一番やさしい「アナログ規制見直しの基本」自治体の6つの疑問に回答
急速な人口減少や人手不足が進む中、日本全国でデジタル化が加速しています。しかし、「目視での検査」や「対面での講習」などのアナログ的な手法——いわゆる「アナログ規制」が法令などに残ることで、デジタル化の恩恵を十分に実感できなかったり、デジタル化の推進が図られなかったりしています。
法令が制定された当時にはデジタル技術が十分に発達していなかったため、確認手段は対面や目視が前提となっていました。しかし、近年の技術革新によって、デジタル技術の活用で、これまで手間と時間がかかっていた手続きを効率化できる場面が増えています。
こうしたアナログ規制の課題を解消するために、国では2021年から法令や告示、通知・通達に含まれるアナログ規制の見直しを開始し、対象となった規制の見直し完了率は96%に達したと発表されています。
しかし、自治体が所管する条例等に残るアナログ規制の約6割は自治体独自の条例や規則によるもので、これらについてはそれぞれの自治体が見直しの取り組みを行う必要があります。デジタル庁 戦略・組織グループ参事官の川野真稔氏に、自治体職員が抱える疑問を伺い、アナログ規制見直しのステップや支援策について分かりやすくまとめました。
疑問1:アナログ規制って、そもそもどんなものなのでしょうか?
アナログ規制とは、法令などで定められた「職員が現地に行って目視で検査する」や「資格などの講習を対面で行う」といった、紙や対面、現地での対応を前提とした手法のことを指します。
代表的な規制は大きく7つに分類できます。具体的には、設備などが基準に適合しているのかを目視で確認することを定めた「目視規制」、人が現地で検査することを定めた「実地監査規制」、一定の期間ごとに検査することを定めた「定期検査・点検規制」、事業所などに資格者を物理的に常駐させるまたは専任者を置くことを定めた「常駐・専任規制」、資格などの講習を対面で行う「対面講習規制」、紙などの印刷物を事業所などに掲示することを定めた「書面掲示規制」、閲覧するときに役所などに訪問する必要があることを定めた「往訪閲覧・縦覧規制」があります。国では、これら7つに加えて、「フロッピーディスク等の記録媒体を指定する規制」もアナログ規制の一つとして取り上げています。
出典:デジタル庁
疑問2:見直すことで、どんなメリットがありますか?
アナログ規制を見直すことによって、自治体職員、市民、企業、それぞれの視点で次のようなメリットがあります。
市民【利便性の向上】
規制が見直されることで、市民の利便性を向上させることができます。例えば、これまで役所の窓口に出向き、長時間待つ必要があった対面が義務付けられていたような手続きもオンラインで簡単に完了するようになれば、市民は会社を休んで役所に行く必要がなくなり、生活の質が向上します。時間や場所に縛られずに手続きを完了させることもできます。
自治体職員【業務コストの削減】
アナログ規制の見直しによって、人手不足の解消や業務コストの削減につなげることができます。例えば、これまで職員が現地を訪問して行っていた検査業務にデジタル技術を取り入れることで、移動時間の削減が実現します。昨年8月に公表された「アナログ規制の見直しによる経済効果(中間報告)」(デジタル庁)によれば、各府省庁でのアナログ規制の見直しによって、GDPを3.6兆円押し上げる効果があると推計されています。
企業【新たなビジネスチャンス】
アナログ規制の撤廃や簡略化により、新たなビジネスチャンスが生まれます。自治体や政府のデジタル化が進むことで、企業が提供するデジタルソリューションの市場が拡大し、販路拡大や新規事業の創出につながる可能性があります。
デジタル庁 戦略・組織グループ参事官 川野 真稔氏
疑問3:現状の見直し状況はどうなっていますか?
まずは、各府省庁の見直し状況ですが、令和4年7月から見直しを開始して令和6年6月までに96%が完了している状況です。
一方、デジタル庁が令和6年4月に実施した調査によると、アナログ規制の見直し作業を実施中の自治体は全体の11%にとどまっています。
今後、デジタル庁では、各府省庁での取り組みの知見も生かしながら、3年間で過半数程度の自治体が見直しに取り組んでいる状態を目指しています。見直し自体はあくまで「自治」であり国が強制することはありませんが、条例や規則に対して見直しを行うことによって、自治体職員、市民、企業それぞれにメリットをもたらし、三方一両得の関係の実現が後押しされるため、ぜひ積極的に取り組んでいただければと思っています。デジタル庁としても、サポートしていきます。
疑問4:すでにアナログ規制見直しに取り組んでいる自治体の事例としては、どんなものがありますか?
自治体におけるアナログ規制見直しの事例は、多岐にわたります。
例えば、南相馬市では、これまで農作物の作付面積などを確認する際、職員が現地に出向いて調査を行っていました。しかし、衛星データを活用する仕組みを導入したことで、これまで数日間に集中し約300人を動員し行っていたような現地確認の回数や対象面積を大幅に減らすことができ、これにより調査にかかる負担が軽減され、業務全体の効率化が実現しました。
福井市では、事業者との契約締結において、以前は窓口で押印済みの書面を提出したり、郵送で収入印紙を貼ったりする必要がありましたが、規則を見直して電子契約サービスでの締結を可能としました。この取り組みの結果、職員と事業者双方の事務作業が効率化されただけでなく、収入印紙が不要になったことで、事業者にとっての経費削減にもつながっています。
また、福岡市では、市が管理する駐輪場を臨時休場する場合、それを知らせるために紙で掲示することが義務付けられていましたが、条例改正により、インターネット上での掲示も認められるようになりました。これまでは利用する住民が駐輪場に行ってからでないと休場であることを知ることができず不便を感じていましたが、この改正によって、事前にネット上で確認できるようになり、休場のときは自転車で行かないという選択ができるようになり、住民の利便性が向上しました。
これらの事例で使われている技術は、必ずしも最先端のものばかりではありません。オンライン会議やWebサイトへの掲示といった、一般的な技術が中心です。また、アナログ規制の見直しは、解決手段をデジタルに限定するものではありません。アナログも必要であれば、アナログを残すという判断もありえます。この取り組みの本質は、「デジタル“も”使えるようにする」、つまり選択肢を増やすことによって利便性の向上やコスト削減を実現する点にあります。
疑問5:アナログ規制の見直しに本格的に取り組むとなると一時的な工数増加が見込まれます。全庁的なプロジェクトとして始める場合、まずはどこから手をつけたらよいですか?
見直しに着手する際の一つ目のステップは体制構築です。まずは組織の意思統一や方針の策定を行います。
次の段階では、既存の規制を詳細に調査します。根拠となる条例や規則・手順書などの該当部分を特定し、整理を行っていきます。すでに体制構築が進んでいる自治体では、洗い出しから着手するケースもあります。
洗い出しが終わったら、規制の見直しの方向、そしてデジタル化を進める場合にはアナログに代わる手段の検討を行います。例えば、産後ケアの利用申請時にしていた「原本提示(=アナログ規制)」を「スマホで撮って送る」、「参集・対面」を原則としていた介護認定審査会を「Web会議で開催する」などが、その例になりますので、代替手段といっても難しく考える必要はありません。
最後に条例などを見直し、内容にあわせて運用を変更するというステップとなります。
疑問6:具体的な見直し作業のときに国から支援は受けられますか?
アナログ規制の見直しに踏み出すのはハードルが高いと感じている自治体も少なくないのではないでしょうか。
こうした自治体に向けて、デジタル庁ではさまざまな支援策を用意しています。各府省庁でのアナログ規制見直しの過程で得られたノウハウをもとに、自治体の状況に応じた支援を提供しています。
具体的には、支援は「一般型支援」と「個別型支援」の2つに分かれます。
まずは、一般型支援として、見直しの際に参考となる説明会やマニュアルなどを提供するとともに、年度末までに改正の用例集を示せるように準備しています。用例集については、アナログ規制に関する条項について、国や先行自治体の具体的な文言の見直し事例などを示し、自治体が条例等の見直しを行う際に参考にしていただけるようなものを検討しています。
一方、個別型支援では、より各自治体の個別の課題に沿ったサポートを受けることができます。この支援には、対象となる法令や規制の洗い出しの外部委託による支援や、対象となる自治体に担当のデジタル庁職員を設定し、直接的なサポートを行う仕組みが含まれます。このような個別型支援は、自治体ごとの課題やニーズに応じて提供されるため、より深いサポートを必要とする場合に適しています。個別型支援は随時募集が行われる形式となっており、令和6年度分の募集はすでに終了していますが、来年以降も継続していければと考えています。
これらの支援は国から自治体への支援という形ですが、採択自治体がそこで得た知見を近隣自治体へ広げていく流れにも期待しています。
これから見直しに取り組む自治体へのメッセージ
アナログ規制の見直しに取り組むにあたり、「どこから手をつけたらよいのか分からない」「推進部門の担当が少人数しかおらず取り組みの進め方に不安がある」といった声が聞かれることがあります。多くの業務を抱える中、手探りの状態で進めるのは難しいと感じている職員の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
デジタル庁としては、自治体職員の皆さんとしっかりコミュニケーションを取りながら見直しを進めていければと思っています。
例えば、「デジタル改革共創プラットフォーム」上のチャンネルでも、最新情報を入手したり、直接デジタル庁職員や先行自治体の職員に相談したりすることができます。そのほか、メールでのご質問・ご意見もいつでも受け付けておりますので、取り組みの中で壁にぶつかった場合や疑問がある場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
※地方公共団体と政府機関の職員であれば誰でも参加ができる、ビジネスチャットツールのSlackを活用したコミュニケーションプラットフォームです。デジタル改革共創プラットフォームにおける「#デジ_pj_アナログ規制の見直し」では、随時、国の取り組みに関する情報発信等を行っているほか、地方公共団体の皆様同士やデジタル庁職員との「直接対話型」のコミュニケーションが可能です。
お問い合わせ先
デジタル庁 地方アナログ規制見直し促進班
メール:rincho-local@digital.go.jp
最新情報
アナログ規制見直しに関する最新情報は、以下のURLからご確認いただけます。具体的な事例、国や地方自治体の成功事例を幅広くご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
グラファー Govtech Trends編集部
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