エストニア自治体職員インタビュー【広報部編】「市民のアイデアを市政に」その方法とは
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エストニア自治体職員インタビュー【広報部編】「市民のアイデアを市政に」その方法とは

2023.06.12 Mon

電子国家として知られるエストニア。すでにさまざまな事例が日本にも届いていますが、「リアルなエストニアの姿」をうかがう機会は多くありません。そこで「エストニア自治体インタビュー」では、編集部メンバーが実際にエストニアの行政職員にインタビューを行い、日本の自治体職員に役立つ「ヒント」をお届けします。


前回の「教育部編」に続き、今回は「広報部編」として、エストニアのタルトゥ市で広報担当マネージャーとして働くLilian Lukka(リリアン・ルッカ)氏にお話しをお伺いしました。タルトゥ市では、市の予算の1%の使い道について、市民の意思を直接的に反映させる「市民参加型予算」を採用しています。市民への情報発信や意見募集に、どのようにデジタルツールを活用しているのでしょうか。


タルトゥ市 中央広場・市庁舎

デジタルツールの活用で、市民が市政に参加できる枠組みをサポート

——広報部では、どういった業務を担当されているのでしょうか。

広報部で私が扱っている業務は大きく2つあります。

1つ目は市民に向けた情報発信。そして2つ目が、市民からの要望や意見を集めたり市政への市民参画を促進したりすることです。市の予算の1%の使い道を市民による投票で決める「市民参加型予算」もその取り組みの1つです。

——市の予算の使い道を市民による投票で決めるというのは、面白い取り組みですね、この「市民参加型予算」には、どのようなシステムを利用しているのでしょうか。

市民参加型予算では、「VOLIS(※)」というシステムを利用して、市民からのアイデアや投票を受け付けています。「VOLIS」を使うことによって、市民はわざわざ役所に足を運ぶことなく、スマートフォンやパソコンから簡単にアイデアの投稿や投票をすることができます。

(※)VOLISは、国が開発した地方自治体向けのオンラインプラットフォームです。オンラインミーティングや文書管理、市民が参加するオンライン投票などが可能。地域の意思決定プロセスに市民が参加するためのツールとしても活用されています。

——具体的には、これまでどのような投票が行われたのでしょうか。

2022年の10月に行われた市民参加型予算の投票では、「スノーパークにスキー用の丘とスノーボード用のスロープを設置する」と「街中にもっとベンチを設置する」という2つのアイデアが選定されました。投票数は4,685人にも及びました。

——多くの投票が集まったのですね。投票後、アイデアの実現はどのような流れで行われるのでしょうか。

例えば「街中にもっとベンチを設置する」のアイデアでは、市が保有する位置情報をまとめて提供しているサイト「GeoHUB(※)」を利用して、ベンチをどの位置に設置するのが良いか、市民から意見を募集しました。

市民はサイトにアクセスして、地図上で希望するポイントを登録することができます。最終的に1カ月程の間に、406人の市民から、898箇所もの提案を集めることができました。

(※)GeoHUBは、市が保有する様々な位置情報をまとめて提供しているウェブサイトです。ArcGIS Onlineを利用していて、サインインすれば誰でも無料で地図の閲覧、作成、解析、共有等のさまざまな機能を使うことができます。

市民から提案のあったベンチの設置位置

赤色の点は「ベンチが必要な箇所」として提案があった地点、青色の点は「ベンチがあるとよい」という提案があった地点。現在、これらの提案を元に広報部で位置の選定作業を進めている。100,000ユーロの予算で約100台のベンチが設置される予定。

——市民の方がデジタルツールを活用して市政に参加している姿は、とても興味深いですね。ご年配の方などデジタルツールに慣れていない方には、どのように配慮していますか。

お年寄りの方など、デジタル化に適応されていない方への配慮については、私たちとしても常に考えており、デジタルツールを使わない従来のコミュニケーションの手段も残すようにしています。

例えば、先ほど紹介した市民参加型予算の投票や意見募集では、電話でも受け付けをしていましたし、市庁舎内の情報センターでは、スタッフのサポートを受けながら、市の端末からシステムを利用して投票などができるようにしていました。

その他にも、2回のワークショップを開催して、広く市民の方から様々な意見をいただけるように工夫しました。

市民参加型予算で採択されたプロジェクトのワークショップの様子

——デジタルツールを活用して多数の意見を集めつつ、ツールを利用しない方の意見も取り込めるように工夫されているのですね。

その通りです。広報部で担当している情報発信でも、市のウェブサイトやSNS等を活用しつつ、新聞やテレビ等のメディアに向けた報道発表のような従来の方法も残すようにしています。

デジタル化で業務が効率化した今、何ができるか、あとは自分次第

——市の広報部に20年以上も務められているということですが、デジタル化が進んで、業務がどのように変化してきたと感じますか?

「GeoHUB」を活用するようになってから、市民が市政に参加する、より多くの機会を提供できるようになったと感じます。また、SNSなどのソーシャルメディアを活用するようになって、広報の業務は大きく変わりました。

ただ、どこかのタイミングで、劇的に業務のやり方が変わったという感じではありませんでした。この仕事に携わった当初から、市のウェブサイトや文書管理のための内部システムがすでにあって、そこに新たな機能が追加されたり、システムが改善・統合されたりという小さな積み重ねで、現在に至っているんだと思います。

現在、業務の中でデジタル化できるところは全てデジタル化されている、と感じています。デジタル化による業務の効率化はすでにやり尽くされているので、どんな仕事ができるか、あとは自分次第ですね!

——なるほど、デジタル化で業務が効率化されたことで、単調な作業に費やす時間が減って、もっとやるべきと自身が考えるところに意識を集中できるのはとても良いですね!今回は、リアルなお話しを聞かせていただきありがとうございました!

タルトゥ市 広報部  Lilian Lukka(リリアン・ルッカ)氏

次号も、このコーナーでは、電子政府先進国エストニアで、自治体職員の方たちが実際にどのように仕事をしているか、行政デジタル化が進んだ今をどのように感じているか、現地からリアルな声をお届けします。


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グラファー Govtech Trends編集部

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