5,800時間以上の削減へ。町田市が挑む「入園事務のバックヤード自動化」の全貌。オンライン申請から自動点数付け、基幹システム連携まで一気通貫のデジタル化
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5,800時間以上の削減へ。町田市が挑む「入園事務のバックヤード自動化」の全貌。オンライン申請から自動点数付け、基幹システム連携まで一気通貫のデジタル化

2026.04.20 Mon

オンラインで申請を受け付けても、その後の内部事務は手作業のまま——。こうした「まだらデジタル」の状態からの脱却を目指し、東京都町田市では、入園事務のバックヤード業務の自動化を開始しています。オンライン申請データをもとに自動で点数を算出し、RPAで基幹システムへ連携するまでを一気通貫で「フルデジタル化」する仕組みによって、年間約5,800時間の業務削減効果を見込んでいます。この先進的な実証実験の内容と今後の展望について詳しく話を伺いました。

入園事務を一気通貫でデジタル化する「フルデジタル化」の仕組み

——今回の取り組みで目指す入園事務の「フルデジタル化」について、具体的に教えてください。

矢野:入園事務の「フルデジタル化」は、保育園・幼稚園の入園申し込みについて オンライン申請から、点数付けや基幹システムへの登録といった内部事務までを一気通貫でデジタル化する試みです。

——町田市では、従来はどのような流れで入園時の事務を行っていましたか。

矢野:従来は、オンラインで入園申請を受け付けた後、申請データをいったんすべて紙に印刷し、担当者が紙の様式に手作業で点数を記入。その後、その紙をOCRで読み取り、RPAでデータ連携するという手順で事務を行っていました。すべてを紙と手作業で行う一般的なフローと比較すると、OCRやRPAによって効率化されている側面はありましたが、デジタルと紙が混在する、いわゆる「まだらデジタル」な状態でした。

——今回の「フルデジタル化」は、具体的にどのようなフローなのでしょうか。

矢野:今回の「フルデジタル化」は、オンラインで申請を受け付けた後、自動で点数付けが行われ、そのままRPAで基幹システムへの連携まで完結するというフローです。担当者が行う事務は「内容が正しく反映されているか」「内容が適切か」といった確認のみで、その後の入所選考や決定通知書の作成・発送へと進むことができます。

今回の取り組みでは、データで入ってきた申請を紙に印字することなく、最後までデータで流れるようなフローを構築している。

——点数の自動計算はどのような仕組みで行われるのでしょうか。

矢野:点数の自動計算は、市の選考基準に基づき、システムが自動で点数判定を行う仕組みです。オンライン申請で届くデータは、そのまま基幹システムに流し込める形式ではありません。そのためプログラムで点数を自動計算するとともに、基幹システムが受け付け可能な形式へと自動変換しています。

従来は、職員が申請内容をもとに手作業で点数付けした用紙をOCRで読み取り、それをRPAで取り込むといった工程が必要でしたが、現在は、入力された情報をRPAの扱いやすいデータへと自動で最適化することで、RPA側の処理をシンプルに保っています。このように申請データから基幹システムが扱えるデータへと、人手を介さず一気通貫でつなぎこめる仕組みを構築したことで、迅速かつミスのない点数の算出を実現しています。

オンライン申請の内容をもとに、市の保育指数のロジックに基づいて自動計算される。

——添付書類はどのように扱われるのでしょうか。

矢野:添付書類は、申請内容の裏付けとして位置づけています。たとえば申請者が「就労時間が8時間以上」と入力した場合、入力された情報が正しいかどうかを、添付書類と照らし合わせます。このように、最終工程として担当者が目視確認を行うことで、申請内容との整合性を担保しています。

就労証明書をOCRで読み取って人間を介さずに照合することも検討しましたが、書類のサイズや形式が事業者ごとに異なるなど、考慮すべき点が多くあります。そのため、100%をデジタルだけで完結させようとするのではなく、最後に人間が確認するフローをあえて残すことで、審査の正確性を担保しています。

——基幹システムへのデータ登録はどのような手順で行われるのでしょうか。

矢野:基幹システムへの連携については、最終的な完全自動化を見据えつつ、実証実験の段階ではネットワーク環境の制約から、一部に手動での登録を残しています。具体的には、数日分の申請データをCSV形式で抽出し、それをマイナンバー利用事務環境へ移した後、RPAで読み取って基幹システムへデータ登録するというステップで処理しています。


子ども生活部保育・幼稚園課 担当係長 矢野 岳輝氏

「フルデジタル化」がもたらす効果

——入園事務の「フルデジタル化」によって、どのような効果が見込まれるのでしょうか。

矢野:「フルデジタル化」で業務が効率化することによって、入所選考の結果をより早く保護者に届けられるようになることを期待しています。保護者にとっては入園の可否が決まるまでの期間は不安が大きいものです。現時点では挑戦の段階ですが、結果の早期通知という形で市民の利便性を最大化することを目指しています。

——職員の業務面ではどのような効果を見込んでいますか。

矢野:業務面では、これまで手作業で行っていた約5,838時間分、人件費にすると約700万円分の削減を見込んでいます。「フルデジタル化」のフローでは、入力されたデータを職員がチェック・修正するという工数が増える見込みもありますが、それでも、手作業で進めていた頃とは比べものにならないほどの削減効果が期待できると考えています。こうした効率化によって生み出された時間は、より質の高い市民サービスへと還元していきたいと考えています。

深原:審査の正確性向上という副次的なメリットも期待できます。複雑な基準をロジック化することで、担当者の習熟度に関わらず、常に一定のルールに基づいた精密な判定が行えます。手作業での限界をシステムが補完してくれるため、ヒューマンエラーのリスクを最小限に抑え、選考の信頼性をさらに強固なものにできると考えています。

「フルデジタル化」によって、市民目線、職員目線でさまざまな効果が見込まれる。

約1年の実証実験で見えた、フルデジタル化への手応え

——これまでの業務フローを変えて、実証実験に踏み切ったのにはどのような背景があったのでしょうか。

矢野:背景には、保育ニーズの高まりに伴う入園事務負担の増大がありました。特に秋から年度末にかけては膨大な時間外労働が発生しており、効率化が長年の課題となっていました。これまでもRPAやOCRによる効率化は進めてきましたが、一部に手作業が残る「まだらデジタル」の状態でした。そこで今回、デジタル化された申請データをそのまま自動判定・自動登録までつなげることで、さらなる負担軽減が可能になると考え、実証実験に踏み切りました。

——将来的なシステムの標準化の流れを見据えると、このタイミングでの改修は二度手間になる懸念もあったかと思います。それでも着手に踏み切った背景を教えてください。

矢野:将来的なシステム標準化の流れもありますが、今できることを優先して業務を熟知した職員がいるうちに、デジタル化の基盤を作っておくべきだと判断して着手に踏み切りました。

——実証実験の全体スケジュールを教えてください。

矢野:2025年の年明けに検討を開始し、まずは半年ほどかけて要件定義やネットワーク環境の整備、体制構築を並行して進めました。その後、業務が落ち着く12月から本格的なシステム構築をスタート。そこから約2カ月でリリースに至りました。検討開始から本番稼働まで、繁忙期を挟んでトータルで1年強のプロジェクトとなりました。

——今回の実証実験がここまでスムーズに進んだ背景には、どのような事前の準備や積み重ねがあったのでしょうか。

矢野:まず大前提として、バックヤードの自動化を実現するには、入り口となるオンライン申請の比率を高めることが不可欠でした。過去数年かけてオンライン化を推進し、紙ではなくデータで申請が届く土台を築いてきたことは、今回の実証実験の出発点になっています。 実際、現段階で入園申し込みの約85%がオンライン化されており、自動計算を検証するための十分な環境が整っていたことが、スムーズな進行を支える重要な要因になったと捉えています。

事前の準備を丁寧に進めていったことで、今回の実証実験が実現した。

——オンライン申請率85%という数字は、一朝一夕で達成できるものではありませんね。

矢野:オンライン申請のメリットを地道に周知してきた結果です。保護者の方々へは、「入力ミスがその場でわかるため、不備による再提出の手間が省ける」といった利便性を丁寧に説明してきました。子育て世代という、スマートフォンやパソコンの操作に慣れた方々が対象だったことも、スムーズな浸透を後押ししたと感じています。

——職員の間で、新しいフローへの抵抗感はありませんでしたか。

矢野:反対の声は全くありませんでした。むしろ、バックヤードの業務が確実に楽になるという見通しが立っていたため、職場全体が前向きな雰囲気でした。一部に運用変更への不安はあったかもしれませんが、市民向けのフロントヤードは変えず、裏側のバックヤードだけを効率化するという方針を明確に示していたため、スムーズに受け入れられたのではないかと思います。

深原:変化への不安は、多くの場合「何が変わるか見えないこと」から生じると感じています。町田市では、すでにオンライン化によって業務が改善した実績があったことに加え、業務フローを詳細に可視化し、変化のイメージを事前に共有していました。このような、目に見える形での合意形成も、職員間のスムーズな理解につながったと感じています。

保育事務から他業務へ。実証実験の知見を広げ、市全体のDXを加速させる

——現在の実証実験の進捗はいかがでしょうか。

矢野:事前のテストでは、手作業で見落としていたミスをシステムが正確に検出するなど、自動化の精度の高さを改めて実感できました。本番環境への移行に伴い、RPAの設定や画面制御においてより現場に即した最適化のポイントも明確になっています。2026年度の5月入園分からは、段階的に実際の運用をスタートしており、申請が急増する4月入園分に備え、処理の安定性を高めつつ、例外パターンの洗い出しを行っている段階です。

——今後、さらにデジタル化を進める上での課題や展望を教えてください。

矢野:「フルデジタル」という観点では入所選考の結果を保護者に通知する部分についても、検討を進めていきたいと考えています。

深原:私たちが目指しているのは、オンラインで受け付けたデータが、その後の処理で再び紙に戻ってしまうような「まだらデジタル」の状態を根本から解消することです。 今回の保育園事務での知見をモデルケースとして、他の手続きにも横展開していきたいと思います。さらに将来的にはRPAに依存しない、APIによる直接的なシステム連携も実現できればと考えています。

政策経営部デジタル戦略室 担当係長 深原 僚平氏

——生成AIの活用など、テクノロジー面でのさらなる展望はありますか。

深原:今回の実証実験では連携部分にRPAを使用しましたが、今後は生成AIの活用にも積極的にチャレンジしたいと考えています。例えば、複雑な審査ロジックの照合や申請内容の判定をAIがサポートできれば、さらなる業務の効率化が見込めます。町田市ではすでに全職員がAIを活用できる環境を整えており、今後はさらにテクノロジーを駆使した新たな取り組みを進めていきたいと考えています。

(※文中の敬称略。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)

グラファー Govtech Trends編集部

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