リコーがAI駆動開発プログラムを本格展開〜2か月の開発工程を3週間で完遂、プルリクエスト数2倍へ〜

背景
・生成AIは業務効率化の分野で着実に成果を上げてきた。その一方で、ソフトウェア開発のあり方については、AIをさらに活用できる余地があった
・生成AIを前提に開発プロセスを変革できる企業と、そうでない企業の間で、今後決定的な差が生まれるという危機感があった
・「RICOH Quality」に基づく品質管理と、生成AIの自由度をどう両立させるかという課題が存在していた
成果
・AI駆動開発によって、2か月を要すると見込んでいたクラウド移行業務が、約3週間で完遂
・コード作成のスピードが向上し、プルリクエスト数が従来の約2倍に増加
・AIが実装を支援することで、より本質的な意思決定に注力できるようになった
AIを実装し、開発のあり方を根本から変える技術者集団へ
――今回、グラファーの「AI駆動開発プログラム」を導入したきっかけを教えてください。
橋本: グラファーの石井代表による講演を拝聴したことがきっかけです。リコーは1980年代からAIそのものの研究・開発に取り組んでおり、社内の業務改革においてもAIを積極的に取り入れるなど、技術活用を進めてきました。一方で、こうした取り組みは従来の延長線上にあるものが中心で、ソフトウェア開発のあり方そのものをAI前提で抜本的に再構築するという領域には、まだ進化の余地があると感じていました。
当時、企業での生成AI活用は成熟しきっておらず、多くの企業が事務業務の効率化といった限定的な用途に留まっている状況でした。しかし、生成AIを前提に開発プロセスそのものを変革できる企業と、そうでない企業との間には、決定的な差が生まれるはずです。この変化に迅速に適応するため、開発の思想・プロセス・人材育成を一体でアップデートする必要性を強く感じたことが、AI駆動開発プログラム導入を検討する直接的な動機でした。
――伝統的な開発体制を持つ御社において、導入に向けた懸念点などはなかったのでしょうか。
橋本:「RICOH Quality」という言葉があらわすように、当社には長年磨き上げてきた、標準化された品質管理プロセスがあります。当初は、この厳格な品質基準と、自由度の高い生成AIをどう調和させるべきかという点に懸念がありました。
しかし、実際に踏み込んでみると、AIはルールが明確であればあるほど、その基準を忠実に守り、的確なアウトプットを返してくれることが分かりました。我々が守り続けてきた高い基準やプロセスこそが、AIを正しく使いこなすための強力な指針になると気づいたとき、開発に対するマインドセットも大きく変わりました。

リコーデジタルサービスBU デジタルビジネスイノベーション本部 本部長 橋本 泰成様
――数ある選択肢の中で、なぜグラファーのプログラムを選ばれたのでしょうか。
橋本:最大の決め手は、グラファー社が提唱する「AI駆動開発」が単なる理論や思想にとどまらず、自社の開発組織で実践され、継続的に成果を出し続けている点でした。
当社においても、生成AIを活用した開発手法については独自に試行錯誤を重ねていました。しかし、個別最適の取り組みだけでは、開発のあり方そのものを変革するには限界があります。グラファー社が実践の中で磨き上げてきた「型」を体系的に理解することで、組織全体としての変革スピードを飛躍的に高め、成果を最大化できるのではないかと考えました。
2か月が3週間に短縮。プルリクエスト送出数は2倍に
――研修を通じて、現場にはどのような変化がありましたか。
橋本:想像以上に大きなインパクトがありました。特に印象的だったのは、受講したエンジニアたちが目を輝かせ、生き生きと開発に取り組むようになったことです。彼らが口をそろえて「この圧倒的なスピードを一度体感してしまうと、もう以前のやり方には戻れない」と話していたのも、研修の効果を示していると感じます。
――開発業務での具体的なエピソードがあれば教えてください。
行本:既存のローカルアプリケーションをAWS環境へ移行する業務について、当初は2か月程度の工数を見込んでいましたが、結果的には約3週間で完遂できました。AIエージェントを活用し、設計のたたきからテストまでを半自動化し、エンジニアがゼロからコードを書く時間を極限まで削ぎ落としました。

リコーデジタルサービスBU デジタルビジネスイノベーション本部 共創ビジネスセンター ソリューション事業室 ワークプレイスSEグループ 行本 礼嗣様
――研修後、開発スピードや生産性にはどのような変化が見られましたか。
木村:目に見える変化として、コードを書く速さが格段に上がり、プルリクエスト(PR)の数は以前の2倍に増加しました。開発スピードが上がったことで、チームの動き方はこれまでとは大きく変化しています。
有賀: 研修での対話を通じてAIエージェントの使いこなし方も洗練されました。 グラファーとの1on1などで得た視点を通じて、各個人の活用レベルがよりプロフェッショナルな段階へと進化しています。AIが実装フェーズを強力に支えてくれる分、人間はチーム間の連携やアーキテクチャ設計など、より創造的な意思決定に時間を割けるようになっています。

研修は「興奮して眠れない」ほどの衝撃。現場から自律的な変革が始まる
――プログラムを終えて、率直な感想をお聞かせください。
橋本: 正直なところ、最初は「本当にそんな劇的な変化が起きるのか」と半信半疑な気持ちもありました。しかし、成果報告会でのメンバーの姿を見て、その疑念は吹き飛びました。皆、極限まで集中して取り組んだあとの疲労感はあるはずなのに、それ以上に「興奮して眠れない」と目を輝かせて語る。エンジニアがここまで強い手応えを感じている姿を見るのは、本当に久しぶりでした。
研修後のチームの変化も印象的でした。上司が指示を出す前に、現場から「こんな学びがあった」「体制をこう変えたい」といった提案が自発的に上がるようになりました。マネジメントの重要な役割は、細かく指示を出すことではなく、エンジニアが主体的に動ける環境を与えることだと感じています。

――現場では、研修をどのように受け止めていますか。
有賀: これまでも生成AIを使う場面はありましたが、それはあくまで「個人が便利なツール」として活用するレベルに留まっていました。一方でこのプログラムは、「チームとして開発の進め方をどう変えるか」に焦点を当てたものです。「AIで何が変わるのか」と様子見をしていた組織が、一気に「活用を前提に考える」フェーズへと移行する転換点になったと感じています。

リコーデジタルサービスBU デジタルビジネスイノベーション本部 アセット開発センター トレードエコシステム開発室 トレードソリューション開発グループ 有賀 涼様
――実際に手を動かす中で、どのような手応えや発見があったのでしょうか。
木村: 研修中は、あえて既存の慣習や前提条件に縛られず、「圧倒的なスピードでデリバリーすること」に集中しました。その結果、「AIをフル活用すれば、ここまで開発速度を引き上げられる」という現実的なシミュレーションを体験できたことは、大きな収穫でした。
AIが発達する中で、開発速度がさらに向上していくことは間違いありません。そのときに何がボトルネックになるのか、どんなスキルや体制が必要になるのか。こうした未来を具体的にイメージできたことで、チーム全員が自分事としてとらえ、次の行動を考え始めるきっかけになったと感じています。

リコーデジタルサービスBU デジタルビジネスイノベーション本部 GD-PT プロダクト開発グループ 木村 耕治様
開発の重心が、コーディングから設計・ユーザー理解へ
――生産性が向上した一方で、新たに直面している壁などはあるのでしょうか。
木村: AIによってコードが次々と生み出される一方で、それをチェックする人間側のプロセスがボトルネックになり始めています。そこで、1チームあたりの人数を絞ることで意思決定のスピードを上げ、レビューの停滞を防ぐといった、AIの速度に合わせた小回りの利く体制づくりを試行錯誤しています。
また、若手エンジニアにとっては、設計能力の習得が急務になっています。これまでは数年かけてコードを書く経験を積みながら設計を学んでいましたが、AIを使えば若手でもある程度の実装を行えてしまいます。実装をAIに任せられるようになった分、キャリアの早い段階から、システム全体の構造や整合性といった概念を理解し、判断する力が求められています。
現在はチームで設計に関する勉強会を開くなど、スキルの底上げを急いでいます。以前は「どの言語でどう書くか」といった議論が中心でしたが、今は設計へと重心が移った印象があります。

――20年以上開発に携わってきた行本さんは、こうした現場の変化をどう見ていますか。また、AI駆動開発を継続する上での課題は何でしょうか。
行本: コードを書くことのハードルが下がった一方で、チームとしての整合性を保つ難易度はむしろ上がっています。生産性が上がるほど、成果物同士のコンフリクトやレビュー待ちが増え、そこが新たなボトルネックになります。
また、AIが高度なコーディングを代行してくれる状況においても、その背後にある設計意図や全体構造を理解して、最終的な判断を下すのは人間です。エンジニア一人ひとりが判断の質を高めていくことが、これからの開発組織の競争力を左右するのではないかと考えています。
「“はたらく”に歓びを」の体現。リコーグループ全体へ波及する、創造的な開発の未来
――現場では今後はどのような「AI駆動」の形を目指していきたいですか。
木村:チームとして「AI駆動開発」を継続的に実践し、その知見を社内に還元していける存在になりたいと考えています。個人としても、AIの導入によって、これまでより早い段階でアーキテクチャを含む設計全体を意識する機会が増えました。今後はより幅広い知識を吸収しながら成長し続けていきたいと考えています。
行本:テスト駆動開発(※)をAIと組み合わせを検討したいと考えています。AIは時に過剰なコードを生成することもありますが、先にテストコードを定義することで、期待する振る舞いが明確になり、無駄の少ない、より堅牢な実装につなげていけるのではないかと思います。
(※)テスト駆動開発とは、求める振る舞いを先にテストコードとして定義し、それを満たす形で実装を進める手法です。
また、AIとの対話は学習スピードを大きく引き上げてくれます。AIを実装の補助だけでなく教育のパートナーとしても活用することで、チーム全体の技術レベルを底上げしていけるのではないかと考えています。
有賀:リコーには、全国の支社を通じてお客様の課題を深く理解しているという強みがあります。これまでは実装に追われて余裕がなかった部分に、AIを活用することで、その分「お客様が本当に困っていることは何か」を考える時間に充てていきたいと考えています。
――今回のAI駆動開発の実践は、今後の開発の進め方や、リコーグループの組織づくりにどのような影響を与えていくと考えていますか。
橋本:今回の取り組みを通じて、AIを前提にした開発の進め方が、現場で十分に機能することを確認できました。今後は、この実践で得られた知見を、リコーグループ全体へと段階的に広げていきたいと考えています。
たとえば、これまで1年かかっていたプロジェクトを3か月で完遂できるようになれば、単に速度が上がるだけでなく、試行錯誤の回数が増え、プロダクトの質そのものも高まります。このような成果は、事業競争力や顧客満足にも確実につながっていくはずです。
リコーには、1977年にOA(オフィスオートメーション)を提唱し、「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動すべきである」という考え方があります。また、企業理念の使命と目指す姿として「“はたらく“に歓びを」を掲げています。AIによって定型的な作業から人を解放し、より価値の高い仕事に集中できる環境をつくることは、これらの理念を現代の技術で実装する取り組みだと考えています。
今後はグループ内に限らず、開発パートナーや外部の先進企業とも積極的に連携しながら、学びを取り入れ、進化を続けていきます。自律的に学び、自ら開発のあり方を変えていける組織として、より大きな価値を社会やお客様に提供していきたいと考えています。

※文中の敬称略。撮影時のみマスクを外しています。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。
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「Graffer AI駆動開発プログラム」は、生成AIを開発プロセスのコアに統合し、組織全体の生産性を抜本的に向上させるための伴走型支援プログラムです。ツール活用スキルの習得に留まらず、要件定義から設計、実装、テストに至る開発ライフサイクル全般をAI前提でアップデートする「実践的な型」を組織に定着させます。AIとエンジニアが共創する次世代の開発体制を構築することで、変化の速い市場におけるデリバリー速度の最大化と、事業競争力の強化を支援します。
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