デジタル先進国エストニアの立役者が語る、今後世界が向かうデジタル化とは
世界最先端の電子国家として有名になったエストニアの立役者とも言える、e-Residencyアドバイザーを務めた、タフツ大学のRavi Shankar Chaturvedi(ラビ・シャンカール・チャトゥルヴェディ)氏。
世界のデジタル化動向について語る教授の話から、「データは新しい石油なのか」「エストニアが進む方向」など最新の4つの話題をピックアップして紹介します。
話題1. 「データは新しい石油」なのか?
安倍晋三首相が2019年のダボス会議で「成長のエンジンはもはやガソリンではなく、デジタルデータで回っている」と発言したことでも知られるように、近年「新しい石油」と呼ばれることが多いデータですが、教授はデータには、石油とは全く違う価値があると言います。その理由として、石油は一回しか使用できず有毒な排気ガスを排出するのに対して、データには複数の用途があり、その廃棄ガスとも言える蓄積データは何度も再利用できることが挙げられます。
デジタル化が進むことによって蓄積されるデータは、単なる廃棄物ではなく、分析することで新しい見識を得ることができるものだと教授は言います。蓄積されるデータは「デジタルトレース」と呼ばれます。デジタルトレースはさまざまな観点から何度も分析することで、新たな価値を生み出すことができるものなのです。またデータはAI(人工知能)を成長させるための素材としての価値もあります。
「データとデジタルトレースは、AIを育てるための源であると言える。」
ーRavi Shankar Chaturvediー
引用元:『Ravi Shankar Chaturvedi: on data and leapfrogging Estonia』
訳:Toshihiro Hatano(Govtech Trends編集部)
話題2. 世界のデータ経済をリードする4地域はどこか
教授は、世界のデータ経済をリードするのは「米国・中国・EU・インド」の4地域だと語ります。これらの4地域は、データ量や質の面で世界をリードしていると言います。たとえば中国やインドは、どの国よりもデータ量が膨大です。ヨーロッパは、EU全体で見ると質の面で洗練された消費パターンを持つと言います。さらに、EUは個人が複数のデバイスを利用するなどの特徴も見られます。このような理由から、教授はこれらの4地域が、これからのデータ経済の新興勢力になっていくと考えています。
話題3. デジタル行政のヒントは「エストニア事例の活用」にある
EUの中でもデジタル化が広く知られているエストニアですが、意外にも「そのベストプラクティスは十分に活用されていない」と教授は言います。エストニアは小国でありながら、国の規模を超えてデジタル・ガバメントのあるべき姿の指標となっています。しかしその具体的なノウハウは、それほど横展開されていません。
エストニアのデジタル行政の具体的な方法が他国で展開できれば、世界の公共サービスのデジタル化は飛躍的に進歩すると考えられています。データ経済がもたらす利益を世界に広めるには、すでに成功しているエストニア事例を活用する観点が有効だと教授は語ります。
エストニアの強みは優れた「制度」にある
デジタル化の成功に注目が集まりがちなエストニアですが、教授は、エストニアの競争優位性は「優れた制度設計」にあると言います。その理由は、制度は正しく整えることが最も難しく、複製ができないためです。
エストニアが優れた制度を作れた背景は、その地理的・歴史的位置にあります。エストニアは地理的にはEUの伝統的な制度を利用しながらも、歴史が浅く若く小さいことから、さまざまなことが試しやすかったのだと言います。
エストニアは「世界のイノベーションラボ」を目指している
エストニアが次に目指すのは、デジタル化のノウハウを世界へ展開することだと教授は言います。エストニアのデジタル化事例に興味を持つ国は、世界100カ国以上にのぼります。教授は、エストニアにとっても、最先端を維持するためにには、制度基盤を保持し守り続け、投資を継続しながらも、ベストプラクティスを世界に発信し続けることが必要だと語ります。
2019年に、エストニアは「Global Digital Society 基金」を設立し、他国のデジタル化支援を本格的にスタートさせました。基金を通じて、さまざまな国に対してノウハウや知識をシェアしていくことが検討されているのです。ここからもエストニアが他国から強く支援を求められていることが分かります。
参考:『Estonia to share its e-governance know-how』
話題4. デジタル化を進めるうえでもっとも大切なこととは
教授は「イノベーションを解き放つ唯一の要素を一つだけ選ばなければいけないならば、私は“人”を選ぶ。」と言います。デジタル化を推進するためには、制度・政策・保護・自由・規範などはもちろん重要な要素です。しかし、最も重要な点は優秀な人材を惹きつけて、育て、革新と創造が行いやすい環境を与え続けることなのだと言います。
教授は同時にこうも語ります。「必ずしも、自国で優秀な人材を輩出しなくても、世界中の優秀な人材を魅了できればよいのです。」たとえばエストニアで開発された「Skype」は、エストニア人によって作られたのではなく、「Skype」を作るために集まった数カ国の非常に優秀な人々によって作られました。人を育てるだけではなく、国内外を問わず集めるための環境を作ることが大切だと教授は言います。
まとめ:世界で進むデジタル化の波
世界では急速なペースでデジタル化が進んでいます。日本でも政府主導のデジタル化は進行していますが、まだ十分とは言えない状況です。2020年には、マイナンバーカードの保有率を高めるための本格的な取り組みがはじまりますが、どのくらい定着するかは不明瞭です。
日本が電子化を進めるうえで、世界の動向やエストニアの事例には学ぶべきことが詰まっています。
出典:『Ravi Shankar Chaturvedi: on data and leapfrogging Estonia』
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グラファー Govtech Trends編集部
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