ユーザー視点に立ったウェブアクセシビリティの取り組み
Govtech動向

ユーザー視点に立ったウェブアクセシビリティの取り組み

2023.12.26 Tue

行政デジタル化を推進するうえで知っておきたいウェブアクセシビリティについて、デザインの専門家の視点で分かりやすく紹介します。今回は、ウェブアクセシビリティの継続的な改善を進めるグラファーのデザインエンジニアチームが、視覚障害(全盲)の瀬戸洋平さんにご協力いただいて実施したアクセシビリティのためのユーザーテストの様子をご紹介します。

なぜアクセシビリティのためのユーザーテストを実施したのか?

私たちグラファーの提供する行政向けのサービス「Graffer Platform」は、3,888万人の市民を対象に164の自治体に導入いただいているサービスです。

2018年に最初のサービスをリリースして以来、利用者からのフィードバックをもとに改善を進めてきました。その結果、多くの「分かりやすい」「使いやすい」という声をいただいています。しかしこれからさらに利便性の高いシステムを目指して開発を進める中で一つの課題となったのが、「必ずしもエンジニアチームの全員が、全盲の方や障害のある方などがサービスを利用しているリアルな様子を把握できているわけではない」ということです。利用シーンを想像することと、実際の利用シーンを見ることには、大きな違いがあります。

そこでメンバーの発案で瀬戸さんにご協力いただき、アクセシビリティのためのユーザーテストが実現しました。

ユーザーテストとは

ユーザーテストとは、ユーザーエクスペリエンス(UX)の改善などを目的に、サービスの利用者から直接的なフィードバックを得る場です。ユーザーがサービスを利用する様子を観察して、問題点を特定したり、意見を収集したりします。全体の流れとしては、目的の設定、参加者の選定、テストシナリオの作成、テストの実施、改善策の洗い出しといったステップで実施します。

今回のユーザーテストの概要

今回のユーザーテストでは、瀬戸さん自身のスマートフォン、PCから実際にオンライン申請を行っていただき、そのシーンをデザインエンジニアチームのメンバー全員で確認しました。

iPhoneを操作する瀬戸さん

iPhoneでは「VoiceOver」、PCでは「PC-Talker」というスクリーンリーダーで操作を進める瀬戸さん。スクリーンリーダーとは、スマートフォンやPCに表示された内容を読み上げるツールです。

テストのシナリオ

今回用意したテストのシナリオは、「Graffer スマート申請」で構築した簡単な申請ページから、実施に申請を行っていただくという内容です。申請を行うために必要となる、アカウント作成、ログインについても実施いただきました。

  • アカウント作成(入力項目:名前、メールアドレスなど)

  • ログイン(入力項目:メールアドレス、パスワード)

  • 申請(入力項目:日付、プルダウン形式、チェックボックス形式など)

得られたフィードバック

瀬戸さんが操作している様子から、多くの学びを得ることができました。その中でも、市民や事業者向けの申請フォームを作るときに役立ちそうな内容を2点ご紹介します。

PCを操作する瀬戸さん

① 説明文が適切でないと操作できない場合がある

入力項目のタイトルや補足文の内容が適切でない場合に、操作が止まってしまうことがありました。例えば、タイトルに「〜を選択してください」と記載されているにもかかわらず、実際の入力項目のラベルには「開始日」と記載されているようなケースでは、何を入力したらよいのか想像することができませんでした。同じ内容でもテキストと音声では違いがあり、音声の場合には分かりにくさがより明瞭になってしまうケースがあることが分かりました。

② 選択肢のパターンが決まっているときは自由入力よりも選択式のほうがよい

いくつかの選択肢の中から決まった項目を入力してもらいたいにもかかわらず、入力欄が自由入力の場合、操作を間違ってしまうことがありました。例えば、生年月日や学校の入学時期など、項目により入力する形式が決まっているものは、自由入力ではなく選択式のUI(プルダウン、チェックボックスなど)のほうが間違いが少なくなることが分かりました。

瀬戸さんの評価は?

ユーザーインタビューの最後に瀬戸さんから率直な感想をお聞きしたところ、「Graffer スマート申請は、全体的に他のサイトに比べて使いやすい」との評価をいただきました。「操作に困って申請できないという印象はなく、局所的に改善されるとさらに使いやすいと感じた」というコメントもありました。

デザインエンジニアチームのみんなで瀬戸さんの操作を見守る

参加したメンバーからの感想

今回のテストを通じて、メンバーからは以下のような感想が集まりました。

  • ウェブアクセシビリティに対応することが「誰のため」になるのか、具体的に実感できました。

  • エラーが発生すると、その解消に想像以上に時間がかかると分かりました。

  • 実装側からすると小さな違いが、利用者からすると大きな違いになると感じました。

  • 「決定ボタンをクリックするのが怖い」という気持ちが分かりました。

  • 「あのときこういう風に実装しておけばよかったな」と感じる箇所がいくつかありました。

  • 目が見えないことによって、1件申請するにもかなりの時間が必要になることが分かりました。

さいごに:今後の取り組みに向けて

今回のユーザーテストをもとに、チーム全体でユーザーのために何ができるかを深く考え、具体的な改善策を模索した結果、10件を超える実際の改善タスクを上げることができました。今後もこのような機会を重ねることで、より多くの市民にとって使いやすいシステムの開発につなげていきます。

ウェブアクセシビリティの向上は、より多くの市民が等しくデジタルを活用するために不可欠なものとなっています。さらに詳しく知りたい方は、デジタル庁の「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」でご確認いただけます。この記事が、今まさにデジタル化を進めている職員の皆様にとって、毎日の業務の中でアクセシビリティについて考えるきっかけになれば幸いです。

グラファー Govtech Trends編集部

Govtech Trends(ガブテック トレンド)は、日本における行政デジタル化の最新動向を取り上げる専門メディアです。国内外のデジタル化に関する情報について、事例を交えて分かりやすくお伝えします。

株式会社グラファー
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