トレンドはオンライン申請から「フロントヤード改革」へ〜令和6年度 行政デジタル化実態調査〜
令和4年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」により、デジタル社会実現に向けた各省庁の取り組みなどが示され、同年12月の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」では、令和9年度までに1,500自治体のデジタル実装が目標づけられ、行政デジタル化に向けた動きはますます活発になっています。
本年は、社会的にも注目される「生成AI」についての設問も加え、人材や予算不足という課題を抱える中、自治体の意識や体制がどのように変化したのかを調査しました。
調査方法
対象
47都道府県及び1,741市区町村
調査期間
令和6年7月22日(月)〜8月14日(水)
調査実施方法
オンライン回答、回答用紙のメール添付
回答数
444件
分析方法
本報告書では、回答を得られた444件について、総務省「地方公共団体の区分」を参考に、人口別に以下の3区分に分けて分析した。なお、令和5年度から都道府県も調査対象とし、都道府県は20万人以上の人口規模に分類した。
1. 人口20万人以上:回答数 35件
2. 人口5万人以上:回答数 100件
3. 人口5万人未満:回答数 309件
54%の自治体がフロントヤード改革に取り組む
91%が「オンライン申請に取り組んでいる」と回答し、オンライン申請が導入フェーズを経て、定着フェーズに入ってきたことが明らかになりました。
オンライン申請の定着後、目指すべき指針として総務省が推進するのが、デジタル化を通じて住民と行政の接点を強化する「フロントヤード改革」です。
すでに54%の自治体がフロントヤード改革の一部として「迷わせない取り組み」「行かせない取り組み」などを実施しており、今後、国の後押しを受けてフロントヤード改革がさらに加速していくことが予想されます。
31%の自治体がすでに生成AIを利用
2022年に登場したChatGPTなどの生成AIについては、31%が「すでに利用している」と回答し、先行自治体以外にも利用が拡大してきている様子がうかがえます。
人口規模20万人以上の自治体については、86%もの自治体が利用を開始しており、生成AI関連の予算を予算化している自治体についても昨年調査時は8%でしたが今年は37%に拡大しました。今後は、自治体の生成AI利用に関する早期のルールづくりが期待されています。
5万人未満の小規模自治体でもデジタル化が進んだ1年に
人口5万人未満の小規模自治体で、DX推進計画を「策定した」と回答した自治体は、この1年で9ポイント増加。これまでなかなかデジタル化が進まなかった小規模自治体においても推進が行われた様子がうかがえます。IT環境としても、95%の職員に端末が行き渡り、IT環境も整ったと言えます。
1. 職員のIT環境
95%の職員に端末が行き渡り、IT環境は整っている
職員のIT環境として、全体の75%が「職員ごとに業務用端末及びメールアドレスを持っている」と回答し、20%が「職員ごとに業務用端末は持っているが、メールアドレスは課または係単位」と回答。合計すると95%の職員に端末が行き渡っていることが分かった。その他として、「LGWAN回線の場合は職員ごとのメールアドレスで、インターネット回線の場合は部署ごとのメールアドレス」という回答も見られた。
2. 推進計画の策定
小規模自治体のDX推進計画策定率が向上
人口5万人未満の小規模自治体で、DX推進計画を「策定した」と回答した自治体は、この1年で9ポイント増加した。全体でも「策定した」と回答した自治体は前回の49%から55%に増加している。一方で、全体の14%は「策定の検討中」、9%が「策定していない」、15%が「策定の予定はない」と回答しており、この数値は前回調査時とほとんど変化がない。一定数の自治体においては、DX推進計画の策定が進まない可能性があることを示唆する結果となった。
3. デジタル化の懸念や障壁
予算化と人材不足の問題が解消せず
前回調査に引き続き、「庁内に最適な人材がいない(31%)」と「予算化が厳しい(33%)」が行政デジタル化における最大の障壁となった。
前回調査時からの変化としては、「予算化が厳しい」が「庁内に最適な人材がいない」を上回り最多となった。デジタル田園都市国家構想交付金の活用も進んでいるが、それでも予算不足を感じている現状が浮き彫りになった。一方、「窓口担当課と情報推進課との連携に懸念がある」という回答は前年までよりも4ポイント減少し、庁内におけるデジタル化への理解が徐々に進んでいる様子がうかがえる。
4. フロントヤード改革における創意工夫
半数以上の自治体がフロントヤード改革における創意工夫を実施
フロントヤード改革における創意工夫について、全体の54%が「行っている」と回答した。人口規模が大きくなるほどに創意工夫を「行っている」と回答する自治体は増加しており、20万人以上の自治体においては91%が「行っている」と回答しており、フロントヤード改革の目指す、「創意工夫を活かした複数の改革」が図られていることが伺える。
5. オンライン申請の導入部署の割合
オンライン申請に取り組む部署は年々堅調に増加
オンライン申請を扱っている部署が「10割」と回答した自治体は、2年前の調査では1%だったが、今回の調査では3%に増加した。同様に「7割」は4%から17%に増加、「5割」は9%から21%に増加している。一方で、「なし」と回答した自治体は4%と、2年前の調査から変化がないことから、一定の自治体においてはオンライン化が全く進んでいない様子がうかがえる。
6. 生成AIの行政利用
生成AIを「すでに利用している」と回答した自治体が31%に
生成AIを「すでに利用している」と回答した自治体は全体の31%を占め、特に人口20万人以上の大規模自治体については、86%がすでに利用していることが明らかになった。「すでに利用している」と「前向きに検討している」をあわせると全体の75%となり、自治体においても生成AIが浸透している様子がうかがえる。一方で、昨年と比較して「利用しない」は18%から13%に減少し、「わからない」も12%から7%に減少していることから、時間の経過とともに生成AIへの理解が進んでいることが分かる。
7. 生成AIの行政利用で期待されること
自治体が生成AIに期待する業務No.1は「内部文書作成の効率化」
生成AIを行政利用することで期待されることとしては、「内部文書作成の効率化」が88%で最多となり、前回調査時の78%と比較しても増加している。「対外的な文書作成の効率化」についても63%から71%に増加しており、期待の高さが伺える。「調査時間の短縮(57%)」「政策立案の支援(53%)」なども期待されており、多方面において生成AIに対して期待されていることが分かる。
8. 生成AIの行政利用の懸念
生成AIの行政利用については引き続き「正確性の担保」と「法令への抵触」が懸念される
生成AIの行政利用に対する懸念としては、「正確性の担保(86%)」「意図せず法令に抵触する恐れがある(75%)」という回答が多く挙げられた。一方で、「懸念はない」という回答は、前回調査で1%だったが今回は4%に上昇し、生成AIに対する理解が徐々に進んでいる様子がうかがえる。
9. 生成AIサービス導入のために必要なこと
生成AI導入のために必要なのは「安全性」
生成AIを行政利用するにあたって必要だと思われることとして最も多い回答は「サービスそのものの安全性(82%)」となった。他には、「導入コスト(73%)」や「LGWANへの対応(57%)」も必要性が高いものとして挙げられた。また、「導入・運用にあたっての伴走支援」が必要だと回答する自治体は47%に上り、単純なツール導入ではなく、活用まで見据えている様子がうかがえた。
本レポートの詳細報告書を希望される方
グラファーGovtech推進支援室では、今後も行政デジタル化の推進に向けた取り組みを進めてまいります。本レポートの詳細報告書を希望される方は、グラファー Govtech推進支援室(govtech@graffer.jp)までご連絡ください。
グラファー Govtech Trends編集部
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