ユーザー体験)」と呼び、ここ数年非常に重視されています。

全体のユーザー体験を意識して現状のフローを見つめ直すと、非デジタルな部分を含めた新たな接点が見えてきます。すると、様々な箇所に乖離、つまり「落とし穴」が隠れているのです。見落としがちな落とし穴に着目することで、より使いやすいシステムを作ることができます。

1.「運用とシステムの間」の落とし穴

1点目が、現場の運用と構築したシステムの間に乖離があるケースです。よくあるのが、現場の運用を深く考えずに「こんなシステムがあったらきっと便利だろう」という考えで話を進めてしまうケースです。ヒアリングだけではなく実際の窓口に立って、本当に必要なのは何かを考えて設計することが重要なのです。

2.「サービスとシステムの間」の落とし穴

2点目は、求められているサービスとシステムの間に乖離があるケースです。例えば、婚姻届が欲しくて行政の検索システムで「結婚」と検索したところ、当然出てきて欲しい婚姻届が全く出てこないといったケースです。これでは、システムとしては正しい状態でも、住民にとってみると非常に使いにくく不完全です。実際に、予備知識がない友人や家族などのユーザーに使ってもらうなどの工夫が必要です。また、システムを作るだけではなく、サービスまで見てくれるような事業者に依頼するという動きも増えてきています。

3.「システム開発者と利用者の間」の落とし穴

3点目が、システム開発者と利用者の間に乖離があるケースです。画面を1つ追加したいだけなのに、システム開発者に確認すると想定以上の時間やコストがかかると言われたというケースは多いのではないでしょうか。この原因の多くは、依頼時の想定不足にあります。例えば、ログイン機能を作りたいから、IDとパスワードを入力する画面だけを依頼しても、実際にはパスワード忘れ、メール送信機能など、もっと必要なページがあることが多々あります。

今後は、Saasの活用や電子申請がトレンドに

今後は、行政でもSaaS(Software as a Service)の活用が進んでくることが予想されます。ソフトウェアをスクラッチで独自開発するのではなく、クラウド上で月額利用料のパッケージを利用していくSaaSは、安価でバージョンアップも頻繁に行われるためメリットが大きいと言われています。民間ではすでに普及が進んでいますが、今後、自治体においても利用が進むと考えられています。世界的には、自治体向けのSaaSのマーケットプレイスが既にできており、日本においても近い将来にこの流れが後押しされると言われています。

また、今後日本でも電子申請が増えていくことも予想されています。これまで、マイナンバーカードが普及してもカードリーダーがないことが電子申請の妨げになるとされてきましたが、最近、iPhoneの機能でマイナンバーカードの読み取り機能が提供されるようになりました。今後は、スマホ上で情報入力して、最後マイナンバーカードをかざすだけで手続きが完了する流れが少しずつ増えていくのではないかと考えています。

松井 一實広島市長にもグラファーの行政向け窓口支援システムをご覧いただきました。

行政がデジタル化を進める上では、単にシステムを導入するだけではなく、実際に使われるシステム作りが大切です。そのためには、システム特有の分かりにくさをなくし、使いやすくすることが、業務時間の削減や市民の満足につながるのです。そのヒントとなる考え方をご紹介しました。窓口業務改善や、行政の働き方改革などに向けた参考になれば幸いです。

(※文中の敬称略。所属や氏名は取材当時のものです。)

行政デジタル化の実現に向けて、各自治体では取り組みが進んでいます。デジタル改革を後押しするのは、あらゆる行政手続きをオンラインで完結する「Graffer スマート申請」、簡単な質問に答えるだけで行政手続きを洗い出せる「Graffer 手続きガイド」などの製品です。Graffer 製品の導入期間や費用については、お問い合わせ窓口からお気軽にご相談ください。

グラファー Govtech Trends編集部

Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。

株式会社グラファー
Govtech Trendsを運営するグラファーは、テクノロジーの力で、従来の行政システムが抱えるさまざまな課題を解決するスタートアップ企業です。『Digital Government for the People』をミッションに掲げ、行政の電子化を支援しています。