
【セミナーレポート】京都市・寝屋川市が語る、IVR導入の効果と課題
自動音声応答(IVR)を活用した電話対応のDXに取り組む京都市と寝屋川市。先行自治体として導入を進めてきた両市の担当者に、導入のきっかけから運用後の反応、今後の展望までを伺いました。
登壇者プロフィール
京都市(人口:約137万人) 文化市民局地域自治推進室 浜本 義之氏
区役所・支所の代表電話にIVRを導入し、現在30回線で運用中。24時間365日、自動音声やSMSで行政情報を提供している。
寝屋川市(人口:約22万人) 市民サービス部(国民健康保険担当) 中村 大樹氏
令和7年7月より、国民健康保険担当においてIVRを導入し、現在2回線で運用中。市民の利便性向上と職員の業務効率化に取り組んでいる。
IVR導入のきっかけ
——IVR導入を検討したきっかけを教えてください。
浜本(京都市):実証実験では9回線を対象にしていましたが、本導入では全14区・支所の代表電話を含む合計29回線を対象に自動音声応答の利用を開始しました。実証実験で確認できた効果をもとに、取り組みを全区に拡大しています。
約5カ月間の実証実験で効果を検証した
——寝屋川市ではどのような経緯で検討を始めたのでしょうか。
中村(寝屋川市):寝屋川市では、市民に評価される市役所を目指し、社会的価値のある政策を提案する「サマーレビュー」という取り組みがあります。次年度予算に向けた市長への政策提言の場で、どのような提案をするか模索する中、自治体DXの事例記事で「電話を45%削減」という内容が目に止まりました。国保業務では定型的な問い合わせが多く、自動音声やSMSなどのデジタル技術で効率的に案内できれば、市民満足度の向上と職員負担の軽減を両立できるのではないかと考えました。
庁内の合意形成と費用対効果
——庁内での合意形成はどのように進めましたか。
中村(寝屋川市):財政担当への説明が最大の論点でした。「コスト以上の効果が見込めるか」という点について、2つの観点から説明しました。
1つ目は、新しい地方経済・生活環境創生交付金の活用による財政負担の軽減です。自治体の会計ルールや交付金のQ&Aを確認し、適切な方法で交付金を最大限確保できました。
2つ目は、削減効果の数値化です。電話対応の負荷が減ることで、職員が本来の業務に集中できるようになり、時間外勤務の削減にもつながると考えました。1件あたりの対応時間、入電件数、自動音声で完結する割合などをもとに削減時間を試算し、人件費単価に換算して金額効果として示しました。導入前の想定値を基にした試算ではありますが、財政担当への説明材料として活用しました。
※交付金制度は年度によって内容が変更される場合があります。最新情報は各制度の公式サイトをご確認ください。
——京都市では費用対効果をどのように説明しましたか。
浜本(京都市):本格導入後の4カ月間で、受電数・IVR受電数・職員応対数などを集中的に計測し、前年同時期と比較しました。電話の総数は前年比で2.1%増加した一方、職員の応答数は11.7%減少しました。電話が増えても職員の対応件数は減っており、IVRで完結した分だけ職員の対応時間が削減されたことになります。
応答数の減少による費用対効果を説明した。
調達の進め方
——参考事例が少ない中、調達はどのように進めましたか。
浜本(京都市):当初から特定のサービスに決めていたわけではなく、サービスに求める機能を整理した上で候補を検討しました。音声認識型やオンプレ型なども含めて比較し、その中で京都市独自の「KYOTO CITY OPEN LABO」という民間企業と課題解決に取り組む枠組みを活用して実証実験を行いました。他自治体の参考事例が少ない中でも、自ら実証を行うことで効果を確認でき、本格導入はプロポーザルで進めました。
中村(寝屋川市):府内で先行してIVRを導入していた自治体の資料や経験を参考にしました。交付金申請に必要な事業計画やシナリオ作成など、具体的なノウハウを得られたことで、調達に向けた準備を比較的スムーズに進めることができました。
シナリオ作成と市民への周知
——シナリオ(※)作成で苦労した点はありますか。
中村(寝屋川市):「市民を待たせない」と「自動音声で完結させる」のバランスが難しく、シナリオ作成に苦慮しました。また、「職員と話せる導線を残すべき」という意見も一部でありました。この意見に対応しつつも、IVR導入の効果が薄れないよう、シナリオの第1階層に「職員につなぐ」を直接置くのではなく、「その他の問い合わせ」という表現に置き換えることで両立を図りました。
一方で、職員につなぐ導線への流入が多いことが分析データから確認できたため、この点は今後の改善課題だと考えています。職員へつなぐシナリオは、第2階層または第3階層に置くのが最善と考え、検討しています。
(※)シナリオとは、電話の着信時に流す自動音声と、顧客のプッシュ操作に基づいた分岐フローのことです。
——シナリオ作成の体制についてアドバイスはありますか。
中村(寝屋川市):シナリオ作成は担当者一人で抱え込まない方がよいと感じました。業務が広範囲の場合、一人で全てのシナリオを作成するのは非効率です。最初に共通ルールを決めた上で、業務ごとに担当を分担し、期限を切って進める方がスムーズだと感じます。
——市民への周知はどのように進めましたか。
浜本(京都市):市民周知の観点では、特に「検索結果(Google等)の電話番号表示」をIVR番号へ切り替える施策が大きな影響を持ちました。
Google検索結果の番号を変えるだけで、IVR利用が増加。
検索結果の電話番号をIVR番号に変更するだけで、1日あたりの受電数が約60件から約230件に増加しました。自治体側で変更できる領域・できない領域があるため、事前に整理して導入時に一斉切り替えを実施しました。さらに、庁内の各種サイト、広報物、掲載電話番号を一つずつ洗い出し、IVR番号へ置き換えました。広報・Web所管など複数部署と連携して進めました。
中村(寝屋川市):市民は市から届く通知書を見て問い合わせることが多いため、発送物にIVRの050番号を明記するようにしています。こうした地道な取り組みの積み重ねが、利用率の向上につながると考えています。
市民・職員の反応
——導入後の市民からの反応はいかがでしたか。
中村(寝屋川市):市民からの大きな苦情はありませんでした。料金に関する質問が数件あった程度です。音声ガイダンスを好まず電話を切るケースはデータ上見られますが、全体として大きな問題にはなっていません。
浜本(京都市):月2万件程度をIVRで受けていますが、苦情はほぼなく、IVRは市民に十分受け入れられていると考えています。用件のIVRで一定数が解決されることで話し中が減り、「すぐ職員と話したい」という市民にとっても、職員への電話がつながりやすくなることを説明して理解してもらっています。
SMSでアンケートを送付し、市民満足度を測定している。
市民満足度アンケートでは5点満点中3.5点程度の評価を得ています。アンケートはショートメールでURLを送り、回答フォームに飛ばす方法で実施しています。
——職員の反応はいかがでしたか。
中村(寝屋川市):職員からは、繁忙期の電話が減ったという声が聞かれます。定型的な問い合わせがIVRで完結するようになったことで、窓口対応に集中しやすくなったという実感があるようです。
浜本(京都市):現場では当初不安の声もありましたが、まずは小さく始めて効果を確認しながら進めることで、徐々に解消していきました。今では特に問題なく運用が定着しています。
導入後の継続的な改善
——導入後に行った改善の例があれば教えてください。
浜本(京都市):視覚障害者団体からの要望を受け、IVRの操作方法を改善しました。スマートフォン画面での数字入力が難しく、通話中に操作できなくなるという相談があったためです。グラファーへ要望を共有したところ、ボタン操作を行わなくても一定時間経過後に次の対応へ進む仕組みに改修されました。これにより、より利用しやすいサービスになりました。導入後もこのような利用者の声をもとに改善が継続されており、継続的に使い勝手が向上していく点はSaaSの利点だと感じています。
今後の展望
——今後取り組みたいことを教えてください。
浜本(京都市):電話対応は、様々なDXが進む中でもまだデジタル化の余地が大きい領域だと捉えています。IVRの導入はその第一歩ですが、今後は音声入力による受け付け対応、録音機能を活用したカスタマーハラスメント対策、録音データのテキスト化による記録作成支援など、派生的な活用も検討していきたいと考えています。
中村(寝屋川市):利用率・自動解決率の向上に向け、切電箇所の分析とシナリオ改善を継続していきます。SMS等で誘導するWeb情報自体に分かりにくい点もあり、市民目線でのさらなる改善が必要です。また、IVRは夜間でも利用できるため、閉庁時間帯でも問い合わせ可能であることの周知を進めたいと考えています。
まとめ:勉強会・座談会で生まれた「横のつながり」
「電話DXの実態が見えにくい」という現場の課題を共有する場として、開催された本イベント。後半の座談会では、登壇自治体と参加者が直接対話し、参加者同士の対話や情報交換が活発に行われ、実務レベルの知見共有につながりました。
参加者からは、具体的な気づきとして次のような声が挙がりました。
「担当者の実体験を聞くことで、導入後の業務フローを具体的にイメージできた」
「電話番号周知の際にGoogle検索結果を編集するなど、市民目線の工夫が参考になった」
「先行自治体のリアルな事例を直接聞けて有益だった」
「複数都市の取り組みを比較して理解でき、勉強になった」
先行自治体の知見を直接共有することで、検討の参考となる情報を持ち帰ってもらえる機会となりました。今後も同様のセミナーを継続して開催予定です。「Graffer Call」の費用や導入期間については、無料お問い合わせからお気軽にお問い合わせください。
グラファー Govtech Trends編集部
Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。
株式会社グラファー
Govtech Trendsを運営するグラファーは、テクノロジーの力で、従来の行政システムが抱えるさまざまな課題を解決するスタートアップ企業です。『プロダクトの力で 行動を変え 社会を変える』をミッションに掲げ、行政の電子化を支援しています。


