「困難に直面する人に支援を確実に届けたい」なぜ北九州市は支援情報を見つけ出せるサービスを開始したのか
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「困難に直面する人に支援を確実に届けたい」なぜ北九州市は支援情報を見つけ出せるサービスを開始したのか

2023.01.30 Mon

孤独・孤立対策の一環として、困難に直面する方がスマートフォンで支援情報を見つけ出せる「北九州市版 お悩みハンドブック」を提供する、福岡県北九州市。その基盤として採用されているのが、グラファーの「お悩みハンドブック」です。元ケースワーカーの職員は、なぜこのような取り組みを始めたのか、その思いを伺いました。

簡単な質問に回答するだけで支援情報を見つけ出せる「北九州市版 お悩みハンドブック」

——「北九州市版 お悩みハンドブック」は、どのようなサービスですか。

中江:「北九州市版 お悩みハンドブック」は、生活の困りごとなどに関する簡単な質問に回答していくだけで、利用できる制度や相談窓口を見つけ出せるサービスです。例えば、心や体の状態や、一人で行うのが難しいことなどの項目にチェックをつけていくと、北九州市や国の支援情報を一覧で確認することができます。

スマートフォンやパソコン、タブレットから、自身の生活の悩みにチェックを付けていくだけで、役立つ可能性のある支援情報を見つけだすことができる。確認できる支援情報は、お金・仕事・住まい・病気・障害・子育て・介護・家庭内の暴力・いじめ・学び直しなど多岐に渡る。登録は不要で、名前や連絡先を入力せずに無料で利用できる。見つけ出した支援情報の一覧を共有する機能や、印刷できる機能など、相談にかかる心理的な負担を軽減する工夫がされている。

——必要とする方に、支援を届けるためのサービスということですね。

中江:「北九州市版 お悩みハンドブック」は、漠然とした困りごとを抱えて生活している方が、自分の悩みを言語化する手助けをしてくれるサービスです。

支援を必要とする方の中には、「悩みがたくさんあって整理できない」、「具体的に言葉にするのが難しい」という状況の方も多くいます。

そんなときに役立つのが「北九州市版 お悩みハンドブック」です。悩みが明確になっていない方でも「いやな気分や感情が続いている」、「体調が悪くても病院に行けないことがある」など、表示される質問に答えるだけで支援情報を調べることができます。経済的な困窮やいじめ、暴力は、支援が必要だとぎりぎりまで自覚しにくいこともあります。受けられる支援はないかどうか確認することで、さらなる問題に至らないようにする予防的な観点を大切にしています。

「困難に直面する方に必要な支援を届けたい」と考えたことがきっかけに

——導入のきっかけは何だったのでしょうか。

中江:困難に直面する方に必要な支援を届けたいと考えたのがきっかけです。私自身、孤独・孤立対策担当の前に、生活保護のケースワーカーとして働いていたことがあるのですが、数多くの制度の中から、困りごとに応じて制度を見つけるのは簡単なことではないと感じていました。生活保護は「最後のセーフティネット」とも言われており、他法他施策優先のため、今ある制度をまず利用することが前提です。ただ、制度に関する情報は大量なうえに分散しているため、特にケースワーカーになりたての頃は問題意識を持っていました。

保健福祉局 地域福祉部 地域福祉推進課 孤独・孤立対策担当係長 中江 伸也氏

——導入の背景には、ご自身がこれまで感じてきた問題意識があったのですね。その後、どのような経緯で「北九州市版 お悩みハンドブック」の導入に至ったのでしょうか。

中江:孤独・孤立対策担当として着任後、同僚からの紹介で偶然、グラファーが開発した「お悩みハンドブック 全国版」のことを知りました。目から鱗で、「これがあれば、支援者の方や、困難に直面する多くの方が、少ない負担で制度にたどり着けるのではないか」と感じました。

お悩みハンドブック 全国版」とは
オンラインで質問に回答するだけで、全国共通の支援を調べることができるサービス。2021年1月に無償公開後、SNSを中心に反響を呼び、2022年12月5日現在、40万ユーザーを突破。2022年2月の参議院予算委員会の質問では、困難に直面する人に寄り添い、支援情報を提供する好例として取り上げられた。

——「お悩みハンドブック」の北九州市版と全国版には、どのような違いがあるのでしょうか。

中江:「北九州市版 お悩みハンドブック」は北九州市にお住まいの方を対象に、北九州市で受けられる支援を紹介したサービスです。

一方、「お悩みハンドブック 全国版」は国の制度など、全国共通で利用できる支援情報を紹介したサービスです。全国共通で利用できる制度は充実していますが、実際に制度を利用する際には、支援を受ける方が各自治体の連絡先を自力で調べる必要があるという課題も抱えていました。

そこで北九州市では、2022年から提供された「お悩みハンドブック」の「自治体向けカスタマイズ機能」を利用し、全国版の良さはそのままに、北九州市独自の情報を追加して「北九州市版」としてサービスを構築しました。

「北九州市版 お悩みハンドブック」を困難に直面する、一人でも多くの方に知ってもらいたい

——「北九州市版 お悩みハンドブック」の反響はいかがですか。

坂田:公開後、多くの方に「北九州市版 お悩みハンドブック」を利用いただいています。例えばイベントでサービスを紹介するチラシを配布した際には、配布したうち半数の方にアクセスいただきました。

——多くの方にご利用いただいているのですね。

坂田:利用いただいているということは、悩みを抱える方がいらっしゃるということです。一人でも多く知っていただければ、その分必要な人に届く確率が高くなるため、「どう届けるか」、「どう知ってもらうか」が大事になってくると考えています。

北九州市では、「北九州市版 お悩みハンドブック」を市HPのトップページに表示したり、市政だよりに掲載したりすることによって、困難に直面する方の目に止まりやすいように工夫している。

NPO法人など、支援者の間でも活用の輪を広げていく

——「北九州市版 お悩みハンドブック」は、孤独・孤立対策の取り組みとして、心強いサービスとなりそうですね。

中江:2021年には内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が設置され、深刻化する社会的な孤独・孤立の問題への対応が本格化しています。北九州市においても2022年に「北九州市孤独・孤立対策等連携協議会」を設置し、NPO法人など支援者の横のつながりの強化に取り組んでいます。

この協議会の中で「北九州市版 お悩みハンドブック」を紹介した際は、「相談の際に活用できそう」、「相談の際の補助ツールとして利用できそう」といった反応がありました。

——支援者の間で活用が広がれば、支援を必要としている方に、より確実に情報が届けられそうです。

中江:支援者の方にもぜひ活用いただきたいと思います。例えば、困りごとをヒアリングして、支援を幅広く探すような場面で「北九州市版 お悩みハンドブック」を使えば、受けられる支援の一覧を簡単に確認することができます。

坂田:自治体の制度は多岐に渡り、支援者の方もすべてを把握するのは簡単ではないと思います。そんなときは「北九州市版 お悩みハンドブック」を活用いただくことによって、より幅広く、より少ない負担で情報にたどり着くことができると考えています。

「北九州市版 お悩みハンドブック」を通じて、支援を必要としている方と、さまざまな支援団体や支援策が確実につながっていくことを願っています。

「北九州市版 お悩みハンドブック」は、NPO法人など支援者の活動にも活用できる。

庁内でも活用を広げていきたい

——「北九州市版 お悩みハンドブック」の導入にはどのくらいの期間がかかりましたか。

中江:企画から導入までにかかった期間は約6カ月間です。公開前には庁内でも関連各課に照会を行い、支援を必要とする方に、適切な窓口の連絡先が掲載されるように意識しました。

——庁内では「北九州市版 お悩みハンドブック」をどのように活用できそうでしょうか。

坂田:「北九州市版 お悩みハンドブック」は市民のためのサービスですが、庁内でも多くのシーンで活用できるのではないかと考えています。

例えば、相談者に事前に回答いただくことによって相談窓口での聞き取り時間を短縮したり、異動して間もない職員が利用することによって聞き漏れの防止につなげたりできるではないかと思います。相談者自身が、何に困っているのかクリアになっていない状況の場合、相談前に回答いただくことによって、状況を正確に把握することにもつながります。

保健福祉局 地域福祉部 地域福祉推進課 主任 坂田 智子氏

困難に直面する方に寄り添うサービスでありたい

——今後、孤独・孤立対策に向けて、北九州市ではどのような取り組みを行う予定でしょうか。

中江:孤独・孤立対策に取り組むNPO団体同士で、横の連携が取れるよう、協議会を通じて互いの活動の共有を進めていきたいと考えています。支援団体同士の連携が取れれば、支援を必要とする方に、責任をもってより適切な支援団体を紹介することにもつながります。協議会の取り組みが形骸化しないよう、意味のあるものにしていくために力を注いでいきます。

——「北九州市版 お悩みハンドブック」のこれからについては、どのような思いを持っていますか。

中江:困難に直面する方に寄り添うサービスを目指していきたいと考えています。言葉にできない悩みをお持ちの方にとって「すぐそばにある頼れる存在」として、サポートするサービスでありたいと思っています。誰もが、自分の存在意義を実感しながら生きられる社会や、孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会を目指して、引き続き、北九州市としてできることを進めていきます。

【北九州市のNPO法人など、支援者からのお問い合わせ先

北九州市版 お悩みハンドブック」に関する、NPO法人など支援者の方からのご相談やお問い合わせは、以下までお願いいたします。

北九州市 保健福祉局 地域福祉部 地域福祉推進課
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/ho-huku/ho-chiikifukushi.html
電話番号:093-582-2060

取材・写真:佐竹 佳穂 / 取材・文:東 真希(Govtech Trends編集部)
(※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。インタビュー内容や所属、氏名は取材当時のものです。)

【支援者の方以外の、製品に関するお問い合わせ先

北九州市が取り組む、「北九州市版 お悩みハンドブック」は「お悩みハンドブック 全国版」で実現することができます。費用や導入期間などについては、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。

グラファー Govtech Trends編集部

Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。

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北九州市

人口:
96.13万人(令和2年国勢調査)

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